2012年3月 No.80
 

「被災塩ビ管」のリサイクルに取り組む相馬市役所

大震災の傷手を撥ねのけて資源を有効利用。新潟県長岡市からの応援も

リサイクルのために集められた塩ビ管
 昨年の東日本大震災は、被災地のインフラ設備に壊滅的なダメージを与えました。福島県東部の沿岸都市、相馬市もそうした自治体のひとつ。地震、津波、原発事故の三重苦に喘ぎながらも、同市ではいま塩化ビニル管・継手協会が運営するリサイクルシステムを利用した塩ビ管(下水道管)のマテリアルリサイクルに取り組んでいます。新潟県長岡市の応援も受けながら進められる復興事業の現状を取材しました。

●復興への象徴的な取り組み

舗装の沈下で突出したマンホール

 東日本大震災によって相馬市は深刻な傷手をこうむりました。亡くなった人の数は458名、津波による家屋等の流出は1000棟を超え、東電福島第一原発の事故による放射性物質の飛散とそれに伴う風評被害は、農林水産業をはじめ製造業、商業、観光産業などが再生を果たして行く上で、依然大きな障害となり続けています。
 また、地震による建物の被害も市内全域におよび、大規模半壊、半壊、一部損壊を含めると市内全棟数の3割(4784棟)を超える建物に被害が出ています
 しかしその一方で、復興計画の策定(平成23年8月)、震災廃棄物(がれき)の撤去(24年2月20日時点で100%)と、復興への歩みは着実に前進しており、今回ご紹介する塩ビ管リサイクルの取り組みも、その象徴的な動きのひとつといえます。

●公共下水道の復旧とリサイクルが同時進行

地震直後の被害状況(市内尾浜地区)

 相馬市建設部下水道課の蛯原永吉主幹兼建設係長によれば、相馬市の下水道管路は総延長約150km。うち今回の地震で被災したのは12.7km(8 %)で、その殆ど(11.7km)が塩ビ管となっています(重量で81トン。残りはヒューム管)。
 下水道課では震災3日後の3月14日、福島第1原発3号機が爆発して市から避難の指示が出される緊張した状況の中で、管路の漏水や破損箇所等の調査を開始。以後、半年間にわたって滞水箇所の測定や、沈下した管路舗装部の修復などを進めた上で、県庁等関係機関との調整、復旧工事業者の選定などを経て、11月から正式に破損管路の復旧工事をスタートさせています。
 「ここで問題となったのが、撤去した塩ビ管をどう処理するかということ。県は以前から塩ビ管・継手のリサイクルを積極的に指導してきたし(建設副産物適正処理推進要綱)、我々としても大変な状況ではあるが、できるなら貴重な資源を有効利用したいと考え、リサイクルに取り組むことを決定した」(蛯原主幹)
 相馬市がこの決定をする上でキーマンとなったのが、新潟県長岡市から出向している下水道課の西野靖雄主任主査。西野主任主査は、平成16年の新潟中越地震、同19年の新潟中越沖地震のときにも塩化ビニル管・継手協会と連携して塩ビ管リサイクルに取り組んだ経験があり、昨年7月に相馬市に入って以降、市全体の被害概要の調査などに従事する一方、先の経験を生かして協会との仲介、リサイクルの段取りの検討などで強力な“助っ人役”を果たしています。
 リサイクル実施へ向けた相馬市と塩化ビニル管・継手協会の協議は10月末から始まり、リサイクル手法とリサイクル会社(協会の契約中間処理会社)の決定、復旧工事に携わる建設業者への協力依頼などを行なった後、12月には市の下水処理場敷地内に集積場(仮置き場)を確保。撤去された塩ビ管の搬入作業が開始されました。

●近隣自治体のモデルケース

リサイクルの流れ
<拡大図>

 相馬市における塩ビ管リサイクルフローは右の図に示したとおり。@建設業者が工事現場で前処理(撤去管の汚れ落としとリサイクル不適部品〈接合部のゴム輪と接着剤のついた支管〉の取り外し)を行なった後、A随時集積場に搬入し、B一定の分量が溜まった段階でリサイクル会社が回収する、という流れで、取材時点(2月6日)では、第1回目の回収が終了して(1月20日)、第2弾の撤去管が集りつつある状況でした。
 「リサイクルは難しいと思われがちだが、実際にやってみるとそんなに大変な仕事ではない。確かに前処理の手間は要るが、汚れ落としは通常の水洗い程度で済むし、支管の付いた管もそれほど多くはない。官民連携し再資源化に努め、環境に配慮すべきことを強調したい」(西野主任主査)
 相馬市の取り組みは近隣自治体のモデルケースとなっており、相馬市の情報を参考にリサイクルの検討を進めている市も出てきているとのことです。

●これからが正念。24年度内で完全復旧へ

ゴム輪、支管は産廃として埋立

 下水道課では、集積場に搬入された塩ビ管についてその都度放射能測定を行なっていますが、いずれも検出限界値以下(不検出)という結果になっています。「下水道はもともと地中に埋まっている施設である上、相馬市の下水道は分流式で雨水は完全にシャットアウトしている。復旧工事をお願いしている建設会社の人たちにも、そういう実態はきちんと理解してもらっている」(蛯原主幹)
 これまでに相馬市が復旧した管路は全体の10%程度で、リサイクルもこれからが正念場。蛯原主幹は、「津波で流された地区の下水道については復旧工事も手が着けられない状況だ。本来なら下水道の災害復旧は単年度で完了しなければならない事案だが、今回は次年度に繰り越す形になるだろう。しかし、うな垂れてばかりいられない。いま相馬市民は以前の街を取り戻そうと懸命の努力を続けている。我々も復興計画未定の地域は別として、24年度内で完全復旧を成し遂げる覚悟だ」と闘志を燃やしています。

蛯原主幹(左)と西野主任主査
(集積場で)