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新素材開発から産学連携まで。可能性を広げる素材メーカー
/カンボウプラス株式会社
素材メーカーとして日本の産業を支えてきたカンボウプラス㈱。2025年に開催された大阪・関西万博ではSPACECOOL㈱が開発した新素材「SPACECOOL®」を活用した素材、「REI KEEP Empowered by SPACECOOL」(以下、REI KEEP)の特注品が採用され、イベント「ロハスフェスタEXPO2025」でアップサイクルの商品を販売。また、未来を担う学生との「産学連携プロジェクト」を実施するなど従来の素材メーカーの枠を超えていく同社の取り組みをご紹介します。今回は、カンボウプラス㈱ 中村信治代表取締役社長、松本夏津子氏(東京営業部)、学校法人 文化学園 文化ファッション大学院大学(以下、BFGU)久保幸子教授(ファッションクリエイション専攻 ファッションテクノロジーコース)、同コースの院生、翁長ありささんにお話を伺いました。
カンボウプラス株式会社
1939年に創業した、産業資材の製造・販売を手掛けるメーカー。PVCターポリンをはじめ、コンテナバッグや土木シートなど、その製品は物流、建築、農業といった幅広い分野で社会基盤を支えている。また、端材を利用したアップサイクルブランドを展開するなど「環境のカンボウ」を合言葉に、持続可能な社会の実現に向けた活動を積極的に推進している。
大阪・関西万博で活躍する新素材「REI KEEP」
2025年10月、盛況のうちに幕を閉じた大阪・関西万博。未来を感じさせる展示の数々だけでなく、会場を彩った個性豊かな施設そのものにも注目が集まりました。カンボウプラス㈱もさまざまな資材を提供し、仮設のテントや施設の屋根では、同社のPVCターポリン素材も活躍しました。
中でもひときわ目を引いたのが、日本ガス協会出展の「ガスパビリオン おばけワンダーランド」の屋根に使われた膜材。SPACECOOL®フィルムを使用し、SPACE
COOL㈱とカンボウプラス㈱で共同開発した膜材料「REI KEEP」をシルバーで製造した特注品です。
「SPACECOOL®」は、ゼロエネルギーで冷却を可能にする新素材。両立が困難とされていた高い反射率(最大95%)と高い放射率(最大95%)を兼ね備えていることが特徴です。多層構造によって、太陽光を反射して熱の吸収を抑えながら、宇宙空間へ熱を放射することで、外気よりも低い温度に保つことを可能にしました。
カンボウプラス㈱は、フィルムとして生まれた「SPACECOOL®」に繊維と樹脂を組み合わせて、屋外使用のための耐久性を持たせる役割を担いました。表面にはPVCが使用されています。開発と検証を繰り返した結果、無事「ガスパビリオン おばけワンダーランド」への採用が決定しました。
パビリオンの特徴的な外観は、デザイン性だけでなく、熱の反射方向まで緻密に計算して設計されたものです。「REI KEEP」の冷却機能も加わり、パビリオン全体の空調負荷軽減に貢献しました。
消費者と触れ合う「ロハスフェスタEXPO2025」
万博との関わりは、資材の提供を通してだけではありません。2025年6月2日〜4日、万博会場内で開催された「ロハスフェスタEXPO2025」にもブースを出展しました。
ブース内には、自社のアップサイクルブランド「DIG
REAL」の商品が並びました。トラックの幌やコンテナバッグといったPVC素材の端材などを活用して作られたバッグや小物です。また、粘着テープや端材を自由に使ってチャームなどを作るワークショップも開催され、子どもから大人まで多くの来場者が作品づくりに夢中になりました。
普段はBtoBの取引が中心で、消費者と直接触れ合う機会の少ない社員にとって、自社の素材が人々の創造性を刺激する様子を目の当たりにできる貴重な体験になったといいます。「SDGsは道徳から」と中村社長。出展を通して、社員のモチベーションやサステナビリティへの意識向上に繋げることを目指しました。
イベント後には、他の出展者との交流から、カンボウプラス㈱の工場が位置する福井県鯖江市での「めがねのまちさばえSDGsフェス2025」への参加につながるなど、新たな広がりも見せています。


「産学連携プロジェクト」から生まれた新商品
ロハスフェスタのブースで「ガスパビリオンの素材が使われているなら!」と、人気を集めた商品がありました。「REI KEEP」素材のペットボトルホルダーやポーチです。これは、カンボウプラス㈱とBFGUとの産学連携プロジェクトで生まれた商品でした。
プロジェクトの出発点は、アップサイクルやリサイクルのためのアイデアが不足しているというカンボウプラス㈱の課題意識にあります。その解決策として、BFGUとの連携をスタートさせたのです。「普段はロール状の『素材』しか見ていない社員に、学生の斬新なアイデアで形となった『商品』を見てもらうことで、新しい発想を得てほしかった」と中村社長は狙いを語りました。
数年間に渡り続けてきた産学連携プロジェクトでは、PVCや難燃性のデニムなどカンボウプラス㈱が紹介した素材から、学生たちは様々な作品を生み出してきました。一方で、考案された作品は、アート性は高くても量産化が難しいという壁がありました。
その壁を超えたのが、今回のアイデア。開発を担当した学生の翁長さんは使用した素材「REI KEEP」について、「光沢があって、商品として見栄えがするなと思いました。それに厚みに高級感も感じました」とその印象を語りました。
意匠や質感だけでなく、翁長さんは「REI KEEP」の保冷機能にも着目し、ペットボトルホルダーやポーチを考案。しかし、開発は一筋縄ではいかなかったといいます。「こんなに硬い素材は縫ったことがなくて、これは難しいと思いました」。普段扱う布生地との違いに苦戦したものの「布じゃなく革として扱ったら、うまくいくんじゃないか」と発想を転換し、徐々にデザインを仕上げていきました。
ペットボトルホルダーを自由に組み合わせて携帯できるアイテム
カンボウプラス㈱側からも社員の松本さんが「縫製の工程をできるだけ少なくしてほしい」というリクエストを伝えると、翁長さんはデザインをさらにシンプルな形へと磨き上げるなど、コミュニケーションをとりながら開発が進みました。「ビジネスとして成り立つか」という視点をもって開発された翁長さんの作品は評価され、実際に商品化に至りました。これは、数年にわたるプロジェクトの中で初めての出来事でした。
中村社長は「学生との連携は、自社にない視点や発想をもたらす異業種創発の場です。正直、毎回発表を聞くと感動して泣きそうになりますよ」と笑顔。翁長さんは「今回の経験を生かして、アップサイクルの考え方を広めたい。次世代に伝えて驚かせたいです」と今後の展望を語りました。
カンボウプラス㈱は、他社に先駆けて2002年より「環境報告書」を発行するなど、環境への取り組みをいち早く進めてきました。近年では、環境はもちろんのこと、産学連携プロジェクトに代表されるように、持続可能な社会の実現に向けてもその活動を加速させています。
BtoBの素材メーカーとしての枠を超え、消費者や学生、異業種を巻き込みながら新たな価値を創造していくカンボウプラス㈱。これからも、業界全体でSDGs活動を推進する先駆者として、挑戦を続けていきます。
注釈)
- SPACECOOL®はSPACECOOL㈱が開発、製造、販売している製品です。
- REI KEEPはSPACECOOL㈱からの公式供給を受け、製造・販売しています。
- カンボウプラス㈱は、SPACECOOL®プロダクトの正規販売代理店です。
- SPACECOOL®は登録商標です。
