2020年12月 No.111 

特集 水害対策とプラスチック レポート 2

アキレス㈱の防災製品

水害救助用ボートやコロナ対応製品も。「靴のアキレス」が生み出す注目アイテム

写真:アキレス㈱の防災製品

 大型台風などの水害で移動が困難となった人々を搬送するオレンジ色の救助ボート。その多くが、アキレス㈱(伊藤守社長、本社東京都新宿区)の技術力から生み出された製品であることは、知る人ぞ知る事実です。同社が力を入れる防災製品の中から、コロナ禍で注目が高まる感染症対応製品も含めて、注目のアイテムをご紹介します。

水害現場で活躍する「アキレスのボート」

 生活・レジャー用品から建築資材まで、ゴムやプラスチックを素材に多彩な製品を展開しているアキレス。ジュニアスポーツシューズ「瞬足」の大ヒットなどで、靴が主力の会社と思われがちですが、実は防災製品も同社の重要品目のひとつ。中でも、60年の実績を有する救助用ボートは、市場の約7割を占める主力製品で、毎年のように繰り返される台風やゲリラ豪雨水害の現場において、多くの人々の命を救うために活躍しています。
 「当社がレジャー用ゴムボートを作り始めたのは1960年ごろ。その後、船外機(エンジン)付きの本格的なものが消防署の救助用に採用されるようになったことなどから、改めてレスキュー専用のボートを作り始めた。FRB380は、2004年の新潟県三条市水害で、家屋に取り残された人々の救助活動を契機に開発された第1号艇で、その後、2011年の東日本大震災による津波災害の経験から、障害物の多い水害現場でも、より強く安全に使えるよう製品の改良が進んだ」(引布販売部の久昌貫之部長)

丈夫で使いやすい、コンパクト設計

 現在では、市町村の消防署や各県警察、自衛隊など、全国各地で同社の救助用ボートが利用されています。それぞれの活動内容や現場のニーズに応じて、重量、定員、船外機の有無など、様々なグレードのボートが開発されていますが、標準性能としては、劣化しにくいCSMゴム製の引布(ナイロンやポリエステルの生地にゴムを貼り合わせた複合材料)を使用した頑丈な船体、専用のブロアー(送風機)で短時間に(2〜3分)展開できる組み立てやすさ、折り畳んで収納できるコンパクト設計、などが主な特長。
 最近は、会社や工場などが備蓄するケースも多く、救助の専門家以外の人でも扱える、エンジンを使わない機種の需要が増えているとのことです。

写真:FRB380
写真:RJB380
左はベーシックアイテムのFRB380(6人乗り)。船尾に船外機(エンジン)を取り付ける。
右は船外機の使用できない状況で活躍する、手こぎ式のRJB380(6人乗り)。

ウイルスの拡散・侵入を防ぐ「陰陽圧エアーテント」

 以下の2つは、新型コロナウイルスの世界的流行により脚光を浴びている製品です。そのひとつが、塩ビターポリンをメイン素材とした「感染症対策用陰・陽圧エアーテント」。独自の2重天幕方式の採用により高い気密性を実現した製品で、エアーテント内部の気圧を陰圧、陽圧にコントロールして、ウイルスの拡散(陰圧時)、侵入(陽圧時)を防止します。
 空気注入式なのでフレームの組立不要。緊急時にスピーディーな設営が可能(テントの立上げに約3分、機材の設置を含めて15分程度)、折り畳んで収納・保管できるコンパクト設計、充実した装備(0.3ミクロン浮遊物の除去率99.97%の空気清浄機を標準装備。雨水の浸水を防ぐ防水壁付き等)、など使い易さを考えた設計が特長ですが、2重天幕の効果で断熱性も高く、冬の寒さ、夏の暑さが大幅に緩和されるのも大きなメリットです。
 「この製品は2003年のSARS流行時に開発したもの。2009年の新型インフルエンザで普及が広がり、既に3000件を超える出荷実績がある。今回のコロナ禍では、4月頃から引き合いが出てきて、5月から増産体制に入ったが、中には、備蓄していたものを使っているケースも多い。感染症の流行に備えて用意しておくという、製品本来の役割がちゃんと機能している証拠で、開発担当としてうれしく思う」(久昌部長)
 この10月には、PCR検査時の医療従事者の安全性に配慮した改良型も発売されています(下の図)。

写真:NPI-66
改良型の「NPI-66」。透明塩ビフィルムの仕切り幕でテント内を2つのゾーンに分けることにより、PCR検査時の医療従事者を飛沫感染から保護する。

透明で燃えにくい「飛沫防止フィルムⅡ」

 コロナ禍の広がりで、プラスチックのカーテンや衝立を挟んで人と人とが対面するシーンが増えています。「飛沫防止フィルムⅡ」も、そんな飛沫感染防止に特化した製品で、高度な防炎性能(公益財団法人・日本防炎協会認定。消防法施行令第4条の3に適合)と透明性(光線透過率80%以上)を付加した点が最大の特長。ハサミやカッターで簡単にカットでき、使用環境に合わせて自在に加工できるのもポイントです。

写真:取材にご協力いただいた皆さん(中央が小川課長)
製品規格は厚み0.3mmx幅137cm。表面にはプリントマーク「防炎フィルム・アキレス」が透明色で印字されており、ひと目でアキレス製であることが分かる。

 「コンビニなどの間仕切り販売が話題になった当初は、透明塩ビフィルムであれば飛ぶように売れたが、一方で消防法に準拠した防炎性能の必要も早くから指摘されていた。そこで当社の得意分野である防炎技術を生かして開発したのがこの製品。4月の発売以降、様々な形で利用されている」(フイルム販売部の鈴木浩介フイルム課長)。
 執行役員の根岸康夫氏(北米・引布販売部担当)は、「飛沫感染防止は今や世界的な課題。コロナ対策用として塩ビフィルムの使用が欧米でも増えているが、その背景には塩ビの柔軟性と透明性に対する高い評価がある。コロナに限らず災害不安の多い時代だが、当社では、水害対策も含めて今後も防災分野に力を入れ、企業の社会的責任を果たしていきたいと考えている」としています。

写真
右から、久昌部長、執行役員の根岸氏、執行役員の越智久生氏(化成品事業部長・フイルム販売部長)、鈴木課長

アキレス株式会社

 1907年に設立された織物の製造販売会社「殿利織物会社」を前身とする。終戦直後から、布靴や総ゴム靴、ゴム引布製品の製造に着手し、興国化学工業株式会社の設立(1947年)を機に事業を本格化。1948年には塩ビ製品の製造・販売を開始した。1982年 社名を「アキレス株式会社」に改称。ゴムボートや靴、フィルム、床材、壁材、断熱資材など、製造・販売する製品は多岐にわたる。防炎性の透明塩ビフィルムを使った間仕切り「スカイクリア防炎&Ziptrak®ロールスクリーンシステム」は、「PVC Award 2019」の準大賞受賞製品。