2011年3月 No.76
 

循環型社会への論点−
廃棄物処理、3Rをどう進めるか

企業法務のスペシャリストが見据える、
合理的、効率的な法整備の道筋

弁護士/第一東京弁護士会環境委員 佐藤 泉 氏

 

●廃棄物処理法の曖昧さ

 弁護士になった当初は、大学で学んだ語学を生かして企業の知的所有権に関連する英文契約などの仕事をしていました。しかし、米国の土壌汚染に関するスーパーファンド法に接する機会があり、環境法のコンプライアンスとリスク管理という分野に興味を持つようになりました。17、8年前のことです。

 当時日本では企業の環境リスクをやっている弁護士はほとんどいませんでした。また、環境法というのは、大気・水・土壌など、人々が共有している財産や価値を一緒に守っていこうという法律である点が、私の興味を引いたのです。知的所有権は、著作者や発明者が権利を独占して、それをライセンスするという考え方です。しかし、環境法では、行政・住民・企業などが、それぞれの観点から共有の財産である環境のあるべき姿を模索しています。化学物質をひとつとっても、どうして危険なのか、どのように使えばよいのか、どのように情報を提供すればよいのかなど、様々な人がリスクコミュニケーションしながら考えていく。将来世代のリスクまで考えるという点は、他の法律にはあまりない発想です。
 廃棄物問題でもそうですね。すべてのものは廃棄物と廃棄物以外に分けられるとか、一般廃棄物(一廃)と産業廃棄物(産廃)に分けられるということが、法律の適用上において前提となっています。しかし、一方で、「廃棄物という概念は人間が作った社会的概念であって、もともと自然界に廃棄物なんてものはない。循環型社会ではすべてが資源のはずだ。」「排出者によって一廃と産廃を分けることは、適切で効率的なリサイクルをするうえでは不合理だ。」と考える人もいます。つまり、現在の廃棄物処理法というのは、廃棄物の定義と区分という基礎において、曖昧な部分や不合理な部分を持っているのです。そこで、社会のニーズや事業者の立場によって、何が廃棄物かは違ってくるんですね。環境のためには、どのような法律がよいか、またどのように解釈・運用するのがよいのか、という観点から考えることができる。これが難しくて、また面白いところです。

●三者三様、廃棄物処理法への視点

排出者から見た廃棄物の適正処理

 例えば、一般の排出事業者は利用できるものは利用して3R(リデュース、リユース、リサイクル)を推進したい、また一旦廃棄物になったものでも何かの加工をして資源として利用させたいと思っています。リサイクルするには、ある程度の量の確保が必要ですから、親会社・子会社・関連会社などが協力して、一体として取り組みたいと考えます。また、ビジネス上、顧客の廃棄物処理の負担を低減することは、社会貢献でもあり、同時に顧客から喜ばれます。そこで、要望があれば下取りや、梱包材・空容器などの回収などの顧客サービスを自主的にしたいと思っています。このような顧客サービスをする場合、対象物が廃棄物に該当するのか、また産廃と一廃のどちらなのか、という点が気になりますが、事業者としては、社会のため、顧客のために貢献しているのだから、廃棄物処理法に邪魔をされたくないという気持ちになります。

行政から見た適正処理

 ところが、行政のほうはそうではありません。親会社と子会社の廃棄物を混ぜてリサイクルするとか、共同でリユースするとか、そんなことは法律が想定していないので、やめて欲しい。また顧客サービスとして廃棄物を引き取るという考え方は、排出事業者の意識の低下、また委託基準の違反につながりかねません。廃棄物については廃棄物のルールを徹底してほしい、つまり一廃と産廃に分けて、廃棄物処理業者に委託して欲しい。要はできるだけ廃棄物にしたいと思っているのです。

廃棄物処理業者から見た適正処理

 一方、両者の間で困難な立場にいるのが廃棄物処理業者です。廃棄物処理法で言う適正処理というのは、焼却したり破砕したりして、廃棄物として最終処分場に入れることです。廃棄物から有価物を取り出して売却したり、リサイクルしたりということが果たして適正処理なのか、それをどのような許可で出来るのかが、明確ではありません。処理業者の許可証には破砕の許可の記載はあっても、有価物を取り出す許可の記載はないのです。でも、現実にはほとんどの処理業者がリサイクルに取り組んでいる、すなわち途中でモノを抜いて再資源化しているわけで、それはどういう権利があって、またどのような契約で許されるのか、廃棄物処理法では何の答えもない。つまり、現代の処理業者は循環型社会の中でどうやって仕事をすべきなのか不明確な状況に置かれたままになっているといえます。

●法律は不完全なルール。求められる不断の改善努力

 このように、排出者、行政、処理業者それぞれが違う方向から法律を見ているわけですが、法律というのはもともとそういう不完全なものなのです。許可を取って適正処理をしてくれという行政の考え方自体は間違いではないし、いいことをしているのになぜダメなのかと思う排出者の言い分も間違ってはいません。ただ、両者の考えが合わないだけです。だからこそ、法律という不完全なルールをよりいい方向に直していく不断の努力が求められるのだと思います。
 私としては、一部の業者が不法投棄などの違法な処理をするからといって、全部を監視することが必要なのかという点には疑問を感じますし、意欲的な3Rに取り組む事業者の芽を潰すことになってしまうのではないかと懸念しています。
 循環型社会とは、廃棄物はすべて捨てられたものであるという考えから、資源であるという考えに転換すること、そしてリスク管理しながらそれを賢く利用していく社会のことです。そういう意味では、現在の廃棄物処理法はあまりにリスクの部分に重点を置いて業者を監視することに努めているため、有効利用という視点が非常に弱いと言わざるを得ません。これをどう変えていくかが、循環型社会の大きなポイントだと思っています。

●各種リサイクル法の問題点

 現在では資源の有効利用のために各種のリサイクル法もできていますが、いずれも不完全で問題を抱えています。廃棄物処理法を基本にしているため、一廃と産廃の垣根の問題や、資源循環を促進するということが難しくなっています。例えば、容器包装リサイクル法で言うと、紙はそのまま古紙の原料にできるし、ビン、缶などの容器は専ら物(廃棄物処理法上「もっぱら」再利用されるものとして、収集・運搬業の許可不要の特例を受けているもの。(1)古紙、(2)くず鉄類、(3)あきびん類、(4)古繊維の4種類)として、回収して売れるわけですから、本当は容リ法がなくてもリサイクルできます。ペットボトルも集めれば十分売却できます。その他のプラスチックでよごれた物は、もともとリサイクルに向かないものなので、焼却するほうが適切だと思います。廃棄物の焼却には反対する人もいますが、衛生や経済合理性から考え、下手なマテリアルリサイクルよりサーマルリサイクルのほうがいい場合もあります。したがって、何でもマテリアルリサイクルがよいという発想には問題があると思います。さらに、容リ法の問題は、収集運搬にエネルギーをものすごく使っていることです。自治体の分別回収は、人件費やガソリン代で大きなコストが必要となっています。
 建設リサイクル法については、本当は発注者側がもっと責任を持って不法投棄の防止と3Rに取り組まないといけないと思います。廃棄物が大量に出る公共工事・民間の大型工事の場合は発注者が自ら3Rの工夫をすべきです。
 家電リサイクル法についても、小売業者に回収の義務を求める前提そのものに問題があります。現在は商店街の小売店が自分でテレビなどの配達をするということはほとんどありません。配送センターからの配達を行う物流業者が、廃棄物処理法の許可なく廃家電を運搬できるようにすべきでしょう。

●試行錯誤する社会を許容しよう

抜本的改正は可能か

 廃棄物処理法もリサイクル法も、現在の社会に適応するよう、根本から見直さなければならないのではないでしょうか。
 3Rの中で大事なのは経済性、安全性、運送の効率化です。この3つが揃わないいと3Rは動きません。製造者や販売店、廃棄物処理業者が連携して、鉄道や船を使って、ダイナミックかつ自主的な取り組みができるようにすべきです。一廃と産廃の垣根を超えた効率的な3Rができるよう、規制緩和が必要だと思います。
 こうしたことを長いこと提言しているのですが、私の意見はなかなか通りません。でも、皆でああだこうだ議論しながら、世の中のルールは変わっていくものだと思います。試行錯誤は人間社会の本質であって、それが活力を生みます。法律は守るだけではなく、変えていかなければならない。よりよい社会のために、企業も市民も行政も試行錯誤をすることが必要です。あれもダメこれもダメではなく、自分がよいと思うことをやってみる、そしてそれを社会に問うてみるという勇気や活力が必要ではないでしょうか。コンプライアンスの姿は多様であるはずだと思います。
【取材日/2010年12月3日】


略 歴
さとう・いずみ

 1959年横浜市生まれ。82年早稲田大学英文科卒業の後、進路を変え84年司法試験合格。87年第一東京弁護士会登録。96年佐藤泉法律事務所開設。
 環境問題、特に廃棄物処理法及び土壌汚染対策法、環境マネジメント、CSRなどに関する企業法務が専門。現在、日本大学法科大学院講師、筑波大学法科大学院講師、環境省中央環境審議会臨時委員。著書に『実務 環境法講義』(共著、民事法研究会)、『廃棄物処理法完全ガイド』(監修、日経PB社)など。