2010年12月 No.75
 

塩ビ管リサイクルの今/関西地区の現場を訪ねて

(株)竹中工務店大阪本社と日進化学工業(株)、強力タッグで安定した取り組み

 資源の有効利用をめざして、塩化ビニル管・継手協会が使用済み塩ビ管のリサイクルに着手して12年。全国に整備されたリサイクル拠点を基盤に、いま各地でさまざまな取り組みが活発に繰り広げられています。今回は、その中からゼネコン大手の(株)竹中工務店大阪本社(大阪市中央区本町4-1-13/TEL 06-6263-5770)と、塩ビ管リサイクル協力会社の日進化学工業(株)(大阪市平野区加美北6-15-34/TEL 06-6791-3401)の8年におよぶ連携プレーの模様を覗いてみました。

●整備進むリサイクル拠点のネットワーク

 

 塩化ビニル管・継手協会(以下、協会)が進めるリサイクル事業は、建設現場や管工事現場などから出る使用済み塩ビ管を、再び再生原料(粉砕品やペレット)やリサイクル塩ビ管として蘇らせる取り組みです。この事業を支えているのが、リサイクル会社や中間処理業者などの協力で全国各地に設置されたリサイクル拠点。これらの拠点は分担する役割により、(1)排出者が自ら汚れや異物を取り除いたものを持ち込む中間受入場、(2)排出者に代わって汚れ、異物の除去を行う契約中間処理会社、(3)再生原料やリサイクル塩ビ管を製造するリサイクル協力会社、の3種類に分けられ、これを効率的にネットワーク化することで、使用済み塩ビ管の受け入れ〜リサイクル管の製造・販売に至る一貫リサイクルシステムが機能しているのです。
 2010年11月現在までに整備された拠点の数は、中間受入場29、契約中間処理会社30、リサイクル協力会社16の計75カ所。全国で排出される使用済み塩ビ管は、各地域の中間受入場や契約中間処理会社に集められ、リサイクル協力会社や契約中間処理会社の手でリサイクル塩ビ管の再生原料に加工され、協会会員会社でリサイクル管を製造販売するというのが基本的な枠組みで(一部フィードストックリサイクルを含む。右図参照)、協会は各拠点への支援とシステム全体の調整機能を担当します。塩ビ管のリサイクル量は2009年度の実績で年間約2万トン、リサイクル率は約55%に達します。

●ゼネコン&リサイクル会社の貴重なモデルケース

 一方、排出する側との協力も進んでおり、地域の建設会社や管工事業者・組合などのほか、最近は積水ハウスや大和ハウス工業といった大手ハウスメーカーの中にも協会のリサイクルシステムを利用して、自社の建築現場から出る使用済み塩ビ管を再資源化する動きも出てきています(本誌No. 67参照)。
 ただ、ゼネコンとの協力については、一部を除いてこれからの課題となっているのが現状で、今回取り上げる竹中工務店大阪本社と日進化学工業の取り組みは、スーパーゼネコンが協会のリサイクル協力会社と連携してごく早い時期から塩ビ管のリサイクルを進めてきた例として、貴重なモデルケースといえます。

竹中工務店大阪本社&日進化学工業の取り組み

●お互いの信頼関係の中で

 竹中工務店大阪本社(以下、竹中工務店)が日進化学工業との連携で建設廃棄物の現場分別とリサイクルに着手したのは2002年のこと。以来、お互いの信頼関係の中で安定した取り組みが進められてきました。同社安全環境部・小鯛雄一課長補佐(環境担当)の話。

  小鯛課長補佐(右端)とTB関西物流の皆さん

 「当時の建設現場では建設廃棄物の分別は殆ど行われておらず、混合廃棄物という形で中間処理会社に処理を任せてしまうケースが大半だった。しかし、資源循環を求める社会の潮流、さらにはゼネコンのリーディングカンパニーの責任として、自らの手で川上(現場)から分別し混合廃棄物を少しでも減らさなければならないと考え、2年ほど検討を重ねた末、2002年から中間処理業者を通さずに直接リサイクル会社に持ち込むという形を他社に先駆けてスタートさせた。協会のリサイクル事業と日進化学工業について情報を得たのは確か2000年ごろだったと思う。排出業者の責任として信頼できるところでなければ任せることはできないので最初は慎重になったが、工場をひと目見てきちんとした仕事をしている会社だと判断できたし、協会が後ろ盾になっていることも我々の信頼感を強める要因になった」
 現場分別は石膏ボード、木くず、コンクリート殻など量の大きな品目から順次始まり、塩ビ管については「排出量は少ないが、少ないものでもやらなければということで、やや遅れてスタートした」とのことです。

●竹中工務店の物流ネットワーク基点・TB関西物流(株)

 ここで塩ビ管の回収からリサイクルまでの流れを見てみます。現在、竹中工務店が分別している品目数はコンクリート殻から混合廃棄物まで11品目。現場には同社が開発した1m3詰めのカゴパレットがフレコバッグとセットで品目別に配置されており、塩ビ管もいったん専用のパレットに集められた後、フレコンバッグだけ取り出して、奈良市にあるTB関西物流(株)の積替保管施設に回収されます。
 TB関西物流は、廃木材を原料に建材(木質ボード)を製造する東京ボード工業が「大阪にリサイクルを根付かせるための物流拠点」として竹中工務店と共同で設立した会社で、この物流基地を最初に設置したことが、その後の事業展開を左右する大きな要素になったようです。
 「奈良市の積替保管施設を基点にTB関西物流の集配車が近畿2府4県を常時回っていて、電話で指示を受ければ、少量の廃棄物でも直ちに対応できるシステムになっている。この車は、回収コストを安価に抑えるため製品の配送も兼ねる形にしており、この方法により塩ビ管も1m3の少量から対応可能になった。こうしたことを含めて、TB関西物流を中心としたこの物流ネットワークには、単純なようで非常に細かいノウハウがいくつも駆使されている」と小鯛課長補佐は胸を張ります。

●混合廃棄物の量は7分の1に。現場の意識改革も決め手

 同社の「静脈物流」を完成させる上で、もうひとつの決め手となったのが現場の意識改革です。 「現場の職人さんは分別などに手間を取られたくないというのが本音。その気持ちを変えてもらうため、ゼロエミッョンの講習会を現場で実施するなど教育には相当な時間と労力を費やした。その結果、どんな小さな塩ビ管でも分別するという意識が定着し、混合廃棄物として塩ビ管が中間処理会社に行くことは当社の現場では100%なくなった。混合廃棄物の量はかつての7分の1程度に減少した」
 同社の取り組みが始まってから、関西地区の他のゼネコンの中にも同社の物流ネットワークを利用して廃棄物のリサイクルに取り組むところが出てきています。こうした相乗り効果もあってTB関西物流の事業はここ5年ほどでようやく商業ベースに乗ってきたといいます。
 「とにかく重要なのは分別精度を上げること。混合廃棄物の状態では嵩張ってきれいに積めないが、同じ品目、物性のものをきっちり分ければ空隙が大幅に減って、輸送コストも圧縮できる上、環境中にも余計なCO2を放出しないで済む。我々はこれを『積み木の理論』と呼んでいる」
 こうして分別回収された廃棄物は品目ごとにまとめられ、それぞれのルートでリサイクルされることになります。塩ビ管の量は年間約50トンで、全量が大阪の日進化学工業に搬送されます。

●塩ビ管リサイクル一筋に半世紀、日進化学工業

 
日進化学工業

 日進化学工業は昭和39年の創業以来、半世紀近くにわたって塩ビ管リサイクル一筋に取り組んできた会社で、協会のリサイクル事業にも、スタート当初からリサイクル協力会社として参画。関西地区の拠点のひとつとして、事業推進の重要な原動力となってきました。現在は、大阪、兵庫、奈良、和歌山を中心に、竹中工務店や産廃業者、配管工事会社などから月約40〜50トンの使用済み塩ビ管を受け入れ、粉砕処理を行ない、協会の会員会社等に販売され、リサイクル塩ビ管の原料として利用されています。

 
上井社長

 同社の3代目社長・上井光生氏は、竹中工務店とのパートナーシップについて、「竹中工務店とはうちが協会のリサイクル協力会社になった直後からずっとお付き合いを続けてきた。竹中工務店は関西でいち早く環境問題に取り組んだ、ゼネコン業界の中ではまさにパイオニア。うちに入ってくる塩ビ管廃材の質も大変良好で、初めのうちこそ多少汚れたものも入っていたが、今では殆ど手をこちらで加える必要がない。返品も全く出ない」と説明しています。

●「協会のリサイクル事業」に対する信頼感

 上井社長によれば「協会のリサイクル協力会社になってから取扱量が大きく増えた」といいます。
 「竹中工務店ばかりでなく、協会が責任を持つリサイクル事業という点に排出者は信頼を寄せている。最近は市町村からも結構問い合わせが来る」
 その一方「昨年以降の建設不況が事業に影響を与え始めている」とのことで、上井社長は「特に今年は量的に減っている。リサイクル業は商売をしながら循環型社会に貢献できるやり甲斐のある仕事だが、それも経営が成り立ってこそ。うちはこれからも塩ビ管リサイクル一筋でいくつもりなので、協会や竹中工務店とも知恵を合わせて、きるだけ多くのモノを集めるようにしたい」と今後への意欲を見せています。

   
 
粉砕作業の様子
 
再生塩ビ原料