2020年12月 No.111 

特集 水害対策とプラスチック レポート 1

前澤化成工業㈱の水害対策製品

ゲリラ豪雨から街を守る!「流域治水」の土台を支える注目の製品群

写真:ゲリラ豪雨から街を守る!「流域治水」の土台を支える注目の製品群

 ゲリラ豪雨による都市水害を防ぐため、街の中では様々な塩ビ製品が活躍しています。前澤化成工業㈱(窪田政弘社長、本社東京都中央区)も、そんな製品を開発し続けているリーディングカンパニーのひとつ。上・下水道設備の開発に取り組んで70年。その技術力から生み出された水害対策製品は、国が進める「流域治水」の土台を、ガッチリと下支えしています。埼玉県の同社熊谷第一工場で、その最新動向を取材しました。

水分野のパイオニア

 前澤化成工業は日本で初めて水道用無可塑成形塩ビ継手を製造したことで知られる、水分野のパイオニア。
 同社がこれまでに開発してきた製品は、上下水道用塩ビ管・継手をはじめ、水道メーターを収納する量水器ボックスや庭先でお馴染みの水栓柱・水栓パン、優れた施工性で「宅地内の排水システムに革命をもたらした」とされる「ビニマス®」、軽量・コンパクトで大ヒットとなった塩ビ製小型マンホール「ビニホール®」など多岐にわたり、まさしく「水分野のパイオニア」と呼ぶにふさわしい充実ぶりを呈しています。

豪雨時の逆流を防ぐ「弁付きマス」

 その多彩なラインナップの中でも、年々重要性を増しているのが、都市水害対策を目的とした製品の数々。同社では、ゲリラ豪雨による被害が深刻化した10年ほど前から水害対策分野の開発を加速しており、塩ビ製雨水マス・雨水浸透マスなどの基本アイテムに加えて、技術力とアイデアを生かした斬新な製品を次々に開発してきました。

写真:「弁付きマス」(下段)と
「後付け逆流防止弁」(右の上下2タイプ)
「弁付きマス」(下段)と「後付け逆流防止弁」(右の上下2タイプ)
写真:「後付け逆流防止弁」の設置イメージ
「後付け逆流防止弁」の設置イメージ

 その一つが、マスに逆止弁を内装した「弁付きマス」。大雨の時に下水本管に流れ込んだ大量の水が家屋内に逆流して、トイレやキッチンの排水トラップから噴出する、といった被害をきっちりとガードするスグレモノです。通常時の排水機能を維持しつつ、豪雨などによる逆流時には、水自体の圧力で内部の弁が閉じ、その侵入を防止する仕組みで、2010年の発売以来、一般住宅やマンションの下水管路、自治体の公共マスなどとして幅広く利用されています。
 また、関連する製品として、1年前に発売された「後付け逆流防止弁」も注目度上昇中の新製品。既設の汚水・雨水マスに逆止弁を後付けできるように工夫したもので、ワンタッチで簡単に取り付けられる上、ゴムパッキンが強力に密着して、抜けにくく、高い逆流防止性能を発揮します。

写真:陰圧フィルターシステム
こちらは、雨水の逆流でも外れたり紛失したりしないマス用の「圧力開放蓋」。
逆流時、下水道本管から内部空気圧・水圧が加わると、内側の小蓋が浮き上がり、圧力を逃がすことで、蓋の離脱を防ぐ。

雨水コントロールの理想型「レインキューブ」

 一方、「雨水コントロールの理想型」をキャッチフレーズに、2009年に発売されたのが、雨水貯留浸透ユニット「レインキューブ」。キューブ型のユニットを組み合わせて地中に埋設し、雨水の貯留と浸透をコントロールする製品で、水害の軽減と同時に水資源の循環にも役立つことが期待されます。主に宅地内での雨水処理のために開発されたものですが、従来、浸透マスを施工する時に必要だった砕石(マスの周囲に充填する)が不要なので、短時間で均一な施工ができる、下部ユニット(左下の写真)の組み合わせを変えることで、ボックス型やL字型など、敷地の条件に合わせて形状を自在に変更できる、必要な浸透量に合わせてキューブの数を調節できる、軽量かつ強度に優れ、空隙率88%以上と、十分な貯水量を確保できる、などメリットが多いことから、戸建て住宅だけでなく、ゴルフ場のバンカーの水はけ対策などに利用されるケースも増えています。
 「都市開発が進んだ結果、地中に雨水が浸透しにくくなり、降雨量の増加も伴い、内水氾濫など様々な被害をもたらすようになった。そうした被害を少しでも減らしていく上で、貯留浸透施設の役割は大きい。近年は自治体も、雨水をできるだけ宅地内で処理するようにしていくという方向で動いており、貯留浸透施設の設置費用の一部を補助する自治体も多くなっている」(営業R&D課の小川雄平課長)。

写真:雨水コントロールの理想型「レインキューブ」
写真:雨水コントロールの理想型「レインキューブ」
「レインキューブ」は、再生PP製の下部ユニット(キューブ)、塩ビ製の上部マスと立上がり管、フタで1セット。下部ユニットは、高さ60㎝と30㎝の2タイプがあり、設置する時は透水シートを巻いて埋設する。地表に出るのは掃除口となるフタの部分だけなので、景観を損なうことなく、狭小地にも設置可能。再生PPを使用したエコ製品であることも、高評価のポイント。

徹底した現場主義と緊密な社内連携

 「水害対策製品に対する社会的ニーズは、今後ますます高まっていく。当社では豪雨や浸水被害のニュースに注意するだけでなく、営業を通じて、市場からのニーズが上がってくるよう常に気を配っている。営業が汲み上げたユーザーや工事店、販売店等の声を、開発部門が共有して製品化に役立てるというのが当社の強みで、場合によっては、開発担当者が営業に同行して設置現場の状況を細かくチェックするといった作業も行っている」(小川課長)
 徹底した現場主義と社内の緊密な連携。今回取り上げた水害対策製品も、そんな企業風土の中から生まれたものと言えます。

写真:取材にご協力いただいた皆さん(中央が小川課長)
取材にご協力いただいた皆さん(中央が小川課長)

前澤化成工業株式会社

 1937年、昭和製作所として創業。創業者は前澤慶治氏(故人)。1947年、前澤バルブ工業㈱設立。1953年、社内に樹脂部門を立ち上げ塩ビ樹脂の研究開発に着手。翌年、樹脂部門を硬質塩ビ工業㈱として分離独立させるとともに(1961年、前澤化成工業に改称)、わが国初の水道用塩ビ継手(KM継手)の製造・販売を開始。以降、安全・安心な水の供給と排水処理に欠かせない様々な上下水道関連製品を世に送り続けてきた。
 同様に前澤バルブ工業を前身とするグループ会社に前澤給装工業㈱、前澤工業㈱があり、グループ3社の連携で、快適・安全な住環境の向上に貢献している。

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