2015年9月 No.94
 

「抗菌加工製品」って何?

世界をリードする日本の「KOHKIN」。
安全性、品質向上への取り組みも着々

 日用品から介護製品まで、いまや生活の隅々にまで定着した感のある抗菌グッズですが、そもそも抗菌とは何なのか、殺菌や除菌とどう違うのか、意外に知られていなことが多いのも事実。抗菌の分野は日本が世界をリードしていると聞いて、驚く人も多いのでは?というわけで、建材やラップなど塩ビとも関わりの深い抗菌加工製品の発展の足取り、そして最新情報を、一般社団法人 抗菌製品技術協議会(東京都新宿区)に取材しました。

抗菌製品

多彩な製品群(協議会登録製品から)  

日用品 まな板、三角コーナー、スノコ、スポンジ、ブラシ、浴室関連製品(桶、蓋、マット他)、革製品(ブーツ他)、アウトドア製品(テント他)、ラップなど
家電製品 エアコンフィルター、空気清浄機、掃除機、冷蔵庫、洗濯機、タンク容器部材など
住宅建材 壁紙、洗面台、浴槽機器、浴室関連部材、化粧板、塗料、畳、外壁材、屋根材、デッキ、雨どい、配管、シーリング材、床材、断熱材、防水シートなど
その他 ペット用品(猫砂、トレー他)、食品搬送ベルト、製品パレット・トレー、健康・介護関連(床ずれマット、ベッド手すり)など

●細菌との共存共栄

藤本専務理事

平沼事務局長

 「抗菌とは、菌を増やさないということで、殺菌や除菌のように、菌を殺したり取り除いたりすることではありません。もちろんそれも大事なことですが、抗菌は日常的で、よりマイルド。菌を目の敵にするのでなく、増殖をコントロールすることで共存共栄していこうという発想なのです」と説明するのは、抗菌製品技術協議会の藤本嘉明専務理事。なるほど、昔からワサビや竹の葉、ヒノキといった抗菌性植物を食中毒防止などに利用してきた日本人にとって、これはまことに馴染み深い衛生対策といえます。
 「ですから、抗菌加工製品における〈抗菌〉の定義も『当該製品の表面における細菌の増殖を抑制すること』(『抗菌加工製品ガイドライン』1999年通産省〈現経済産業省〉生活産業局)であって、菌を全滅させたりするものではありませんし、自然界の微生物に影響を及ぼすこともありません」

●世界初、無機系抗菌剤の開発

抗菌加工製品ガイドライン

ガイドライン作りには、協議会や研究者、消費者も参加

 化学的に作られた抗菌剤を使って抗菌効果を添加したのが抗菌加工製品。その歴史は1970年代のはじめ、繊維製品から始まりました。未だ記憶に残る抗菌靴下のヒットは80年代末の出来事ですが、90年代に入ると、それまで使われていたアルコール系、フェノール系などの有機系抗菌剤とは別に、銀、亜鉛などを使った無機系抗菌剤が日本のメーカーによって世界で初めて開発され、抗菌加工製品のバリエーションは大きく広がることになります。以下は、同協議会・平沼進事務局長の説明。
 「有機系抗菌剤は即効性で抗菌効力は高いものの、耐熱性、持続性が弱い。これに対して、無機系の抗菌剤は遅効性ですが、耐熱性、持続性、安全性に優れる。プラスチックの抗菌製品ができたのも無機系抗菌剤のお陰で、樹脂に練りこんで加熱、成形しても抗菌効果が失われません。無機系抗菌剤の開発により新たな市場が生み出されたわけで、1993年には当協議会の前身となる銀等無機抗菌剤研究会が発足しています」

抗菌製品技術協議会の活動と、安心のシンボル「SIAAマーク」

SIAAマーク

このマークがあれば安心

 抗菌製品技術協議会(SIAA)は、安全な抗菌加工製品の普及を目的に、抗菌剤メーカー、抗菌加工製品メーカー、試験機関が結集して1998年7月に設立。現在の会員数(企業・団体・個人)は約230、登録製品数は2500件以上(2015年3月現在、頁下のグラフ参照)に達する。近年海外企業の受け入れも進んでおり、韓国、中国、台湾、香港、スペイン、イギリスなど23カ国が加盟している。
 主な活動は、JIS Z 2801に基づく自主規格づくりとその普及のほか、ワークショップの開催、展示会への出展などの広報活動にも積極的に取り組んでいる。自主規格については、消費者代表、専門家および行政など幅広い意見を聞きながら、@抗菌加工製品に求められる品質(抗菌加工していない製品に比べて表面の細菌の増殖割合が百分の一以下で、耐久性試験後も抗菌効果が確認されること)や、A安全性(急性経口毒性、皮膚への刺激性、遺伝子への影響などがSIAAの安全性基準を満たしていること)、などに関するルールを整備。そのルールに適合した製品には、信頼と安心のシンボルとしてSIAAマークの表示を認めている。

●日本がリードした「ISO22196」の発行

 抗菌加工製品は、病原性大腸菌O157によるカイワレ大根の汚染問題(1996年)を契機に大ブームとなり、以後「抗菌」を謳った製品が続々と登場。その一方、消費者団体などから効果や安全性などに対する疑問の声が高まったのを受けて、協議会の設立(1998年7月)と『抗菌加工製品ガイドライン』の発行(1999年5月)、協議会を原案作成団体としたJISづくり(JIS Z 2801、2000年)、さらにはJIS規格に基づく協議会基準の制定と、品質と安全性向上へ向けたルールづくりが着々と進められ、2007年10月には、JIS Z 2801を踏襲する形で国際規格ISO22196(プラスチックおよびその他の抗菌性能試験方法)が発行。日本の国内規格が世界標準になるという、文字どおり特筆すべき成果を達成しています。

●国際組織「世界抗菌産業協会(仮称)」立ち上げへ

抗菌加工と非加工の細菌の増殖イメージ

 最近では、携帯電話の塗料やスマホの保護フィルムからエスカレーターのベルト、エレベーターのタッチパネル、さらには介護製品まで、順調な広がりを見せる抗菌加工製品。
 「抗菌という考え方の特殊性もあって、この分野の市場規模(約1兆円)は日本がダントツ。しかし、ISO22196の発行で欧米なども徐々に抗菌への理解が進んでおり、とりわけ経済発展が進むアジア地域では、今後ニーズの高まりが期待できる」(平沼事務局長)
 こうした国際化の動きを加速するため、現在、日中韓3カ国共同で抗菌加工製品の国際組織「世界抗菌産業協会(仮称)」の立ち上げへ向けた作業が進んでおり(2016年発足予定)、藤本専務理事は「東南アジア、欧米諸国にも参加を呼びかけ、日本の品質・安全規格とSIAAマークを国際標準として普及させていきたい。細菌との共存という考え方は世界の人々にも必ず受け入れてもらえると思う」と意欲を見せています。

用途別SIAA登録製品数の推移(2015年3月現在)