2021年03月 No.112 

インフォメーション 2

㈱コバヤシのバイオマス複合塩ビフィルム

エコでユニークなシュリンクフィルム
「和shu(わしゅ)」が話題に

写真:酒類包装用シュリンクフィルム「和 shu」

 塩ビゾルや食品容器など、幅広いプラスチック製品を展開する㈱コバヤシ(小林達夫社長、本社 東京都台東区)。「環境」をキーワードとした製品開発にも意欲的な同社は、バイオマス複合プラスチックの分野でも成果を重ねています。新開発のバイオ塩ビフィルムを用いた、酒類包装用シュリンクフィルム「和 shu」もそのひとつ。PVC Award 2019 で入賞作品に選ばれた、注目の新素材の概要をご紹介します。

環境負荷の少ない新素材

 バイオマス複合プラスチックとは、デンプンやセルロースといった植物由来の有機物(バイオマス)を原料の一部に利用したプラスチックのこと。従来のプラスチックに比べて、石油資源の節約になること、二酸化炭素(CO2)の排出削減効果があること(バイオマス原料の燃焼時に排出されるCO2の量は、植物の成長過程で大気から吸収したCO2と同量、というカーボンニュートラルの概念に適合する)などから、環境負荷の少ない新素材として期待を集めており、日本でも近年、トウモロコシやサトウキビのデンプンなどと各種の樹脂を組み合わせたバイオプラスチックの開発が進んでいます。

ゼロからのスタート

 ㈱コバヤシがバイオマス複合プラスチックの研究開発に着手したのは2008年のこと。2010年には、ポリオレフィンに工業用トウモロコシデンプン60%を複合した「Reseam ST®」の開発に成功しており、現在、お菓子トレーなどの食品容器やフィルムなどとして普及しています。
 「持続型社会への貢献は当社の経営理念であり、バイオマス複合プラスチックの研究もその理念に沿って開発したものだが、全くゼロからのスタートだったので苦労も多かった。特に、油と相性の悪いデンプンをどう樹脂の中に均質に分散させるか、成形加工時に割れたりしない、しっかりしたプラスチック素材としての物性をどう担保するか、といった技術的な課題を解決するため、山形大学と宮城県産業技術総合センターの協力を得て2年掛かりで商品化にこぎ着けた。この経験のお陰で、その後、塩ビを用いてバイオマス複合プラスチックを開発することになった時も、スムーズに技術展開することができた」(同社技術研究所所長の井上雅博氏)。

写真:「Reseam ST®」で作ったお菓子トレーと食品容器
「Reseam ST®」で作ったお菓子トレーと食品容器
写真:井上雅博氏
井上雅博氏

サンプラスチック㈱との共同開発

 同社のバイオ塩ビフィルムは、原料の10%に工業用のトウモロコシデンプンを使用したもので、加工性に優れ高強度といった塩ビ本来の特性はもちろん、プラスチックなのに和紙のような風合いと質感を有するのが大きな特長。また、デンプンの粒子が均質に分散しているため、カットしやすいという新たな機能も加わっています。
 基礎研究は2017年からスタート。同社では、このユニークな特長を活かせる用途の検討を行う過程で、シュリンクフィルムに着目。シュリンクフィルムメーカーとして多くの実績を持つサンプラスチック㈱(大江正孝社長/本社 栃木県那須塩原市。シュリンクフィルムをはじめ、帯電防止・導電などの高機能フィルムメーカーとして知られる)に相談を持ちかけ、日本酒など酒類包装用のシュリンクフィルムとして共同開発することが決まった、というのが「和shu」誕生の経緯です。
 「簡単に切れるため開封性もよく、他の樹脂に比べて低温でシュリンクするという塩ビの特性も長所になっている。見た目の意匠性や高級感の高さなども含めて、いろいろな点で画期的な包装資材と言える」(井上氏)


「和shu」の特長は、高級感があるので化粧品の包装などにも最適、和紙のようなマット調の風合い、紙のように簡単に切れるので開封性がよい、水や汚れにも強く、紫外線カット機能付き
(写真はいずれもサンプラスチック㈱のホームページ(https://www.sunplastic.jp/)から転載)

商品化も間近

 「和shu」の試作品が完成したのは2018年2月。その後、数次にわたる改良と試作を経て、2019年秋には原形が完成し、PVC Award 2019に出品されて話題を集めました。現在は商品化に向けて最終的な調整作業が進んでおり、この春までには発売される見通しです(販売元はサンプラスチック)。
 バイオ塩ビのシュリンクフィルムは、今のところ「和shu」以外に開発事例がなく、発売されれば、化粧品など高級感を大切にする商品の包装材としても需要が広がりそうです。
 最後に耳寄り情報をひとつ。同社では現在、塩ビにCNF(セルロースナノファィバー)を入れた新しいバイオマス複合プラスチックの開発に取り組んでおり、研究で物性試験が行われている最中とのこと。井上氏は「当社は食品容器を扱う会社なので、これからも生活に身近な環境に優しいバイオ素材の研究を積極的に続けていきたい」と語っています。

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PVC Award 2019入賞作品
展示会でも注目のまとに

「プラスチックの総合企業」株式会社コバヤシ

 1946年、東京都葛飾区に小林敏氏が創業した個人商店が前身。1952年、㈱小林商店設立。当初はセルロイド材料の卸業だったが、1956年、玩具用塩ビゾル「コバゾール」の製造を開始して、製造業に進出。
 以後、国内10工場を拠点とし、納豆やカップ麺などの食品容器を中心に、野菜・果物の包装材、日用雑貨、農工業用資材まで、幅広い製品を製造する「プラスチックの総合企業」に成長した。納豆のPSP容器は国内トップシェアを持つ。

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