2026年03月 No.126 

トピックス 4

制御できない「ブレ」を価値に変える。
りんご搾りかす由来のPVC「Adam」
/株式会社KOMORU

 日本一のりんご生産地、青森県。その豊かな実りの裏で、加工時に大量に発生する「搾りかす」が、長年、廃棄物として処理されていました。この廃棄物を、美しい質感を持つPVC素材「Adam(アダム)」へ生まれ変わらせたのが、㈱KOMORUです。現在Adamはアパレル小物やインテリアなど、様々なプロダクトとして製造・販売され、新たな価値を生み出しています。
 今回は開発に携わった㈱KOMORU取締役の大島頌太郎氏にその軌跡を伺いました。

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お話しいただいた大島氏

株式会社KOMORU

 ㈱KOMORU(こもる)は、青森県五所川原市を拠点とする企業。元りんご農家の家を改修した宿「こもる五所川原」の運営からスタートした同社は現在、宿泊事業に加え、地域の未利用資源を活用する素材研究開発機関「Sozai Center」を運営し、「Adam」という廃棄りんごを再利用した素材の製造販売を行う。建築やデザインの知見を持つボードメンバーが集い、地域課題をクリエイティブな力で解決する事業を多数展開している。

宿業から見えた地域課題に挑む

 2021年、㈱KOMORUは、代表の祖父母が残した一軒の空き家を改修し、五所川原市で宿「こもる 五所川原」を開業しました。建築家として参画した大島氏は、宿の設計から運営を通して津軽の地に関わる中で、近隣のりんご農家が抱える大量の「搾りかす(残渣)」の廃棄問題に直面しました。
 りんご加工製品の製造プロセスで生まれる搾りかすは、廃棄物として処理されており、農家にとってコスト負担となっていました。「デザインやものづくりを通して青森に還元できないかなというのがそもそもの始まりでした」と大島氏は語ります。こうして、宿業に加えて、地域素材の研究開発を行う「Sozai Center」を発足させ、両輪での事業展開が始まりました。

試行錯誤の中、PVCとの出会いで加速した開発

 しかし、開発の道のりは平坦ではありませんでした。当初は、乾燥粉砕した粉末ににかわを混ぜ、不織布に塗布する手法を試みました。「味噌みたい」というその素材は、焼き固めると陶器のような独特の風合いを見せました。オブジェとしては面白いものでしたが、大島氏らの目的はそこではありませんでした。
 「アートになるのではなくて、初期の頃からちゃんとマネタイズしたいという思いがあって」。ビジネスとして成立させ、継続的に廃棄物を減らしていくことこそが、真の課題解決だと考えたのです。
 量産に向き、実用に耐える強度があり、加工が容易なもの。そこで目をつけたのが合成皮革やPVCの加工技術でした。人工皮革などを扱う㈱シムラへ、コネも実績もない状態で飛び込みました。こうして、りんごの粉末を軟質PVCに練り込む方向が定まり、新たな素材開発がスタートしました。

人工物/自然物のハイブリッドの面白み

 最初に定めたのが、津軽の文化や風土を言葉で伝えるのでなく、「五感、特に視覚のトリガーとなるような素材を作りたい」というコンセプトでした。
 そこで、製造工程においてこだわったのが「粒度」のコントロールです。りんごの粉末が大きすぎると、シートの厚みから飛び出し、表面の凹凸が激しくなります。これは製品の亀裂や早期劣化の原因となります。一方で、粒を微細にすれば均質で安定したシートは作れますが、りんごの個性が消えてしまいコンセプトが可視化されません。耐久性を保ちつつ、りんごの粒感を最大限に残すための調整が繰り返されました。
 PVC特有の製造工程も素材の表情に影響を与えました。製造プロセスで加わる熱がりんごの糖分と反応(キャラメル化)し、素材が深みのある美しいブラウンに染まったのです。試行錯誤の末に見つけたPVCの透明性と、自然素材であるりんごの糖分から生まれたカラー、そして搾りかすが見える質感のバランスがAdamのアイコンとなりました。

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 実は、りんごの糖分は、開発の初期段階では大きな障壁となったものでした。遠心分離機で粉末化する際に、糖分が熱によって固形化することで目詰まりを起こし、何度も機械を停止させたのです。これについては、発酵させて糖分を減少させることでハードルをクリアすることができました。
 かつて障壁だった糖分が独特の色あいを生み、唯一無二のアイデンティティを作り出すことに。「制御が難しい熱と糖分の関係が生む色の変化を、デザインとして取り込んでいきたい」と大島氏は語りました。

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「Adam Flower Vase」

デザイナー「M&T」「21B studio」との共創。唯一無二の付加価値戦略

 次なる課題は、製品化でした。大島氏は、展示会へ足を運び、気鋭のデザイナーを自らハンティングしに行きます。そこで出会ったのが、デザインユニット「M&T」や、若手デザイナー集団「21B studio」といったパートナーたちです。素材の特性を活かして生まれたカードケースやバスケットトレイは、展示会や販売会での反応も上々でした。
 また、2024年にファッションブランド「doublet(ダブレット)」とのコラボレーションでは、パリコレクションのランウェイで、ジャケットのショルダー素材としてAdamが採用されるなど、ファッション業界への提供を通して津軽の風土と文化のストーリーを印象付ける活動へも広がっています。

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「Adam Market Bag」
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「Adam Multiple Pouch」

縫製から「ウェルダー加工」へ。内装建材を見据えた今後の展望

 現在、Adamはアパレル小物からインテリア領域へとその裾野を広げています。技術面でも新たな挑戦を行っており、従来の縫製技術に加え、PVC加工特有の「ウェルダー加工(高周波溶着)」を採用した製品開発にも着手しました。内部にクッション材を閉じ込めたトレーなど、縫い目のない美しい仕上がりで、PVCの加工可能性を生かしながら、素材の魅力を最大化するプロダクトも生まれています。
 今後の展望として、透過性を活かした照明、そして家具や内装空間への実装を見据えています。建材として使用するには、厳しい基準をクリアする必要がありますが、大島氏は「最終的にはパーティションや家具の天板など、建築空間の一部として使えるようにしていきたい」と語ります。
 技術とデザイン、そして地域の物語を編み合わせる㈱KOMORUの挑戦は続きます。

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「Adam Basket Tray M」
PVC Award 2025 デザイン賞 受賞

今回紹介したりんごの搾りかす由来のPVC「Adam」を使った「Adam Basket Tray M」が
PVC Award 2025にてデザイン賞を受賞しました。


 透明塩ビに独自の製法で乾燥&粉砕した青森県産りんごの搾り粕を混合し、独特な風合いを持つ塩ビシートを作成。 シートをウェルダー加工することで小物収納に便利なインテリアアイテムを作成しました。本来は廃棄されるはずだっ たリンゴの搾り粕は、リンゴの皮や芯、ヘタ、種などが高いデザイン性の表現を与えている(リンゴ部位の差⇒風合い に変化)。また、搾り粕に含まれる糖や成分が熱と反応して生まれる赤褐色は、収穫の年や果実の状態によって微妙に 異なり、同じものはひとつとしてないとか。

(PVC Award 2025サイトから引用)