2006年3月 No.56
 
廃棄物リサイクルの最先端に挑む、水島エコワークス(株)の現状

話題のガス化溶融システム。ガス中の塩素分も塩に戻して塩ビ原料に再利用

 

  都市ごみと産廃をまとめてガス化溶融する水島エコワークス(株)(岡山県倉敷市水島川崎通)のリサイクル事業が話題です。廃棄物から燃料ガスを回収するだけでなく、ガス中の塩素分も混合塩に戻して有効活用。自治体、関係企業との連携で進められる最先端ごみ処理施設の最新動向をご紹介します。

 

●JFEのサーモセレクストを採用

 
  水島エコワークスは、倉敷市の「資源循環型廃棄物処理施設整備運営事業」に基づいて建設された廃棄物のリサイクル工場です。
 この事業は、近年新たな行政手法として注目を集めるPFI方式(※)により運営されるもので、その実施主体となる水島エコワークスの設立(2002年1月)には、水島コンビナートに関係する化学メーカー、自動車メーカーなど民間企業10社とともに、倉敷市、岡山県も資本参加。倉敷市から出る一般廃棄物や下水汚泥等のほか、岡山県内の産業廃棄物や自動車シュレッダーダストなどの産業廃棄物を処理対象に、2005年4月からプラントの本格稼動に入っています。
(※PFI=Private Financial Initiative。民間の資金や経営・技術力を活用して公共施設等の建設・維持管理等を行う方法)
 水島エコワークスのリサイクル手法は、廃棄物を高温で溶かしてガス化し、これを精製して燃料などに利用するガス化溶融方式の一種です。メインシステムに採用したJFEエンジニアリング (株)のサーモセレクトは、ダイオキシン類の発生を防止しながらクリーンな燃料ガスが精製できる最新技術として評価の高いプロセスですが、同時に、精製ガスばかりでなく、一連の処理工程から出てくるスラグやメタル、硫黄、金属水酸化物なども含めて徹底したリサイクルを実現しているのも大きな特長。中でも、ガス中の塩素分を工業塩として回収する技術は、塩ビのリサイクルという点で画期的な意味を持つものといえます。
 

●塩素分は混合塩に、ガスは発電燃料に再資源化

 
  水島エコワークスの処理能力は最大で日量555トン(185トンのライン×3系列)ですが、現時点ではほぼ450トン程度で推移しています。
 処理フローは図に示したとおり。前段の脱ガスチャンネル(ガス化炉)において、廃棄物を低酸素状態でゆっくり加熱しながらガスと炭化物に分解、これを後段の高温反応炉(溶融炉)に送り約2000℃という高温で炭化物を溶融すると同時に、ガス中のダイオキシン類やタールを分解します(改質)。改質されたガスは、ダイオキシンの再合成を防ぐため酸性水で急冷、洗浄された後、脱硫工程などを経てクリーンな燃料ガスに生まれ変わります。
 「ポイントは急冷水に酸性水を使っている点。ガス中の塩素分から酸性水を作り亜鉛、鉛などの重金属類を塩素と反応させ処理水の中に取り込むことで、それぞれのリサイクルが可能になる。具体的には、処理水を苛性ソーダで中和した後、金属類を水酸化物の形で回収、最後に塩製造装置で工業塩に精製する。1トンの廃棄物から回収される塩の量は約10kg。製塩法は一般のイオン交換膜法と基本的に変わらない」(水島エコワークスの向後久社長)。
 回収された製品のうち、燃料ガスはJFEスチールに販売され、同社が中国電力と共同で設立した瀬戸内共同火力のボイラー燃料に使われています。このほか、スラグやメタル、亜鉛などもそれぞれの専門業者でリサイクルされますが、塩については、塩ビメーカー・ヴイテック(株)の水島工場で塩ビ樹脂原料などへの利用が進められています。

     水島エコワークスの処理フロー

 

●ヴイテック社の回収塩リサイクル事業

 
  ヴイテック(株)、三菱化学(株)、JFEエンジニアリング(株)の3社共同開発の下、ヴイテック水島工場で塩のリサイクルがスタートしたのは昨年の7月。水島エコワークスから搬入される回収塩を、ヴイテックの電解プラントで塩素と苛性ソーダに電気分解し、この塩素を塩ビ樹脂の原料としてリサイクルする一方、製造された苛性ソーダと一部の塩酸は共に再び水島エコワークスに戻して、前述の酸洗浄、処理水の中和用に再利用する、というのが事業の大枠で、コンビナート内での効率的な資源循環を実現した形となっています。
 ヴイテックでは、今回の事業について、「我々が着目したのは、これまでのように別途塩ビ製品だけを集めてリサイクルするのではなく、分離の難しい少量の塩ビを含んだ廃棄物や、塩ビとは関係の無い廃棄物中に含まれる塩素分を塩として回収し有効活用するという点。これは塩ビリサイクルの全く新しい形と言える」(ヴイテックの山本次長)と、強い期待を示しています。とはいえ、塩ビメーカーとして天然の工業塩を扱ってきたヴイテックにとっても廃棄物から回収した塩の利用は全く未知の領域。解決を要した課題も多く、特に、「回収塩の場合、ヨウ素の濃度が数ppmレベルの微量ながら天然の塩より高く、電解設備に障害を起こす恐れが考えられたため、ヨウ素の含有量の分析と除去技術を確立するのに時間が掛かった」(ヴイテックの山本次長)といいます。
 ヴイテックでは昨年の7月以降着実に回収塩の使用を続け、当該使用に伴い製造される塩酸、苛性ソーダ、塩素いずれも全く問題なくリサイクルされています。同社が使用する工業塩の量(年間約26万トン)に比べれば、回収塩の使用数量はまだごく一部にすぎませんが、まとまった数量を実際にリサイクルしているのは全国でも初めてのケースで、ヴイテックでは、今後順調に進めば年間4000トン程度の回収塩を受け入れたい計画。
 倉敷市のごみ処理行政に寄与しつつ、コンビナート内の企業との協力で資源循環に貢献する水島エコワークスを核とするリサイクルの試みは、理想的な地域連携の形といえます。

     ヴイテックの塩のリサイクルの概要