2014年6月 No.89
 

●建材リサイクルへの道

 大学では菊池雅史先生(元明治大学理工学部教授、2013年退任。日本における建設廃棄物リサイクルのパイオニア)の下でコンクリートの材料研究をしていました。コンクリートのリサイクルに関わるようになったのは、大学院で博士の後期課程に進んだころだったかな。
 もともと明治大学の建築材料研究室はコンクリートや解体木材のリサイクル研究が盛んでしたし、その第一人者が菊池先生だったわけですけど、そのころからリサイクル関連の法律がいろいろ出来てきたりして、だんだん時代がリサイクルに目を向けるようになっていたんですね。そういうことも私がこの分野に踏み込んでいくきっかけになったと思います。
 その後、都立大学の助手として3年ほど外に出ていた時期があるんですが、1999年に博士号を取得して、運よくまた明治大学に戻ることができたというわけです。

●研究室から現場へ

 こっちに戻ってからは一応教員として独立する形になったので、コンクリートのリサイクルだけでなく、木材やプラスチック建材のリサイクル・材料開発なんかも手がけるようになりました。
 そんなことをしているうちに、今度はリサイクル材の原料である廃棄物そのものに関心が向いてきて、この廃棄物は本当にリサイクルできる材料なのかとか、本当にリサイクルできるようにするにはどうしたらいいのかといった問題に研究が広がってきたんですね。いきなりリサイクル材料や技術を開発するんじゃなくて、まず解体現場の実態はどうなっているのか、適正な解体を進めるにはどうしたらいいのかといった研究室では見えない部分、つまり静脈側の環境負荷の部分を考えることが大きなテーマになって、それが現在まで続いているということになります。

●塩ビ管の排出実態調査で分かったこと

 今回、塩ビ管の排出実態調査(「解体工事に伴う塩化ビニル管継手の排出実態調査研究」。下の記事参照)に参加して感じたのは、塩ビ管というのはやろうと思えば相当量リサイクルできる材料なんじゃないかということですね。
 塩化ビニル管・継手協会が全国に受入拠点を設けてリサイクルに取り組んでいることは以前から知っていましたが、お金が掛かって大変だろうなという程度の認識だったんです。それが、解体現場で実際に調査してみると、塩ビ管というのは、機械でめちゃめちゃに壊されていない限り、単体で取り出そうとすればしっかり取り出せるし、何より意外だったのは、上屋より埋設施工のほうが多いんですね。土に埋まっているので汚れてはいるが経年劣化が少ない。つまり、泥や金具などの異物さえ取り除けばあまりコストを掛けずにリサイクルできるし、近くに協会の受入拠点があるので運送コストも抑えられる。こういう建材はなかなかないんです。
 それと、今回のような調査は自分にとっても珍しいというか、これまでは建物一軒当たりの廃棄物の排出量とか、建築年代による排出量の違いといった一般的な調査が多くて、特定の建材について解体からリサイクルまで実態を追うという経験はあまりなかったんです。今回の調査では、塩ビ管というひとつの建材が解体時にどれだけ排出されどの程度分別できるのか、人手や時間はどれだけ掛かるのか、といった実態がかなり分かってきました。これはとても貴重な知見になると思います。

●意識の高い解体業者を如何に増やすか

 建築材料をリサイクルしようとするときの一番の課題は、壁であれ天井であれ床であれ、いろいろな素材を使った複合材が多いということです。単体であればリサイクルはできるのに、そういう高純度の状態で取り出せるものは少ない。しかも、パソコンの基盤に使われている金のように価値の高いものであればいいが、建材の場合そういうはものは殆どないですからね。掛ける労力に対してどれだけのものが得られるかということを考えると、やはり解体する段階でリサイクルできる材料をリサイクルできるようにちゃんと取り出してあげる方法をしっかり整えておくことが大切で、そういう意味では、意識の高い解体業者や廃棄物処理業者を如何に増やすかということも、今後の大きなポイントになると思いますね。
 最近は環境に対する縛りがきつくなっているので、不良な業者は減ってきているとは思いますが、一方で施工主のほうも適正な解体費用、処理費用を負担するといった意識を持つことが必要です。

解体工事に伴う塩化ビニル管・継手の排出実態調査研究

町田市の解体現場(共同住宅)
 1998年から塩ビ管のリサイクルに取り組んでいる塩化ビニル管・継手協会が、住宅建築の解体現場から出る塩ビ管の排出量と排出実態を把握して、さらなる再資源化の推進に役立てる目的で、昨年11月〜今年1月に掛けて実施した調査。同協会では、リサイクル着手時点に同様の調査を行ったが、それから15年以上経過した状況変化に対応するため、小山教授の指導の下、改めて実態把握に取り組んだもの。解体・分別等の作業方法は(株)イオリナ(東京都目黒区)の協力を得た。
 調査では、町田市、川崎市の木造住宅10棟(共同住宅1、戸建9。築年数23年〜48年)を対象に、解体現場から排出する廃プラスチック類及び廃塩ビ管の量、廃塩ビ管の分別実態、さらには解体作業の作業時間やリサイクル適正品の割合などまで詳細な分析が行われ、@廃プラ中の廃塩ビ管の割合は約2割、A廃塩ビ管の排出量の7割は地中に埋設されていたもので、上屋部のもの3割、B廃塩ビ管の6割以上がリサイクル適材品で、簡易処理を行えば9割以上がリサイクル可能、など新たな知見が数多く採取されている。

●塩ビの複合リサイクル材?

【写真上】 小山教授の研究室で製造した塩ビ床材の再生紛体(左)と壁紙の再生紛体
【写真下】 2種類の再生塩ビ粉体を混ぜてバッキング層に使用したフロアタイルの試作品(表はバージン材を使用)

 ところで、リサイクル材料の開発に関して、もう長いこと塩ビの複合リサイクルの研究に取り組んでいるんですが、まだ完成には至っていません。どういうことかというと、同じ塩ビでも、床材、壁紙、防水シート等々いろいろ建材があって、当然用途に応じて成分も異なるわけですが、それを床材は床材に、壁紙は壁紙に戻すというのではなく、複合的にリサイクルするのがいちばんいいんじゃないかという考え方なんです。
 成分や軟質、硬質の違いはあるけれど、同じ塩ビ樹脂で、熱可塑性があって耐久性がいいことも分かっているわけですから、床材の粉と壁紙の粉を混ぜ合わせて何かいい材料設計ができないか、シートのバッキング層にリサイクルしてみたりして、研究を重ねているところです。当然バージン原料も使いますけど、リサイクル率50%というラインは生かした状態で、建築材料として品質の安定したものを作りたいと考えています。この研究を完成させることが研究室の当面の目標で、いま最も注力していることのひとつです。

 

●建材の耐久性評価も研究テーマ

 以上お話したようなリサイクル関係の研究と同時に、普通の材料の研究にも取り組んでいます。そのひとつが、コンクリートなどの構造材や仕上げ材、外壁などの耐久性評価です。
 建築土木の材料というのは長く使われるものですから耐久性がないと困るわけですが、実は長ければいいというものでもない。例えば、長寿命の設計をしても20年で家を売ってしまったら、その瞬間に内装も変わってしまうかもしれませんよね。だとすると、躯体は100年持ってくれないと困るとしても、内外装などの建材はどれだけ長持ちして、どの時期に交換するのが本当の意味で適正なのか。本当はどこまで耐久性を上げるのが正しいのか。材料のリサイクルと並んで、この耐久性評価が私にとって2大研究テーマだといえますね。
【取材日 2014年4月25日】

略 歴

こやま・あきお

 1968年生まれ。専門分野は建築構造・材料および環境技術・材料、リサイクル工学。再生コンクリートの構造部材への適用に関する研究や、建設廃棄物の適正処理と再利用、プラスチック建材のリサイクル手法の研究など、建築資源の有効活用を通じたサステナブル社会の進展をめざして活動を続けている。
 1992年明治大学工学部建築学科卒。96年明治大学大学院博士後期課程を中退した後、東京都立大学工学部建築学科助手を経て、99年明治大学理工学部建築学科専任講師、2004年同准教授、2010年教授に就任。
 日本建築学会、日本コンクリート工学協会、日本建築仕上学会会員。コンクリート工学講演会年次論文奨励賞(2003年)、石膏ボード賞(特別功労賞、2009年)、日本建築仕上学会学会賞・論文賞(2010年)など受賞。主な著書に 『大学課程 建築材料』(菊池雅史博士との共著、オーム社)『ベーシック建築材料』(共著・彰国社)などがある。