2006年6月 No.57
 
塩ビサイディングはエコ建材。環境影響の実態が明らかに

鳥取環境大・木俣教授のグループがLCA評価結果を報告。学会でも反響

 

  新時代の外壁材として普及が進む塩ビサイディング。外装材の環境性能を分析した注目の研究結果が発表されました。鳥取環境大学の木俣信行教授らのグループが取り組んだ「住宅用サイディングのLCA手法による評価」に関する研究がそれ。既に昨年12月の「第1回日本LCA学会」「エコデザイン国際シンポジウム2005」(茨城県つくば市)などで、その詳細が報告されており、サイディングの環境性能を客観的に実証するデータとして反響を集めました。この中で塩ビサイディングは優れた環境性能を持つことが明らかにされております。

 

●木質系、金属系など他素材との比較分析も

 
  塩ビサイディングは、住宅を長持ちさせるばかりでなく、高い断熱性能を生かした省エネ効果により、地球温暖化対策への貢献という点でも期待の大きい建築材です。
 その環境性能を客観的に分析したデータはこれまであまり例がなく、木俣教授らが行った今回のLCA評価は、「より精度の高い建築物の環境影響評価の出発点」として取り組まれたものですが、結果的に塩ビサイディングの環境性能を明らかにした研究として、画期的な意味を持つ取り組みであったといえます。
 LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)とは、「製品の一生(原料採取から製造・運搬・使用・廃棄・リサイクルまで)」に係る資源の消費や地球環境への排出物を集計し、環境影響を定量化する手法で、その製品がどれくらい多くの資源を使っているのか、またどれだけ環境負荷物質を排出しているのかを、いろいろな角度から評価することにより、地球環境の改善に繋がる製品選択の判断基準として利用することができます。
 LCAの研究ソフトは種々開発されていますが、この研究では、「世界でも最も厳密なソフトの一つ」と評価されている資源環境総合研究所(現独立行政法人 産業技術総合研究所)が開発したNIRE(JEMAI)−LCAが使用されました。
 研究では、各種サイディングメーカーから廃棄・リサイクル段階のデータが収集できなかったため、原料採取〜使用段階までとなっていますが、塩ビサイディングだけでなく、他の素材(木質系、金属系、窯業系)のサイディングについても分析を行うことで、地球に与える各種サイディングの環境影響について総合的な評価が示されています。
 以下に、木俣教授の報告書「住宅用サイディングのLCA手法による評価」を樹脂サイディング普及促進委員会が要約した文書から、研究結果の要点をまとめました。
 

●評価結果のポイント

 
  下の図は、各種サイディングの相対的比較をおこなった結果をまとめたものです。数値が小さいほど、地球への環境負荷が小さい製品となることを表しています。塩ビサイディングは、ほとんどの項目において、小さな数値を示しています。

【エネルギー消費】 (図1)
各種サイディングのエネルギー消費を比較したもの。縦軸の数値は、製品の単位面積(平方メートル)あたりに使用されるトータルエネルギー量を示します(単位は「MJ=メガジュール」)、塩ビサイディングは、石油原料を使用しているにもかかわらず加工エネルギーが小さく、軽量であることからエネルギー消費が小さくなっています。
輸入木質系サイディングの数値が大きいのは、輸送に係るエネルギー消費が寄与しているため。

【地球温暖化】 (図2)
縦軸の数値は、「CO
2」の環境影響を1と表した時の各製品の環境影響の度合いを相対的に示しています。
CO2排出量は、エネルギー消費に連動する傾向にあり、塩ビサイディングは、温暖化防止という点で最も優れた数値となっています。

【資源の消費】(図3)
縦軸は、各サイディングの資源消費量を、世界の資源埋蔵量で割った数値をベースにしています。
塩ビサイディングの数値が大きいのは、耐久性を向上させるために、希少鉱物資源である酸化チタン(白色系顔料)を添加しているため。金属系サイディングの一部の数値が大きいのも希少金属系の素材を使用しているためです。

【まとめ】
塩ビサイディングは、雨風から建物を守る機能を十分に果たしながら、製品の製造から使用段階までの環境負荷、環境影響が、他の材料によるサイディングに比較して極めて小さいことがわかりました。これは塩化ビニル樹脂の特性を反映した結果と言えます。

 

●鳥取環境大学の木俣信行教授のコメント

 建築物は多種多様な大量の資源によって成り立つ商品です。そこで建築物の設計は、多種多様な物質の性質を十分理解し、それらを生かしながら全体としての品質を求められる水準に到達させる活動になります。適材適所と言う表現は、正にこのことを言っているわけです。 かつての伝統的建築にあっては、その主要な材料である木材の様々な種類は勿論、それらが育った環境まで配慮して、それらを建築物のどの位置にどのような使い方をすれば良いか、大工棟梁は熟知し使い分けて来ました。その結果として、現在でも残る多くの農家などにみられるように、木造であっても長年の風雪に耐えて風格のある姿を保つことができたわけです。このように建築物に使われる材料については、建築の生産に携わる者がその性質を様々な角度から十分に理解していないと、良い建築物を完成させることは出来ません。 しかしながら今日、建築物に使われる材料について、その性質を正しく知ることは非常な困難があります。特に、材料が地球環境に及ぼす影響についての知識を得ることは、これまでに無かった社会からの要求です。しかし、こうした背景から試みた今回の調査研究からは、予想した以上に地球環境への影響の違いが材料の種類によってあることが判りました。私達には、こうした結果を正面から受け止めて、新たな適材適所のための知識を積み重ねる努力が求められていると考えます。