2007年9月 No.62
 

進む、タイルカーペットのエコ対策

使用済み製品のリサイクル、グリーン購入適合品の 開発など業界挙げての取り組み

 オフィスやデパート、ショッピングモールなどのフロアを美しく彩る内装材として現代の生活に欠 くことのできないタイルカーペット。近年はビルの建替えやIT化に伴って需要が増加する一方、リ サイクルしにくいとされきた難点を克服。カーペットtoカーペットのリサイクル、グリーン購入適合 品の開発など業界挙げての環境対応が進められています。

●エコマーク認定商品も登場

 タイルカーペットの国内出荷数量は約2800万m2(2006 年)。一方、工場廃材や施工端材、使用済み廃材など、 産業廃棄物として埋立処分される量は年間5万トン程 度と推定されますが、表面の繊維層に塩ビのバッキン グ層を貼り合わせた構造となっているため、リサイク ルしにくいのが難点とされてきました。中間処理の分 野では、リファインバース(株)(東京都中央区。本誌 57参照)のように、回収した市中廃材を層間分離して、 塩ビバッキング層をリサイクルする取り組みも見られ ますが、使用済み製品の多くはまだ埋立処分されてい るのが現状。
 こうした中、2004年4月にはグリーン購入法の特定 調達品目(インテリア・家具類のカテゴリー)に指定 されたこと、さらに2005年9月にタイルカーペットが (財)日本環境協会のエコマーク対象商品(商品類型 No.118=プラスチック製品)に認定されたことを機に、 業界の環境対応が加速。再生塩ビ原料を利用した製品 の開発が相次いでいます。
 業界のとりまとめ役を 担う日本カーペット工業 組合(大阪市中央区) タイ ルカーペット部会の窪田 衞技術委員長(東リ(株)第 2開発部長・理事)によ ると、「使用済みカーペッ トを加工したリサイクル シートをバッキング部に積層したり、粉砕した再生原料 を樹脂の中に練り込んで加工したリサイクルタイルカー ペットが開発され、グリーン購入適合品への登録も増え ている」とのことで、より基準の厳しいエコマーク(グ リーン購入法適合品の基準値は製品総重量の10%以上、 エコマークは市場回収の場合25%以上〔工場内廃材は 50%〕の再生材を使用していること)に対応した製品も登場してきました。

■タイルカーペットとは
  通常50cm角の正方形に加工したタイル状のカーぺットの こと。
 一般的には基布の上にナイロンなどのパイル(表面を形成 する糸の束)を刺繍し(タフティング)、塩ビのバッキング 層で裏打した構造で、接着剤などを使わず敷き詰めて使用で きるため、汚れた部分だけを取り替えたり、配線工事のため に一時的に取り外すのも簡単など、施工性、メンテナンスに 優れる。デザインも多彩。

■グリーン購入法適合品の登録状況
アスワン(株)(5品目)、(株)川島織物セルコン (1品目)、クリーンテックス・ジャパン(株) (4品目)、(株)サンゲツ(19品目)、住商イン テリアインターナショナル(株)(17品目)、 住江織物(株)(17品目)、(株)セルコンテクノ ス(4品目)、(株)タジマ(1品目)、(株)テラモト(4品目)、 東リ(株)(5品目)、東亜紡織(株)(1品目)、(株)トーカイ(2品 目)、長谷虎紡績(株)(3品目)、リ・プロダクツ(株)(2品目)

■エコマークの認定状況
住江織物梶i3品目)、叶島織物セルコン (2品目)、三協フロンテア梶i2品目)


●日本カーペット工業組合の取り組み

 こうした企業レベルの取り組みと並行して、日本 カーペット工業組合のリサイクル委員会とタイルカー ペット部会を中心とした業界レベルの環境活動も進め られています。
  同組合では、5年間でカーペット全体の工場内廃材 排出量の20%削減(2001年度比)というゼロエミッ ションに向けたアクションプログラムを平成18年度に 達成したほか、カーペット、ふとんなど関連7団体で 構成する「インテリアファブリックス産業活性化協議 会」としてグリーン購入適合品の統一マークを制定。 現在は、再利用技術情報の業界共有化に向けて、使用 済みタイルカーペットのリサイクル技術に関する研究 に取り組んでおり、タイルカーペット廃材を再度、タ イルカーペットに還元する「カーペットtoカーペットの リサイクル」にとどまらず、セメント原燃料化やサー マルリサイクルへの利用も含めて全国各地の先進技術 を調査中です。また、年内に欧米のリサイクル現状調 査も行う計画です。

●メーカーの取り組み事例1 ─ 東リ(株)のTTRシステム

東リのグリーン購入適合品GA-100G
 東リ(株)(兵庫県伊丹 市) は、タイルカー ペット業界の最大手。 タイルカーペットのリ サイクルについても、 工場内端材のリサイク ルプラントを2000年に 立ち上げたの続いて、 2002年には、工事現場 の使用済み廃材や施工 端材を回収、リサイク ルするTTRシステム(東リタイルカーペットリサイク ルシステム)を構築。メーカー自らの手によるリサイク ルの先進事例として業界の注目を集めました。 同社のリサイクル技術は、 タイルカーペットの廃材を層間分離することなく、そのまま粉砕・溶融してシー ト状(リサイクルシート)に加工したものをタイルカー ペットのバッキング材に利用するもので、繊維分離の 手間をかけずに丸ごとリサイクルできる点に大きな特 長があります。
  こうした取り組みによって、同社におけるタイル カーペットの再生利用量は、2004年度の約1000トンか ら、2005年度には約1300トンに増加。昨年は、リサイ クルシートを使用したタイルカーペット7品目をグリー ン購入法適応品として発売しています(ソコイタリ・ クラシック、レアクラウド、レアクラウドV、コレンテ V、グランドアートGA-8500、GA-8500S、GA-100G)。 これらのリサイクル タイルカーペットに再利用されて いる廃材比率は重量比約20%で、グリーン購入法適合 基準の10%を大きくクリアしています。また、市中廃 材についても、一部回収し再利用しています。更にこ のタイルカーペット廃材は、タイルカーペットに還元 するだけでなく、他の硬質床材へも利用しています。 以上のほか、タイルカーペットをローテーションで 洗浄・保管・交換し、それをを繰り返すことでタイル カーペットの長寿命化(約2倍)とフロアの美観維持 を可能にするオフロケーションシステムも、同社の注 目すべき環境対応のひとつ。
  東リでは、今後も引き続きゼロエミッションやTTR システムの推進に取り組み環境対応の充実を図ってい く考えです。
東リTTR(タイルカーペットリサイクルシステム)のフロー図

●メーカーの取り組み事例2 ─ 住江織物(株)の裏表ダブルリサイクル

住江織物のエコマーク認定商品  SG300
 10年前からKKR+A(健康、環境、リサイクルとア メニティ)を標榜し、業界にさきがけて環境対応を進 めてきた住江織物梶i大阪市中央区)。同社では、前出 リファインバースと共同で使用済みタイルカーペットのリサイクルシステム を確立、リファイン バースが処理した塩 ビバッキング層のリ サイクルパウダーを、 住江織物のタイル カーペット製造工程 で直接バージン材に 配合するという技術 (リサイクルシートを 貼り合わせるのに比 べて製造工程が省略 できる)により、スミグリーンSG100、200、300という 一連のグリーン調達基準適合商品を開発してきました (前述したグリーン購入適合マークも元は住江織物のオ リジナルで、これを業界で統一マークに採用したも の)。
  中でも、2006年9月に発売されたスミグリーンSG300 は、バッキング材に塩ビのリサイクルパウダーを使用 しているのはもちろん、表面の繊維層にもPETボトル を主原料とした再生ポリエステル「スミトロン」を使 用、裏表ダブルリサイクルを実現しているのがポイン ト。この結果、製品に占める プラスチック再生材の 使用割合は重量比25%以上となり、カーペット業界で は初めての「エコマーク」新基準の改定以降認定商品 となっています。
(株)スミノエ 角野部長
  住江織物の企画調達部門を担当する(株)スミノエ(大 阪市西区)の角野修二商品部長(カーペット業務用担 当)によれば、「発売後10カ月を経過して出荷量は10万m2ぐらい。環境経営を積 極的に推進する企業や病 院、各種施設などで、新 たな室内装飾フロア材と して注目を集めている」と のことです。
  なお、みずほ情報総研(株)が実施したスミグリーン SG-300のLCA分析では、 原料製造〜廃棄までのCO2排出量が、普及品のナイロンループタイルカーペット に比べて約19%少ないという評価が得られており、そ の環境性能が改めて実証された結果となっています。
スミグリーンSG300のリサイクルフロー


●課題は「官公庁需要の伸び悩み」

 業界挙げての環境対応が進む中、課題も見えてきま した。中でも大きいのは、「市場は製品の環境性能を認 めてはいるものの、さまざまな環境商品があるなかで 工事用商材に対する意識がまだまだ低いように感じら れること」(前出の窪田技術委員長)で、「予想したほ どには量的に伸びにくいのは、それがいちばんの原因。 公共部門からの調達という点でグリーン購入適合品に 登録する意味は大きいが、どうしてもコストが割高に なることもあって、官公庁の需要ですら実際のところ まだまだこれからという感じだ」としています。
  (株)スミノエの角野部長も同様の問題を指摘します。 「グリーンマークに加えてエコマークを取得したのはよ り一般市場にアピールしたいためだが、自動車など一 般の消費者が直接購入する製品と違って、業務用途中 心のタイルカーペットの場合、施主となる会社の予算 の制約などから、工事業者もなかなかリサイクル品を 選んでくれない。施主の環境意識が高く、リサイクル 品を使うように工事業者に指定しない限り、どうして もコストの低いほうに流れる。まず官公庁・自治体の 需要がリード役となって一般市場にも普及していくこ と。我々の拠り所はそれしかない」
  リサイクルタイルカーペットに対する行政、建設業 界の注目と評価の高まりが何より望まれます。