2006年9月 No.58
 
 

 (株)コベルコ・ビニループ(TM)・イースト社の塩ビリサイクル事業
   ソルベイ「ビニループプロセス」を導入。特殊溶剤で塩ビを分離、再生

  

    特殊な溶剤を使って廃棄物中の塩ビだけを溶かし、他の素材と分離、再生する─全く新しい形の塩ビリサイクルを追求する(株)コベルコ・ビニループ・イースト(本社=東京都品川区)の事業が、いよいよ本格始働。この5月に稼動したばかりの同社千葉工場(千葉県富津市新富52 -3 TEL. 0439-80-1431)を訪ね、事業の現状と今後の可能性を取材しました。  

国内初のマテリアルリサイクル

 

  コベルコ・ビニループ・イースト社の事業は、ベルギーの化学メーカー・ソルベイ(SOLVAY)が開発した「Vinyloop(R)プロセス」(以下、ビニループプロセス)を用いて塩ビのマテリアルリサイクルに取り組むもので、これまで埋立てられてきた使用済み塩ビ製品の有効利用を加速する日本初の試みとして、関係者の注目を集めています。
 ビニループプロセスは、塩ビをリサイクルしてループ(円環)状に循環させていく、という意味の造語です。ソルベイ社では1997年末にその基礎開発に着手した後、98年末にベルギーに250リットル規模のパイロット・プラントを設置、続く2000年には北イタリアのフェラーラに1万トン規模の実証設備を建設するなどして技術を完成しました。今回のコベルコ・ビニループ・イースト社の取り組みは、ビニループプロセスの実用プラントとしては世界で2番目のケースということになりますが、プラスチック廃棄物の埋立制限強化が進むヨーロッパなどでも、今後このプロセスの導入を検討する国が増えてくるものと予想されています。
 ビニループプロセスでは、特殊な溶剤を使って廃棄物の中の塩ビだけを溶かすことにより他の素材と分離します。このため、どのような形状の塩ビでも処理可能で、特に、ポリオレフィン系のフィルムが混入しやすい農業用ビニル(農ビ)や、強力に結合していて機械的に分離できないような複合製品(壁紙、床材、電線被覆材など)のリサイクルに大きな威力を発揮します。
 農ビの場合、通常のリサイクルでは比重分離で塩ビとポリオレフィンを分けるのが一般的ですが、ビニループではそうした手間もいらず、万一ポリオレフィンが紛れ込んでも最後には完全に分離することができます。
 また、溶解・分離した塩ビは、後に述べるような方法で再び新しい塩ビコンパウンドに生まれ変わりますが、その品質は物性的に新品とほとんど変わらない上、粒形の均一な顆粒(200ミクロン〜300ミクロン)として再生されるため、添加剤(可塑剤、安定剤など)を調合して再生前の製品と同じ用途に使用することも可能です。

 

★ビニループプロセスの利点

  1. あらゆるタイプの使用済み塩ビ製品の処理に有効
  2. 純度100%に近い新しい形の塩ビコンパウンドとして再生
  3. 再生された塩ビはバージン材に匹敵
  4. 電線to電線など、元の用途へのマテリアルリサイクルが可能
  5. 塩ビから分離された2次回収物(ポリエチレンなど)も別途リサイクル可能

   

年2万6000トンの塩ビをリサイクル

 
  コベルコ・ビニループ・イースト社は、鉄鋼大手の神戸製鋼所が環境専門企業として新設したグループ会社・(株)神鋼環境ソリューションと、ソルベイ社の日本法人である日本ソルベイ(株)の共同で、2004年1月に設立されました(出資比率は神鋼環境ソリューション90 %、 日本ソルベイ10%)。その後、同社は2年余の検討期間をかけて、塩ビ系廃棄物の収集・処理の見通し、再生塩ビコンパウンドの品質評価などについて調査を実施し、事業への準備を進めてきました。
 千葉工場の着工は昨年3月のことで、同工場には「千葉県西・中央地域におけるエコタウンプラン」の中核事業として、環境省と千葉県から補助金が交付されています。
 千葉工場の処理能力は最大で年間2万6000トン。処理対象としては当面、使用済み農ビと電線被覆材、それに塩ビ壁紙の工場端材の3品目を予定していますが、稼働後の状況について同社の星野孝常務取締役(千葉工場長)は、
 「現在は農ビの処理を中心に性能確認運転を行っており、7月一杯程度までこの状態を続ける。これまでの分析の結果、農ビの場合は7割が塩ビ成分、1割が混入したポリオレフィンフィルム、1割が泥・砂で、残りが雨水などの水分であることが分かった。農ビ以外のものを含めても、塩ビの量は平均して7割程度で、最大2万6000トンを処理した場合、1万8000トン程度の再生塩ビコンパウンドができる見込みだ」と説明しています。


   

ビニループプロセスの仕組み

 
  ビニループプロセス処理設備は、(1)溶解工程、(2)分離工程、(3)沈殿工程、(4)乾燥工程、の4つで成り立っています。各工程のポイントを整理すると─
  1. 溶解工程 まず廃棄物を前処理(切断、洗浄など)した後、溶解槽に投入して溶剤に塩ビ成分を溶かしこみます。農ビの場合、所要時間は約100℃で20分〜30分程度。次に溶解槽の下のバルブを開いて塩ビ成分を溶かしこんだ溶液を濾過機に通します。
  2. 分離工程 濾過機を通すことで、塩ビ成分と溶剤に溶けなかった他の成分(ポリオレフィン、泥、砂など)が分離します。溶剤に溶けた塩ビは沈殿槽に送る一方、他の成分は回収して別途リサイクルすることができます。
  3. 沈殿工程 ここで溶剤から塩ビを分離します。沈殿槽の底から水蒸気を吹きこんで攪拌し、水蒸気の熱で溶剤を蒸発させると、塩ビの成分が水の中に顆粒状で沈殿します。この段階で必要に応じ添加剤を加えることもできます。また、蒸発した溶剤は冷却して再度液体に戻し系内で循環使用されます。
  4. 乾燥工程 最後に、遠心脱水機で水分を飛ばした後、ドライヤー(流動床乾燥炉)に投入し、熱風で所定の水分含有量まで乾燥します。こうして完成した最終製品は、製品倉庫に保管されて出荷を待つこととなります。

 ビニループプロセスの開発に携わったソルベイ社の上級技術員(Senior Process Engineer)ジャック・フォン・ウェインバーグ(Jacques Van Weynbergh)氏によれば、4つの工程のうち「技術的にいちばん難しかったのは分離工程の濾過機の開発だった」とのことです。塩ビと他の成分を完璧に分離することが核心であることが分かります。このほか、沈殿工程で蒸気を吹き込んで溶剤を蒸発させるアイデアもビニループプロセスの特徴のひとつといえます。

   

   

電線被覆、壁紙も丸ごとリサイクル

 
  前述したとおり、現在は農ビの処理が中心ですが、電線被覆材と塩ビ壁紙についても検討は進んでいます。電線被覆材は、塩ビやポリエチレンなどの複合物であるため現状では多くが埋立処分されていますが、ビニループプロセスで処理することにより7割を占める塩ビ成分のほか、残り3割の他の素材も2次回収物としてリサイクルできる可能性が高まっています。
 塩ビ壁紙については、塩ビと紙の分離は全く問題ないものの、炭酸カルシウムの添加が多く農ビに比べて塩ビの純度が落ちること、紙の割合が大きいので壁紙単品で処理すると濾過機の能力の制約から生産性が落ちてしまうこと、などの点が指摘されたため「純度の高い農ビと、ポリマー性状の低い壁紙を同時に処理することで再生品としての品質を確保しつつ生産性を落とさない方法」が考案されました。「この方法により、これまでリサイクルが難しかった壁紙も高品位の再生塩ビとして蘇らせることができるし、紙もリサイクルできると期待を持っている」(星野工場長)。
 同社には、上記3品目以外の塩ビ製品についても処理の問い合わせが多数寄せられていますが、これらについては今後個別に詳細な評価を行った上で、対応を決定していく計画。
 また、再生塩ビの用途開発の面でも、電線メーカーと共同で農ビの再生品を電線被覆材に利用する検討を行った結果、「JISで要求される規格をクリアして、シース材(電線の外皮)に利用できることが確認されている」とのことで、同社では「再生品は全量国内でリサイクルできる」と、今後の事業展開に強い自信を示しています。