2006年12月 No.59
 
進化する、光和精鉱の廃棄物リサイクル事業

独自の塩素利用技術生かし、溶融飛灰の資源化に着手
新たな塩ビリサイクル構想も


 光和精鉱(株)(北九州市戸畑区中原46−93、新日本製鐡(株)戸畑構内/TEL.093-872-5155)は、廃棄物中の重金属を再資源化する独自の「塩化揮発ペレット法」で知られるリサイクル会社。使用済み塩ビの有効利用に見るユニークなアイデアなど、“処理すればするほど資源を生み出す”リサイクルをめざして進化し続ける、同社の現状と将来展望。

●メインは産廃処理と高炉用ペレット製造
平成14年にリニューアルされた産廃焼却炉
 日本壁装協会では、平成15年度から、「壁紙リサイクルモデル事業」に取り組んでいます。当初からゼロエミッションとして、塩ビ壁紙を有効利用できる最終処理施設である光和精鉱に処理を委託して、システムの構築を行ってきました。今後はリサイクル率を更に高め、適正なコスト管理を行っていきたいと考えております。
有限責任中間法人日本壁装協会
  光和精鉱は、製鉄の原料となる高炉用ペレット(酸化鉄を直径約15mmの小球に焼成したもの)と工業用硫酸の製造、さらに使用原料中に含まれる非鉄金属(金、銀、銅、鉛、亜鉛など)の回収を目的として、新日本製鐡梶A同和鉱業(株)(現DOWAホールディングス(株))などの共同で昭和36年に設立されました。
  その後、昭和62年からは専用の焼却設備を設けて産業廃棄物のリサイクル事業に本格参入。現在は、硫酸の製造はストップしていますが、産廃処理と高炉用ペレットの製造を2本柱に、非鉄金属の回収と溶融飛灰の資源化(後述)などのラインを組み合わせた一大リサイクル事業を展開しており、特に産廃の処理に関しては平成14年6月に既設の焼却設備を全面更新して、月量2万トンを超えるゼロエミッション処理を実現。日本壁装協会を中心とする塩ビ壁紙のリサイクル事業(別掲参照)も同社との連携で進められています。
  冒頭で触れた塩化揮発ペレット法とは、金属酸化物を塩化すると揮発しやすくなる性質を利用した製錬技術の一種で、高炉用ペレットの原料となる製鉄ダスト中の非鉄金属類を高温で塩素と反応させ、塩化物のガスとして分離回収します。塩素利用技術という意味でも世界に例を見ないもので、塩ビ壁紙もその塩素源のひとつとして有効活用されています。

●新たな柱−飛灰処理の「北九州モデル」とは
小寺社長
 光和精鉱では今年(2006年度)から新しい中期3年計画に着手しており、その目玉となるのが、一般都市ごみの溶融飛灰資源化の取り組みです。同社・小寺八郎社長の説明。
  「一般都市ごみの処理については、焼却炉の大型化、溶融炉の導入などでダイオキシン類も含めて殆どが無害化されているが、重金属類の凝縮体である飛灰の処理だけは依然キレートで不溶出化処理したのち埋立処分が行われており、最終的な課題になっている。今日明日の問題はないとしても、孫・子の時代まで長い目で見た場合、ほんとうに埋立処分でいいのか、なんとか飛灰を無害化しリサイクルする方法はないのかを、5年の期間をかけて準備してきた」
  同社では、事業化に際して、北九州市と早稲田大学の永田勝也教授の研究室、新日鐵(株)グループを中心に、その他の自治体の参加も得て研究会を組織。飛灰を安全に処理してリサイクルしていく上での理想的な仕組みについて検討を重ねた末、回収から運搬、処理、リサイクルまでを含む一連のスキームを完成しています。
  このスキームは「北九州モデル」と呼ばれるもので、技術的には、飛灰を塩酸に溶かして重金属類を抽出するほか、従来の塩化揮発法も組み合わせて、“塩素に強い光和精鉱”の強みを存分に生かしているのが、大きなポイント(下図参照)。
  また、運営面では、早稲田大学が第三者機関としてシステムの検証に当たり、「排出した自治体にとってリサイクルの点でもLCA的にもよりよい状態になっていることを検証することでスキームの形骸化を防いでいる」(小寺社長)のも特徴のひとつです。
  同社では、既に今年2月、一般廃棄物処理施設の許可を北九州市から取得して月500トン規模の営業運転を開始しており、福岡県の宗像市と大分市の分に一部産業廃棄物系の飛灰も加えて処理を行っています。
  さらに、現在の設備の能力を月3200トンに引き上げる増強工事も進行中で、来年4月からフル操業に入る予定。工事は、福岡県のリサイクル施設整備費補助事業にも認定されており、地元の北九州市だけでなく県としても飛灰の資源化に大きな期待をかけていることが分かります。


●塩ビリサイクルの将来構想
光和精鉱の関係者の皆さん
 一方、北九州モデルでは、前述のとおり塩酸の利用がキーポイントとなることから、いかに安価で品質の良い塩酸を入手できるかがコスト面で重要な課題となっています。このため、溶融飛灰の資源化に続く新しい事業として現在検討されているのが、塩素系廃棄物のリサイクル処理構想です。使用済み塩ビや塩素を含む廃油などから塩素分を塩酸として回収し飛灰の資源化に活用するほか、焼却残渣は塩化揮発プロセスで利用しようというもので、同社では、平成21年度中に月量3000トン規模の設備を完成し操業に入る計画。
  「せっかく新しい産業廃棄物の処理施設を作るというのに、今までと同じものを作ったのでは進歩もないし面白くもない。単に廃棄物を処理するのでない、処理すればするほど資源を作り出す、そんな施設を作りたい。その目玉となるのが塩酸であり、バージンの塩酸や廃塩酸だけでなく、塩ビ系廃棄物を活用した違う形の塩酸を利用していく。その意味で塩ビは我々にとって不可欠な資源そのものといえる」(小寺社長)。
  2006年から3年間は飛灰の資源化を軌道に乗せ、次の3年で飛灰処理に必要な素材を生み出すプラントを作り、既存の産廃処理と併せた3事業の連携で塩ビのリサイクルを進める、というのが同社の将来構想で、小寺社長は、「このスキームが完成すれば、日本にない、ほんとうの意味で差別化された、非常に有用な産業として我々は存在できる。塩ビ業界にも、ぜひこの夢を共有してもらいたい」と語っています。


光和精鉱 溶融飛灰資源化事業に関するコメント

早稲田大学理工学術院 教授
早稲田大学環境総合研究センター 所長
早稲田大学環境総合研究センター 溶融飛灰資源化研究会 代表
永田 勝也  

  平成14年度に実施した光和精鉱での溶融飛灰資源化の実証試験では、環境負荷、再生品の品質等の一連のプロセスにおいて溶融飛灰が適切、かつ効果的にリサイクルされているかを検証した。また、平成17年1月からは、性状の異なる溶融飛灰に対し、技術的な側面のみならず、自治体間ルールの有効性の検証も含めた実証試験を実施した。以上の結果より、環境保全性・資源循環性の観点からの当該システムの有効性や、広域輸送の点から自治体間の連携・安全管理等の協調体制が構築されていることを確認した。今後の課題として、LCA的観点から前処理工程での塩酸使用に伴う環境負荷の低減が望まれる。塩素系廃棄物からの塩酸の回収は、こうした方向性に合致するものであり、システムの確立が期待される。