2009年3月 No.68
 

(株)佐藤技研の「塩ビ製装飾用義手」

リアルで丈夫で低価格。障害者の自立を支える福祉用塩ビ製品

 今回の「塩ビ最前線」は、福祉用途の塩ビに注目。独自のリアル義手を追及して60年、日本唯一の専門製作研究所として障害者の肉体的、心理的ダメージ回復を支えてきた(株)佐藤技研(佐藤洋二社長、京都府宇治市)を訪ねて、塩ビ製義手の今を取材しました。塩ビは福祉でも貢献しているのです。


●塩ビ製義手のパイオニア

佐藤哲也専務

 昭和26年の創業以来、一貫して“リアルで見た目の良い装飾用義手”にこだわり続けてきた佐藤技研。塩ビ製義手のパイオニアとして、その存在は日本における福祉の分野に独自のポジションを確立しています。
  同社の佐藤哲也専務のお話。「昭和初期東京で宮大工をしていた祖父が、主に戦傷兵のために製作していた木製の義手が当社の原点。戦後、父親の佐藤政義が新たな発想を得て会社を創業したが、塩ビと出合ったのは昭和30年頃のことで、京都府の工業試験場などと相談しながら、可塑剤の配合や成形方法など、一から研究を重ねて製品を開発した」
 現在では、リアル感でやや勝るシリコーン製の義手も開発されていますが、丈夫で軽く、価格も安い塩ビ製は実用性に優れ、同社の年間製作数およそ1万個のうち6割が依然として塩ビ製。また、同社の塩ビ製義手は障害者自立支援法の補装具として認定されており、購入費の90%が公費補助対象となっていることも需要を支える一因と言えるようです。

●社会的貢献度の高い製品

 塩ビ製義手の主な製作工程は、原料となる塩ビペーストと可塑剤などの配合から始まって、金型選別→成形→着色→フィッティング(個人の状態に合わせた二次加工)→接着・溶接→芯材(針金や綿など)の詰め込み→表面処理という流れで、そのすべてが基本的に手作業で行われます。特に、モールドスラッシュ法(塩ビペーストを加熱金型に入れ、側面に付着させて再加熱し焼成する方法)を繰り返して厚みを調整する成型工程や、微妙な勘と熟練が求められるフィッティング工程、接着工程などは機械任せは不可能で、「熱可塑性、加工性の良さ」という塩ビの利点が大きくモノを言う場面だといいます。
 「メールや手紙でお客さまの喜びの声を聞く時が一番うれしいし、やり甲斐を感じる。我々は、企業活動ではあるが社会的貢献度の高い製品を提供したいということを日々考えて仕事をしている。時折、テレビ番組や映画の製作会社などからエンターティメント目的の製品提供依頼もあるが、一切受けたことはない」(佐藤専務)。
 塩ビ製義手の耐用年数は、樹脂の硬化や汚れなどもあって、長くて3〜5年。同社では、防汚対策としてフッ素系樹脂やアクリルコーティングの技術を開発していますが、使用済み製品や工場端材のリサイクルが今後の大きな課題で、「できるだけ早く環境に迷惑をかけないリサイクル方法を見つけたい」と佐藤専務は考えています。

成型工程
接着工程