2011年12月 No.79
 

大震災、復興への道─災害廃棄物リサイクルで仙台市支援

東北大学・吉岡敏明教授に聞く「廃棄物資源循環学会」タスクチームの活動

 東日本大震災からの復興へ向け各被災地の懸命な努力が続く中、第一の関門となるのが災害廃棄物(がれき類)の処理の問題。量・質ともに未曾有の規模で発生した廃棄物をどう処理し、かつ有効利用していくのか。その道筋を定めることは、今後の復興の速度を大きく左右します。そんな中で、モデル事例として注目されるのが、リサイクルを重点とした仙台市の取り組み。廃棄物資源循環学会(会長=酒井伸一京都大学教授)の「災害廃棄物対策・復興タスクチーム」の幹事として、仙台市を拠点に支援活動に従事する吉岡敏明東北大学教授に、取り組みの状況を取材しました。

●「災害廃棄物対策・復興タスクチーム」の役割

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 東日本大震災における災害廃棄物の発生量は全体でおよそ2400万トン以上(自動車と津波堆積物を除く)。このうち、宮城県の分は1560万トンと6割強を占め、仙台市だけでも約135万トンに達します(2011年10月18日現在)。この膨大な災害廃棄物を迅速、安全に処理していくには、正確な情勢分析に基づいた明確な対処方針が求められます。
 仙台市の場合、災害廃棄物の処理に関して「平成23年度内に収集運搬を完了し、25年度末までに処理を完了する」という基本方針を決定していますが、注目されるのは「細分別を行い、できるだけ資源化を行う」として、積極的なリサイクル推進の意向を示している点。こうした行政の方針および具体的計画作りの上で重要な役割を担うのが「災害廃棄物対策・復興タスクチーム」の活動です。

●仙台市の廃棄物対策を支援

仙台市の状況を説明する吉岡教授

 現在、タスクチームのメンバーは技術や制度の専門家を中心に約150人。その中から、先人隊として吉岡教授と京都大学の浅利美鈴助教、平山修久准教授の3人が、仙台市役所を拠点に専門家からの情報収集や市関係者と協議を重ねながら、再資源化を中心とした「廃棄物分別・処理戦略」のマニュアル化に取り組んでいます。
 「タスクチームができたのは震災発生から一週間後の3月18日。その後、我々に何ができるかを整理して、24日に支援という形で現地に入った。仙台市に入った理由は、これまでも学会と大学との協力と連携がいい形で保たれていたことに加え、被害が沿岸部だけで都市部に行政機関の中心が残っていたこと、リサイクルの推進に熱心な市であることなどから、まず仙台市の廃棄物対策を支援し、その中で得られる情報をきちんとマニュアルに整理すれば、他の被災地の参考にもなるし、台風など津波や地震以外の災害にも有効なツールになるだろうと考えた」

●「廃棄物分別・処理戦略マニュアル」の公開

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 タスクチームの登録メンバーはすべてネットワークで繋がっており、仙台市の廃棄物対策を支援するため、様々な情報交換が行なわれています。あるメンバーが「こういう情報が欲しい」と呼びかると、すぐに他のメンバーから様々な情報が寄せられ、それを吉岡教授ら現地のメンバーが取捨選択したり、さらに練り上げたりして市に提供する、それを受けて行政が対策を考えるという形で情報の共有化が進められます。
 「逆に市から質問や要望が来た場合もネットワークを通じて情報を集める。例えば海水に漬かった木材の塩素濃度は大丈夫かという質問があれば、サンプリングした木材で燃焼試験をして、表面の何センチまでだったら安全にリサイクルできるかを分析するなど、きちんとしたエビデンスを我々のほうで提供するようにしている」
 タスクチームでは、こうした支援活動を積み重ねながら4月30日には廃棄物の種類ごとのリサイクル・処理方法や撤去作業、撤去に従事する人の安全管理、さらは貴重品、思い出の品の扱い方に至るまで17項目をマニュアル化してホームページに公開(http://eprc.kyoto-u.ac.jp/saigai)。その後も随時変更を加えながらバージョンアップに取り組んでいます(現在公開中のものはバージョン3)。

●13品目に分別してリサイクル

 仙台市の撤去作業は4月22日から一斉に始まっており、既に廃棄物のほぼ80%が仮置き場に搬入されています。「パーセントで言うともっと進んでいる自治体はある」とのことですが、同市の場合はリサイクルを前提に被災地である程度分別して搬入するシステムになっており、その点を考慮すると非常に早い対応といえます。きちんと徹底した分別を行なうため、撤去作業員を対象とした講習会を事前に実施している点も、こうした迅速な対応を可能にした要因となっているようです。
 仮置き場に持ち込まれた廃棄物はさらに細かく、木くず、ガラス・陶器類、金属くず、ソファ類、ふとん類、畳類、家電、その他金属など13品目に分別されますが、木くずだけでも4品目あり、倒木や倒壊家屋の柱などは紙パルプの原料にリサイクルするほか、細かい木くずはチップ化してセメント燃料やバイオマス発電に利用したり、パーティクルボードにして仮設住宅に使うことが検討されています。また、根っこの部分は砕いて家畜の敷き藁に利用する取り組みが既に山形県でスタートしています。このほか、畳についても2万枚がRPF(廃プラ混合固形燃料)の原料としてリサイクルされています。
 廃プラスチックは分別の対象にはなっていませんが、仮置き場で稼動している仮設焼却炉で、泥などが付着してカロリーが低い廃棄物を燃やすときに、一部が助燃材として利用されているとのことです。

●リサイクルこそ復興への近道

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 以上のように、実際のリサイクルも一部で動き始めている中、吉岡教授は「なぜ今リサイクルが必要なのか」という点について、改めて次のように説明しています。
 「こんな非常時になぜリサイクルなどという面倒なことをするのかとよく言われるが、その理由は簡単で、結果的にリサイクルしたほうが早いから。混合の状態のがれきを放置したままでは誰も持っていってくれず復興の妨げになる。早く何らかの形で処理しなければならないが、埋立処分は量が膨大すぎて十分な場所の確保は不可能。焼却は施設の建設費が掛かって仮設程度のものしかできない。残される道がリサイクルだ。リサイクルして有用物を分別すれば、仮置き場に持っていけるし、資源として市場にはける。リサイクルできないものは焼却して埋め立てるしかないが、焼却施設や処分場への負荷は小さくなる。それが全体としての処理スピード、復興スピードを上げることになるし、国内の新たなリサイクル・環境産業の育成にもつながる」
 吉岡教授は、前項で見た各種のリサイクルを進めることにより、「少なくとも災害廃棄物全体の5割程度は再資源化できる」と予想しています。

●今後の課題─広域処理の促進が不可欠

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 一方、今後の課題として吉岡教授は、広域処理の促進と廃掃法(廃棄物の処理及び清掃に関する法律)の問題点、そして再資源化技術の掘り起こしなどを指摘しています。
 「いま最も大変だと思っているのは、放射能の問題が絡んでいるせいもあって、広域処理が進まないこと。前述したように山形県が仙台市のものを受け入れるなど東北では既に一部で広域処理が始まっているが、復興を早めるには広域処理のさらなる促進が不可欠だ。ただ、この問題については、東京都が岩手県宮古市や宮城県女川町の廃棄物受け入れを決定したことがインパクトになって、その後大阪府をはじめ11都道府県の57市町村から前向きに検討するという回答をもらっている。
 また、廃掃法とリサイクル関連法との整合性を取ることも必要だ。廃掃法ではリサイクル業者を事業者として認めていない。制度的にはあくまで廃棄物処理業者なので、リサイクルしようとしても『一般廃棄物扱いなのになぜ産廃業者がやるのか』『マニフェストやトレーサビリティはどうするんだ』といった様々な問題が出てきて先に進まなくなる。
 あとは、我々がまだ気づいていない再資源化技術の情報を集めて積極的に利用していくというスタンスがほしいと思う。工業系の技術に限らず、家畜の敷き藁といった地域の生活の知恵レベルのものでも、まだ使える技術があるはずなので、そこをどう掘り出していくかが今後の重要なポイントになる」
 教授は「今回の取り組みでは、ひとつの目標に向かって皆の知恵を集結させることの大切さ、効力の大きさといったことをまざまざと実感した」と言います。人の繋がりこそ、最大の廃棄物対策と言えるのかもしれません。