2014年6月 No.89
 

(株)京都環境保全公社の塩ビ壁紙リサイクル事業

熱して削る。独自の発想で塩ビと紙を再資源化する注目の新技術に迫る

 
▲分離した塩ビ樹脂で作られた再生塩ビ原料

◀壁紙リサイクルの新兵器「プラスチックシートリサイクル装置」

 紙と樹脂の複合製品でリサイクルが難しいと言われる塩ビ壁紙ですが、近年は、叩いて分解、酵素で分離など、創意あふれる技術開発が進んでいます。今回取り上げるのは「熱して削る」。(株)京都環境保全公社(檀野恭介社長/本社=京都府京都市伏見区横大路千両松町126)が開発した注目の新技術を、同社の伏見環境保全センターに取材しました。

●平成22年、壁紙リサイクルをスタート

伏見環境保全センターは本社敷地内にある

 京都環境保全公社は、民間企業43社と京都府・京都市の共同出資で運営する産業廃棄物の処理業者(収集運搬を含む)。民間の産廃処理事業に行政が資本参加するのは全国的にも珍しい事例で(会社概要参照)、焼却処理とリサイクルを担当する伏見環境保全センター、管理型最終処分場を有する瑞穂環境保全センター(京都府船井郡京丹波町)の2施設を拠点に、関西地区における産廃処理の中核として幅広い活動を続けています。
 リサイクル事業としては、RPF(固形燃料)の製造、発泡スチロールの減容化、下水汚泥の炭化処理などが大きな柱となっていますが、平成22年からスタートした塩ビ壁紙のリサイクル事業は、「熱して削る」というオリジナル技術を駆使した独自の取り組みとして、塩ビ廃棄物の有効利用に新たな道を開くこととなりました。

●逆転の発想

 壁紙リサイクルに着手した背景を、同社の山下辰彦取締役は次のように説明します。
 「弊社の株主の中に壁紙メーカーがあり、その工場端材などの処理を弊社で引き受けていたが、9割以上が埋立処分だったため、何とか埋立てずにリサイクルできる方法はないかと以前から相談を受けていた。これに対応して、リサイクル技術に詳しい取締役を中心に研究をスタート。壁紙の生産工程(紙と塩ビシートをカレンダーロール機で熱圧延)を逆にたどればきれいに分離できるのではないかという発想で、平成20年5月から設備の設計に入った」

   
@塩ビ層を分離する前と分離した後のパルプ層。   A再生塩ビで作られた床材のバッキング   B「熱可塑性樹脂シートの分離方法及び分離装置」で特許を取得(平成24年5月)

●櫛刃と平刃の2段構造

 試作機(1号機)を導入したのが平成21年の2月。その後、試運転を重ねながら、機械メーカーの協力も得て問題点の改良に取り組み、22年1月には現在の2号機を完成させています。
 その2号機は、カレンダーロール機に似たコンパクトなシステムで、処理方法も至ってシンプル。装置にセットした壁紙(メーカーの工場端材や旧規格品など)をロールで先に送り、200℃程度に加熱した回転式ドラムに巻きつけて、柔らかくなった塩ビ層を厚さ数ミリの金属刃でヒモ状に削り取っていくというもので、まさしく「熱して削る」仕組み。刃の形には、カッター状の小刃(幅約5cm)を並べた櫛刃と板状の平刃の2種類があり、はじめに櫛刃で粗削りした後、裏側にセットした平刃で残りの部分を完全に削り取るという2段構造になっています。分離後のパルプ層はロールの間を逆送され装置前面からシート状のまま排出されます。

●加熱方法の改良で効率アップ

回転ドラムで熱した塩ビを櫛刃で削り取る(裏側に見えるのが平刃で削られた部分)
取材にご協力いただいた
山下取締役(左)と中島室長

 「2号機はシンプルなシステムだが、1号機に比べて様々な改良が施されている。最も大きいのは加熱方法の違いで、ヒーターに壁紙の樹脂面をかざすような方法で加熱した1号機に対し、2号機では加熱した回転ドラムに壁紙を巻きつけ裏の紙面から加熱するため、シート全体を数秒で均等に暖められる。これで効率が一気に向上した」(技術部リサイクル研究室の中島健太室長)。
 金属刃の改良も重要なポイントで、刃の厚み、刃を当てる角度も違っていたのを、「2号機でより処理しやすい状態に調整した」とのこと。
 「処理時間は壁紙の種類で多少異なるが、平均で1分10m前後。物を見れば、だいだいどの程度の温度、速度で処理したらいいかすぐに判断できる」(中島室長)
 取扱量は年間200〜300トンで安定的に推移しており、分離後の再生塩ビは粉砕処理した後、リサイクル業者に販売されて床材のバッキングや、ルーフィング、シートの増量材などにリサイクルされています。一方、紙は古紙回収業者に引き取られ、ダンボールの原料などに再利用されます。
 「今回の事業では、リサイクル技術を開発し特許まで取得できた。このことは当社にとって大変なプラスであり、次に繋がるいい取り組みになったと思っている。今後は、特許を取得した技術を広く活用される取り組みを進めていきたい」(山下取締役)
 同社では、近々小型家電のリサイクル事業もスタートする予定だといいます。

(株)京都環境保全公社
塩ビ管リサイクルにも取り組む

 昭和49年、日本新薬、島津製作所、日新電機、オムロンなど京都を代表する有力企業が自前の廃棄物処理施設建設のために合同出資して設立した京都産業サービス(株)が前身(昭和56年現社名に変更)。昭和56年、京都府・京都市の出資を得て、59年から正式に事業をスタートさせた。
 平成16年、伏見環境保全センターでRPFの生産を開始してからリサイクル事業に進出。以後、塩ビ壁紙リサイクルまで着実に範囲を拡大し、平成25年からは塩化ビル管・継手協会の契約中間処理会社として塩ビ管のリサイクルも行っている。平成20年環境大臣賞を受賞。