2007年6月 No.61
 

迫る、温暖化暴走の危機。
グリーン市場拡大は「待ったなし」

─ 山本良一・東大教授を迎えJPEC講演会。「この5年が勝負」の時に

 去る3月15日、東京港区の虎ノ門パストラルにおいてJPEC(塩化ビニル環境対策協議会)主催の講演会が開催されました。
  今回の講師は、環境科学の第一人者・山本良一教授(東京大学生産技術研究所)。お話は地球温暖化問題回避への対応策をテーマとしたもので、山本教授はまず、様々な直近の科学的知見を示しながら温暖化の切迫した状況を警告。その上で、温暖化の暴走を食い止めるには「環境に配慮したものづくり(エコプロダクツ)とその普及により持続発展型社会、資源循環型社会へのシナリオを実現するしかない」として、「新しい環境生活文化を創り出して問題を解決していこう。勝負はこの5年間だ」と呼びかけました。講演の要旨は以下のとおりです。

●IPCC第4次レポートの衝撃

・この半年、特に昨年の9月以降、地球温暖化問題に関する新しい事実が次々と発見され、世界の情勢はまさに劇的に変化したと言っていい。特に、2月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次レポート(サマリー)により、地球温暖化の原因はほぼ確実に人間活動にあることが科学的結論となった。レポートでは世界の空気中のCO2の平均濃度は過去10年間を取ると毎年1.9ppmずつ増加しているとしている。すなわち年間150億トンもの炭酸ガスが空気中に溜まっていることになる。(温暖化を解決するためには)我々は毎年150億トンのCO2を削減しなければならないわけだが、京都議定書における削減量はわずか10億トンに過ぎない。それさえも達成できないというのが我々の情けない現状だ。我々の直面する問題はそれほどシリアスだ。
・このままいくと産業革命以前に比べて地球の表面温度は2℃を突破する確率が50%を超えると科学者は見ている。地球の表面温度が1.5℃を突破すると生物種が100万種類絶滅し、グリーンランドの氷床が全面融解してしまう。2℃だと人類がやられる。3℃だと気候は完全に崩壊しコントロールできなくなる。

●今ならばまだ間に合う

・こうした予測からヨーロッパでは気候ターゲット2℃という考え方が出てきた。気温の上昇を2℃を突破させてはいけないという考えだが、2004年の段階で気温は既に0.8℃上昇しており、このままでは2℃突破は必死だ。世界の研究者はあと10年以内に思い切った行動を取らなければ危ないと見ている。私は昨年出版した『気候変動+2℃』という本で、1.5℃突破は2016年、2℃は2028年、3℃は2052年という日本の科学者の計算結果を紹介したが、生物の大量絶滅が憂慮される1.5℃突破を防ぐにはその10年前くらいから全力を挙げて取り組まなければならない。つまり2006年こそ生物種大量絶滅のポイント・オブ・ノーリターンだったかもしれない。
・昨年11月、イギリスのInstitute For Public Policy Researchというシンクタンクが「危機を回避するための時間はもう5年しか残されていない」という論文を発表し、「全世界から放出される温暖化効果ガスを2012年までに減少させ始めなければ2℃を突破してしまう」と報告した。最近は「Ten years are left to the Point Of No Return for Runaway Global Warming」(暴走する地球温暖化が引き返すことのできなくなる地点まであと10年)という流行語も生まれている。
・問題は解決できるのだろうか。私は今ならばまだ間に合うと思う。ではどうすればいいのか。要はCO2や他の温暖化効果ガス(GHG)をカットするしかない。2050年までに60〜80%のGHGを削減しなければならない。既にイギリス政府は60%削減を打ち出しているが、昨年イギリスで発表されたAvoiding Dangerous Climate Changeという論文は、21世紀中に膨大な温室効果ガスを削減できる技術的な能力が我々にはあるとしている。日本の国立環境研究所もイギリスと共同研究した結果、2050年までに70%削減は可能だということを中間報告書の形でつい先ごろ公表している。

●日本がやるべき3つのこと
講演の後には参加者との質疑応答も

・(CO2を削減して)我々が生き延びるには、持続発展型社会、資源循環型社会へのシナリオを実現するしかない。そのためには、環境に配慮したものづくり(エコプロダクツ)とその普及(グリーン調達、グリーン購入)のほかには具体的な手段は考えられない。社会の隅々まで、環境配慮の製品やサービス、環境投資が遍く行き渡るような状況を作り出せば問題は解決できる。
・この点に関して、現在の日本で大事なことは3つある。ひとつは日本人の心の持ち方を一変させることだ。全面的な思想の転換が必要とされている。国家目標、国家最高戦略を明確にして、低炭素・循環共生型社会を構築すべきだ。衆議院と参議院で2050年までに温室効果ガスを60%〜80%削減することを決議してもらいたい。
・第2には、環境情報の可視化だ。製品、サービス、技術、インフラ、企業経営まであらゆるものの環境情報が消費者に一目で分かるようにすることが必要だ。イギリスのテスコという大手スーパーは7万種類の商品全部にCO2の排出ラベルをつけるとしている。東京証券取引所の数値には何の環境情報も含まれていないが、環境格付けの高い会社を2Aとか3Aに格付けしておけば国民はその会社の株を買う。環境が可視化されていないから国民は行動できない。
・第3番目の戦略は、企業が製品に環境付加価値を与えたらそれに対して社会が正当な金を支払う、逆に付加価値がないものは罰金を取るという市場経済のメカニズムを作らなければならない。リサイクルすればメリットがあるというふうにすれば皆がリサイクルする。現在のような、市場経済の中に入っていないボランタリーのリサイクルでは続かない。

●新しい環境生活文化の創造を

・以上の3つの戦略が実現できれば日本は世界の1になれる。地球温暖化防止は戦いであり、新たな世界大戦が始まったと考えなければならない。京都議定書に参加していないアメリカもオーストラリアも中国も次第に立場を変えつつある。また、エクソンモービルはIPCCの第4次レポート以降劇的に姿勢を転換し、CO2が温暖化の原因のひとつと認めた上で、莫大な資金と人材を環境技術に投入するようになっている。我々は受けて立てるのか。これが心配だ。このままいけば、我々は中国と欧米の挟み撃ちになる。だからこそ、日本も徹底的にエコマテリアル、エコプロダクツの開発をしなければならない。
・グリーン市場の拡大は待ったなしだ。2010年には日本でも100兆円規模になる。私が言いたいのは、要するに、新しい環境生活文化を創り出して問題を解決していこうということだ。環境生活文化にはふたつある。ひとつは伝統的なエコライフ、もうひとつはハイテクに支援された快適エコライフ。このふたつでしか問題は解決できない。この5年間が勝負だ。この5年で全力を挙げて取り組まないと世界も日本も極めて危うい。