2005年9月 No.54
 
グリーンコンシューマーと循環型社会

  環境の視点で商品選び。「新しいスタイルの消費行動」がめざす社会変革の姿

 

 
 主婦連合会事務局長
 NPO法人グリーンコンシューマー東京ネット常任理事  佐野 真理子

●力を合わせれば世の中が変わる

 
  私が主婦連合会に入会したのは1988年のことですが、はじめから消費者運動をやろうと思って入ったわけじゃありません。一種の社会勉強のつもりだったのです。当時私はそれまで15年間居住していたスペインから帰国したばかりで、日本の状況について全く疎い心境でした。消費者運動についてもどのような団体が、どのような方針で、どんな運動に取り組んでいるのか、さっぱり分からず、私自身、何をしたらよいのか見当もつかない状態だったのです。そのようなとき、たまたま友達のお母様だった兵頭美代子さん(現主婦連会長)が、「主婦連に入って世の中のことをちょっと勉強してみてはどう?」と声をかけて下さり、それで最初は本当に気楽な感じで入会することになったのです。
 でも、そのような気楽な気持ちだけでは消費者運動は継続できません。当時は毎日のように「消費税導入反対」運動がありましたし、そのための電話応対も大変でした。がむしゃらといった感じです。
 それでも、とにかく何とか勤めを続けているうちに出合ったのが、はみ出し自販機撲滅運動(道路交通法に違反して公道上にはみ出して設置された酒類、タバコ、清涼飲料などの自販機の是正を求めた運動)でした。この経験で、ああ消費者運動とはこういうものなのか、少しずつでも一生懸命みんなが力を合わせれば世の中を変えることもできるんだな、と初めて納得できたように思います。この運動からは今の私の基礎になったと言えるほど多くのものを吸収できましたし、そこで学び取ったことは現在のグリーンコンシューマーの運動にも生きていると思います。
 

●リサイクルだけでは何もならない

 
  グリーンコンシューマーという考え方は、1988年にイギリスで出版された『グリーンコンシューマー・ガイド』という本をきっかけに世界に広まりました。この本は、環境コンサルタントのジョン・エルキントンとジュリア・ヘインズが共同で著したもので、自動車とか家電、食品など様々な製品について、環境保護の視点から市民が商品を選択するための情報、例えばエネルギー消費量や有害物質の有無といったことが詳細にまとめられていて、出版後間もなく世界的なベストセラーになりました。
 ただ、日本では、こうした市民による新しいスタイルの環境行動の必要性ということが当初はあまりよく理解されず、いっぺん素通りしてしまったような感じがあります。その後、環境問題の高まりの中で改めて読み返されるようになったとき、これはやっぱり非常に重要な実践テーマだということがはっきり見えて、東京ネットの設立へとつながったわけです。
 グリーンコンシューマーの基本的な考え方というのは、要するに「家庭におけるモノの入口を締めよう」ということです。主婦連でも、いわゆる大量生産、大量消費、大量廃棄の社会を何とかしなければということで、長年ごみ問題に取り組んできたのですが、基本的にリサイクルなどの出口対応が中心でした。しかし、出口ばかり考えてリサイクルだけしていても何もならない、モノを買うときに考えて買うのがいちばん賢いのではないか、といったことがだんだん分かってきました。
 もちろん、リサイクルがダメだというわけではありませんが、それはあくまで最後の手段であって、ひと頃のように、ペットボトルも缶も牛乳パックもリサイクルするために競争して集めてくる、購入するような状況はどう考えてもおかしい状況でした。
 
グリーンコンシューマー東京ネット

東京都が1997年に設立した「循環型社会をめざす消費生活推進協議会」を発展的に継承し、2001年7月に非営利団体として設立。代表理事は法政大学経済学部教授の永井進氏。環境に配慮した商品・サービスの推進とグリーンコンシューマリズム(消費行動を通じて企業活動が環境に配慮した方向に向かうようにする運動)の普及啓発を図り、持続可能な循環型社会の実現をめざす。2003年12月には特定非営利活動法人として法人格を取得し、運動の裾野を広げるためのグリーンコンシューマー100万人宣言をはじめ、機関誌やホームページによる情報提供、商品評価、調査研究など多彩な活動を展開している。主婦連合会内に事務局を置く。

 

●基本は4R。「リフューズ」が第一歩

 
  循環型社会を求めていく上でまずやらなければならないのは発生抑制であり、リデュース(発生抑制)リユース(再使用)リサイクル(再生使用)の3Rを優先順位にすべきだという考えは、日本でもここ数年でやっと定着してきたように見えます。
 ただ、私たちはさらにもうひとつ、リフューズ(断る)ということを加えるべきだと考えています。「基本は4R」というのが私たちの主張です。例えば、コンビニで買い物をすると必ずレジ袋がついてきます。アイスクリームを買えばスプーン、お弁当には割り箸。こういう無駄なものをまず断ること。その姿勢こそが環境行動の第一歩なのです。

グリーンコンシューマー12の原則
  1. 必要なものを必要なだけ買う
  2. 長く使えるものを選ぶ
  3. 包装はできるだけ少ないものを選ぶ
  4. マイバッグを持っていく
  5. 省資源・省エネルギーのものを選ぶ
  6. 季節に合った生活をする
  7. 近くで生産されたものを選ぶ
  8. 安全なものを選ぶ
  9. 容器は再使用できるものを選ぶ
  10. 再生品を選ぶ
  11. 環境問題に取り組んでいる会社のものを選ぶ
  12. グリーンコンシューマーの仲間を増やす


 要するに、必要なものを必要なだけ買い、必要でないものは買わないことです。簡単なようで実践するのは結構難しいけれど、私たちが何を買うかで社会が変わっていくのだと思えば、「断る」「必要なものだけ買う」ということはとても大きな一歩だと言えます。

 

●「不買」から「購買」運動へ

 
  東京ネットを立ち上げた当初、難しかったのは、グリーンコンシューマーの考え方が従来の運動と異なるアプローチをする点がなかなか分かってもらえなかったことです。というのも、これまでは実践的な手段といえば長いこと不買運動が中心だったのに対して、グリーンコンシューマーは「モノは買います。但し、環境にいいものでなければダメですよ」と言っているわけです。180度転換したように見えて実は考え方は変わっていない、言い方が変わっただけなのですが、モノを買うという運動の経験がなかったために、「何で企業と仲良くしなきゃならないの」とか「やっぱり不買運動のほうがいい」といった声が初めのころは結構多かったのです。
 もちろん、今はそういうことを言う人もいなくなりました。消費者がモノを買うということは、その企業に一票を投じるのと同じことです。品質とか価格といった従来の基準に環境の視点を加えて商品を選び、それを作った企業に投票することで世の中を変えていく、というグリーンコンシューマーの考え方はよく分かってもらえるようになったと思います。
 それに、企業にとっても「買うからこういうモノを作ってくれ」と言われるほうが実はありがたいのだと思います。それは、一緒に話し合いができるということですから。環境というのは消費者も企業も行政も一緒にやらなければ先に進みません。反発しあっていてはダメです。変に仲良くするということではなく、緊張関係を持ちながら主張すべきことをお互いに主張して、接点を見つけていくことが不可欠だと思っています。
 

●塩ビ業界も消費者との対話を

 
  企業と消費者は持っている情報も考え方も違いますから、全く同じ土俵に乗ることはできないかもしれません。しかし、それでも話し合うことはできるし、じっくり話し合えば分かり合える部分が必ず見えてくるはずです。違いがあって当然ということを前提に対話をする、それこそがいま本当に望まれるコミュニケーションのあり方だと思います。
 そういう意味では、塩ビ業界は少し消費者との対話が足りないように見えます。例えば、樹脂サッシや樹脂サイディングが省エネ建材だと言われても、そんな製品を知っている人は殆どいません。省資源・省エネの製品を選ぶことはグリーンコンシューマーの原則ですが、業界からの情報が消費者に届いていないし、塩ビ自体への拒否反応が一時ほどではないにしてもまだ残っているので、メリット、デメリットを含めて詳しく説明してもらわないと信用できないというのが消費者の正直な気持ちです。
 もっとも、環境に関してはいいことしか言わないというのはどの業界でも同じかもしれません。企業の環境報告書などもみんな素晴らしい内容で、日本はいつからこんなに優良企業ばっかりになったのと驚くほどですが、やっぱり、自分たちにはできないこと、努力しても失敗したこともあるはずで、そういう情報をきちんと出してもらってはじめて、「いいことばかりじゃないんだ」「企業もこんなに苦労してるんだ」ということが私たちにも見えてくるわけです。
 消費者団体というと、何かグゥの音もでないほど吊るし上げられるのではと構えてしまう企業の人が多いようですが、もうそんな時代じゃありません。消費者団体とのコミュニケーションは絶対に避けて通れないのですから、逆にこちらから乗り込んで説得してやろうというほどの積極的な意識を持ってほしいと思います。消費者も完璧な人間が揃っているわけではないし、企業の人と話し合うことで学ぶことは非常に多いのです。
 

●みんなで一緒に、無理なく楽しく

 
  環境問題の取り組みというのは、今日やって明日結果が出るというものではありません。結果は10年先20年先になるかもしれない。それがつらいところで、1人でやっていたら落ち込むばかりで何もしたくなくなってしまいます。
 ですから、みんなで一緒に、無理なく楽しく、というのがグリーンコンシューマーの合言葉です。12の原則にしても、決して全部実践しなければいけないというわけではなく、できることからやればいいのです。運動は続けることが命で、無理をしたら長続きしません。1人で頑張って100歩進むより100人で一歩ずつ進んでいくほうが、結局は問題解決に近づくのだと思います。
 消費者運動は大衆運動です。頭でっかちでなく、地に足をつけて、一般の人が日常の生活の中でできることをやっていく、という消費者運動の原点に戻って、楽しみながら循環型社会への道を進んでいきたいと思っています。
 

 

■プロフィール 佐野 真理子(さの まりこ)
東京都出身。高校卒業後、スペインへ。マドリッド大学などで学んだ後、流通業などに勤務し日本製品の輸入などを担当。1988年帰国。主婦連合会に入会。はみ出し自販機問題の解決で中心的な役割を果たし注目を集める。環境問題、企業広告問題などのほか、未成年者飲酒防止の運動でもリーダー的存在として知られる。2001年グリーンコンシューマー東京ネットの設立と同時に常任理事に就任。2002年から主婦連合会事務局長。企業の社会的責任に関するISO規格づくりの委員。