1998年3月 No.24
 
 

  日鉱三日市リサイクルの廃自動車シュレッダーダスト焼却処理実験
   亜鉛製錬技術の応用で重金属を再資源化。高度のダイオキシン対策、塩ビも安全処理

 

   自動車や家電のシュレッダーダスト処理の問題が注目を集める中、自動車のシュレッダーダストを焼却して有価金属を回収、再資源化するというプロジェクトが現在進行中です。全国でも唯一の事例、日鉱三日市リサイクル株式会社(富山県黒部市天神新8番地。TEL. 0765-52-1113)の取り組みをご紹介します。  

通産省のRMP構想に参画

  シュレッダーダストとは、廃家電や廃自動車などから鉄のスクラップなどを取り除いて破砕したものです。日本では現在、年間約120万トンほどのシュレッダーダストが排出され、埋め立て処分されていますが、その際、鉛などの重金属成分が土中に溶出する危険があるため、平成8年4月からは管理型処分場への埋め立てが義務づけられたものの、これも本質的な重金属対策とはならず、重金属の回収技術の開発が急務となっています。
  こうした状況を受けて、通産省ではより完全な金属回収技術とその再利用技術の開発をめざしてRMP構想(リサイクル・マイン・パーク構想。鉱山技術を活用した金属資源のリサイクル技術開発研究)を提唱し、平成8年度から技術開発プロジェクトが開始されました。
  今回取り上げる日鉱三日市リサイクル社の取り組みも、同プロジェクトへの参画という形で平成8年11月から実験が進められているもので、主に自動車のシュレッダーダストを焼却して、その焼却灰と飛灰から亜鉛(蒸留亜鉛)、銅、鉛などの有価金属を回収して再利用する技術を開発するのが狙いです。
  シュレッダーダストを焼却処理しようという試み自体、これまでほとんど前例のない画期的なものと言えますが、自動車部品の多くに塩ビが使われていることを考えれば、塩ビ業界としても、塩ビ廃棄物の焼却処理技術とその重金属対策のモデルとして、同社の取り組みは大いに注目したい動きと言わねばなりません。

 

■ 月700トンのシュレッダーダストを処理

  日鉱三日市リサイクル社は、もともとは日鉱亜鉛Mとして亜鉛の製錬を行ってきた日鉱金属のグループ企業ですが、亜鉛の1次原料である硫化亜鉛のうち約50%を占める輸入鉱の値段が為替の影響を受けやすいことなどから、より基盤の安定した事業を求めて、平成7年11月1日から現社名に転換。亜鉛製錬技術を生かした産業廃棄物の焼却処理と2次原料(メッキ工場から出る集塵灰など)からの蒸留亜鉛の生産、有価物の回収などを主体とするリサイクル企業として再スタートを切りました。同社がRMPプロジェクトに参加したのも、こうした事業の中で蓄積してきた産廃処理と金属リサイクル技術と設備、そして豊富な知識を有効に活用できるからにほかなりません。
  同社の産廃処理施設は、廃棄物処理工程と資源リサイクル工程の2つから成っており、RMPプロジェクトのシュレッダーダスト焼却処理実験も、この設備を利用して産廃処理の中に組み込まれる形で行われています(図参照)。

  焼却炉は現在のところ1基で、ストーカー式の一次燃焼室と円筒縦型の二次燃焼室を組み合わせた回転床炉が用いられており、ここで廃プラスチックや廃液などの産業廃棄物、それにシュレッダーダストを1,100℃〜1,200℃の高温で混合燃焼した後(産廃処理工程)、焼却灰と飛灰を焼結機に運んで焼き固め、コークスで還元して、亜鉛とその他有価金属の回収が行われます(リサイクル処理工程)。
  処理量は産廃処理が1カ月約2,000トン(可燃物1,000トンと、その焼却熱を利用した廃液類の処理1,000トン)で、シュレッダーダストは約700トン。また、蒸留亜鉛は月1,200トンの生産能力を持っていますが、現在は800トン程度となっています。
  可燃物1,000トンの中には約200トンの廃プラスチックも含まれていますが、そのほとんどはシート、床材、壁紙などの建築廃材で、他にOA機器関係の廃材が少々。樹脂の種類としては塩ビやポリエチレン、ウレタン系のものが多く、これらは比較的熱量の少ないシュレッダーダストの助燃剤という意味が大きいようです。

■ 排ガス対策も万全

 
  シュレッダーダストの内容は、ガラスが最も多く、一般的には20〜30%、ものによっては50%を占めます。このほか、鉄や鉛、銅などの金属が7〜10%、プラスチック類が30〜40%などでバラつきが大きく、単体でも焼却は可能ですが、集荷の際に野積み状態で雨露に晒されたものを処理するような場合には、先に述べたように産廃系の廃プラが補助燃料として効果を発揮することになります。
  回収される有価金属は、700トンのシュレッダーダストから亜鉛約20トン、銅約20トンなどで、それぞれ回収率は90%以上の高率となっています。
  シュレッダーダストに含まれる塩ビの量は確定できませんが、塩素分は平均して約3%ぐらい(塩ビ樹脂で約6%)と推計され、これは湿式の電気集塵機(ミストコットレル)と中和塔(石灰石+消石灰+水)を用いて排ガスの中から除去されます。
  電気集塵機は完璧を期するため高度の設備が用いられており、「冬でも煙の出ないリサイクル施設」として周辺住民の安心に役立っているとのことです。
  また、炉口付近の排ガスの温度は900℃程度ですが、炉から排出された後は冷却塔で200℃まで一挙に急冷されるなど、ダイオキシン対策も厚生省のガイドラインを十分クリアできるレベルになっています。
  一方、シュレッダーダストの30〜40%は最終的には焼却残渣として排出されることになりますが、これらはリサイクル処理工程で処理され、一部は構内の管理型最終処分場に埋め立てられるほか、大部分は大分県の日鉱金属佐賀関製錬所で銅原料として利用されるなど、完全リサイクル体制の構築も着々と進められています。

   

■ 平成10年度にまとめの報告書

 
  日鉱三日市リサイクル社製造課の日野順三技術担当課長によると「試験を開始してしばらくはシュレッダーダストの集まりが悪くて苦労したが、1年を過ぎてようやく月700トン集まるようになった」とのことで、当初は「シュレッダーダストの焼却なんて本当にできるのか」という関係者の声も多かったと言います。
  同社で処理されるシュレッダーダストは、現在は富山県内の自動車解体業者4社から集められており、これで県内で発生する分のほぼ4分の1に当たります(残りはほとんどが管理型処分場に埋め立て)。同社製造課の宮林良次技師の話では、「この事業はシュレッダーダストが近場で集まることが肝心だが、富山県の場合、『県外に持っていくのなら、こちらで処理してはどうか』といった形で県が業者を指導してくれている」とのことで、県のバックアップもプロジェクトの推進に大きな役割を果たしていることが分かります。
  「当社のRMPプロジェクトは現在中間地点に入ったところだが、シュレッダーダストを焼却して重金属を回収し、無害化するという基本的な技術体系はできあがった。シュレッダーダストに含まれる亜鉛や銅、鉛なども高収率で再資源化できる。また、塩ビなど塩素系廃プラスチックの処理も技術的には問題ないが、今後事業化していく上では、塩素の量に応じて塩ビ系廃プラの処理費を負担してもらえるようになることが望ましい」(宮林技師)。

 RMP構想は平成10年度までの3年計画となっていますが、今年度いっぱいは各種の試験を続けた後、最終年度に事業化の可否などについてまとめが行われることになっています。報告書の中身が注目されるところです。