2009年6月 No.69
 

アールインバーサテック(株)の塩ビ壁紙リサイクル事業

「叩いて分ける」ベンチャー企業の独創性が
生み出したMR壁紙再生システムの驚異

MR壁紙再生システム
 生活空間を彩るインテリア素材として欠くことのできない塩ビ壁紙。工場廃材、施工時の廃材をマテリアルリサイクルする「MR壁紙再生システム」に、いま関係者の注目が集まっています。システムを開発したアールインバーサテック(株)(網本吉之助社長/東京都千代田区神田泉町1-7-5、TEL03-3864-0140)の東京開発センター(江戸川区中央)を訪ねて、“叩いて分ける”画期的な取り組みの現状を拝見。

●マテリアルリサイクルが難しい塩ビ壁紙

 塩ビ壁紙の生産量は年間約21万トン。意匠性、耐久性に優れ燃えにくく施工も容易など様々な特長を有することから、その需要は全壁紙市場の約94%に達しますが、年間14万トン程度排出される使用済み廃材については、パルプと塩ビの複合材であることなどの理由で再利用が難しく、大半が単純焼却か埋立処分されているのが現状。
 近年に至って、セメント原料や活性炭化物への利用など意欲的な挑戦が試みられるようになっていますが、強固に接着された塩ビ層とパルプ層の分離が難しく、特にマテリアルリサイクルについてはなかなか有効な手法が確立されてきませんでした。

●明治大学、東京都産技研との共同開発

システムの心臓部となる叩解装置

 こうした状況の中、文字どおり満を持して登場したのが、アールインバーサテックのMR壁紙再生システムです。叩解(こうかい)法と言われる技術を用いて塩ビ層とパルプを高純度に分離、それぞれを塩ビコンパウンド、パルプファイバーとして再資源化するこのシステムは、薬品の使用や熱処理などを伴わない点も含めて、オリジナリティあふれる画期的なものといえます。
 同社は、1991年 NC精密機器製造を主業務として設立されたベンチャー企業で、2002年には日本初の切削加工技術を用いた塩ビタイルカーペット再生システムを開発、中間処理業の(株)御美商と共同で事業化に成功し、既に国内外で多くの実績を上げていることは本誌でも度々ご紹介してきたとおり(同システムの事業は現在リファインバース(株)に移管)。
 壁紙の再生技術の開発に着手したのは2005年からで、明治大学理工学部の建築材料研究室(菊池教授、小山准教授)、東京都の産業技術研究センターとの共同で、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、東京都の中小企業振興公社等の助成を受けながら開発作業を進めてきました。
 2007年10月には千葉県八街市に実証プラント(500kg/h)を建設。2008年7月からは実証プラントで生産したリサイクル原料の販売も開始し、2009年4月からいよいよ本格的な事業展開に移行することとなったものです。

●秒速150mで塩ビとパルプを瞬時に叩解

 処理工程を簡単に説明すると次のとおり。まず壁紙を20mm角のフレーク状に細片化した後、高速遠心叩解装置に投入します。

 この装置がプラントの心臓となる部分で、フレークは装置内の高速回転体に取付けた金属製の叩解工具(右図)で叩かれ、秒速150m、新幹線の倍という激しい衝撃により強固な接着界面が瞬時に破壊され、塩ビは300ミクロン以下の微粉に、パルプは数ミリ大のファイバーに離解します。
 最後に精密分離工程(篩や気流選別)を経て高純度の再生原料が完成します。
 叩解装置の処理能力は最大で250kg/h。また、細片化装置には施工端材などの不定形なものに適した「リサイクルブレーカー」と、ロール状の工場端材などの処理を対象とした「チギール」の2種類があり、ともに特殊形状のシリンダー刃による引きちぎり方式を採用した同社の独自開発製品。システム全体は非常にコンパクトに設計されています。

●3年掛かりの研究開発

「MR壁紙再生システム」の処理フロー

 「はじめは切削加工技術を使えばできるとタカをくくっていたが、タイルカーペットに比べて軽くて薄く、塩ビ層とパルプ層の接着界面が非常に強固な壁紙は削って分離することなどとても無理。
 そこで、西下孝夫研究開発部長(取締役、工学博士)のアイデアから高速で叩くという方法を試してみたところ、これだという手応えを得た。いろいろ試行錯誤した結果、周速100m/秒以上で叩くと一気に分離することも分かった。これが2年前ぐらい。
 その後、連続システムで量産体制を確立するのに1年かかった。まだ改善の余地はあるが、何とか商売になるレベルにまで進化したと思う。
 ドイツでは塩ビ床材を極低温の液体窒素で冷やして粉砕する方法をやっているところもあるが、こっちは常温。コストも環境負荷も大幅に減少している」(網本社長)
 明治大学建築材料研究室の分析では、リサイクル塩ビコンパウンド生産時のエネルギー消費量、CO2排出量いずれも、バージン材生産に比べてほぼ3分の1程度に低減できるとのことです(塩ビ壁紙リサイクルの省エネ・CO2低減効果のグラフ参照)。

 

 

●関東地区の塩ビ壁紙リサイクル拠点に

システムの説明をする網本社長(右)と西下研究開発部長

 アールインバーサテック社では当面、東京、埼玉、千葉、栃木各都県の壁紙メーカーなどを対象に細片化システムの販売を進めるほか、既に微粉化システムを導入しているリサイクル業者・栄鉄鋼商事(株)(東京都足立区)の八潮エコロジー(埼玉県八潮市)にメーカーの工場端材の一次加工品などを集めて再生処理する分散型の処理事業も展開していく計画。
  生産されたリサイクル原料は、提携会社の三喜産業(株)が成形メーカーに販売して、塩ビコンパウンドについては自動車のフロアマットやフローリング材などに再利用されることになっています。
 今回の取材では、栄鉄鋼商事八潮エコロジーに設置されたシステムの様子も見せていただきましたが、同社の江井仙佳取締役は、

栄鉄鋼商事の江井仙佳取締役

 「100%リサイクルを旗印に高品質のリサイクルを追求している当社にふさわしいと考えて事業に参加した。目標は月100トン処理。まずはメーカーの製造ロスから始めて、産業廃棄物(施工ロス、残材)、使用済み品へと段階的に進めていき、関東地区の塩ビ壁紙リサイクル拠点としてのポジションを確立したい」
と意欲を見せています。
 MR壁紙再生システムは、ターポリンなど壁紙以外の塩ビ複合製品のリサイクルにも応用可能で、今後塩ビのリサイクルを大きく広げることが期待されます。

 

塩ビ壁紙リサイクルの省エネ・CO2低減効果