2014年12月 No.91
 

整備進む、塩ビ管を使った災害用トイレシステム

避難所生活の最難題「トイレ不足」を解消し、被災者の健康、環境を維持

 地震や台風、水害などで避難所生活を強いられた人々にとって、最も切実なのは実はトイレ不足の問題。不自由な生活の中で、清潔、快適なトイレを確保できるか否かは、避難者の健康にも重大な影響を与えます。そこで登場したのが、塩ビ管を利用した災害用トイレシステム。1995年(平成7年)の阪神淡路大震災を契機に開発、普及が進む災害用トイレシステムの最前線を、代表的な2つの開発事例でご紹介します。

【積水化学工業(株)の防災貯留型仮設トイレシステム】

●災害用トイレのパイオニア。神戸市と共同開発の快適な貯留型トイレ

防災貯留型
仮設トイレシステム
(右は使用例)

 災害用トイレシステムの開発で、パイオニアと言えるのが積水化学工業です。同社では、阪神淡路大震災の翌96年、神戸市が行った避難者へのアンケート調査などで得られた教訓を踏まえ、同市と共同でシステムの開発に着手。約1年の研究・試行期間を経て、快適で使い勝手のいい災害用トイレシステムを完成させ、97年8月から本格的に販売を開始しています。
 現在では、神戸市を中心に、東京23区、横浜市、堺市など400近い自治体が、小中学校や公園、公共施設などに同社のシステムを採用して、災害時への備えを整えています。

 

 

●下水道本管直結式の安心システム

仕切弁による水流調節の仕組み

 同社のシステムの最大の特徴は下水道本管直結式であり、かつ貯留型であること。上の図にあるとおり、下水道本管に直結させることで既設の下水道ライフラインを活用しています。その為、下水道本管との間に貯留装置(貯留弁)を設けることにより、災害時に下水道本管に異常が無い場合はそのまま放流し下水道の機能を活用。万が一下水道本管が破損している場合でも、ここに汚水を貯留してトイレを使い続けることができる仕組みです。貯留水は井戸水、川の水、プールの排水などが利用可能で、使用前に注水しておきます。また、水を湛える事により汚水の臭いを低減することが出来ます。溜まった汚水はバキュームカーで回収されますが、配車の遅れなどで万が一貯留量が限界に達しても、貯留弁の中に組み込まれた仕切弁からオーバーフロー(放流)させる仕組みです。トイレ5基で500人対応で当システムはどんな便器にも適合し、汚水を効率的に遠くまで流せるよう管路勾配を調整しています。
リブ管の外観
 管路に使用されている塩ビ管は、縦管(マンホール管)が下水道用VU管、横管(本管)はVU管とリブ管(表面が山形構造になったパイプ。軽量で耐震性、剛性が高く、地震のエネルギーを吸収しやすい砕石基礎工法も適用可能)の2種類があり、地震などで液状化の恐れが高い軟弱地盤にはリブ管のシステムが適しています。

【クボタシーアイ(株)の下水直結型災害用トイレ配管システム】

●下水本管に直結するシンプル構造で低コストを実現。軽量で施工も容易

▲下水直結型災害用トイレ配管システムの構造
▶リブ付き小型マンホール

 クボタシーアイが災害用トイレシステムを発売したのは2004年のこと。開発はやや出遅れたものの、その分最新の技術を吸収できるという後発ならではの強みを生かして、近年、首都圏から全国に急速に普及しつつあります。
 同社のシステムの第一の特徴は汚水を貯留せず、管路を下水本管に直結してそのまま流下するシンプルな構造にあります。
 また、管路の本管には直径15cmの塩ビ製軽量リブパイプ、縦管にはコンパクトなリブ付き可とうマンホールを採用しているため、設置場所に応じて管路を直線、曲線に自由に構成することも可能(仮設トイレは10基以上接続可能)。こうした設計によって、予算の限られた自治体でも採用しやすい低コストと施工性を実現しています。

●洗浄方法、防護蓋などにも工夫

 一方、洗浄は貯水層(容量80ℓ)の水を定期的にフラッシングすることにより常に衛生的な状態を維持する仕組みで、少量の水で効率的に汚物を下水道本管に搬送する事ができ、健康被害、臭気を低減する工夫がなされています。
 マンホールに付設した鉄製の防護蓋にも工夫が見られます。「避難所では衛生上、洋式トイレより和式を望む被災者が多い」ことに対応して、蓋を開けるとそのまま和式トイレとして使用できる和洋兼用の防御蓋を開発(洋式の場合は蓋を撤去して便器を設置)。洋式、和式それぞれの専用防護蓋もありますが、「現場の事情を考えると兼用のほうが被災者の要望に対応できる」とのことです。
鋳鉄製防御蓋(和洋兼用)
 同社では、下水道本管が被災した場合に備え、今年から貯留式のシステムの販売も開始しています。コストの安い従来の下水管直結型と、下水道の被災時にも対応できる貯留型の2タイプが揃ったことで、施工主の選択の幅が広がりました。