2004年12月 No.51
 
半身浴のお供に―「塩ビ文庫」話題フットウ中

濡れても破れず、くっつかず。低価格で加工しやすい塩ビの特性をフル活用

 美容と健康を兼ねて「半身浴」を楽しむ女性が少なくない昨今、快適なバスタイムを過ごすために「お風呂で読書」という人も増えているとか。「でもお風呂だと本が濡れちゃって」とご心配の向きには、できました、「濡れても平気な塩ビ文庫」。名作ぞろい、低価格、しかもデザイン抜群で、売れ筋街道驀進中。

 

●試行錯誤を重ねて製品化

 
 新聞、テレビで話題沸騰の塩ビブックを開発したのは、東京都中央区新川の(有)フロンティアニセン(真下彪社長)。もともとは国際電話のプリペイドカードの印刷を手がけてきた会社ですが、以前はPET製のカードだったものを、5年前から低価格で加工しやすい塩ビカードに転換。塩ビの印刷技術では他社の追随を許さないノウハウを蓄積してきました。
 同社が塩ビ文庫の開発を発想したのは、今年2月のこと。ある雑誌で、健康のために半身浴をしているという某女優が「読書しながら2時間も入っているが、本が濡れてしまうのが悩みのタネ」と話している記事を目にしたのがキッカケで、ちょうど新規事業のアイデアを探しあぐねていたこともあって直ちに試作品作りに着手。製本技術の研究や塩ビシートメーカーとの検討などを重ねて、7月にその第1号を完成させています。
 「印刷技術では全く問題なかったが、悩んだのは綴じ方をどうするかということ。中綴じにすると手を離したときに開いた頁が戻ってしまう。試行錯誤の末に思いついたのが塩ビ製のプラスチックリングで、バラバラの頁をリングで束ねるという方法でようやく問題を解決できた」と真下社長。このほか、頁の片面を細かい凹凸のエンボス仕上げにして濡れても貼り合わないようにするなど、ナルホド納得の工夫も見逃せません。
 

●塩ビが生み出す、新時代の活字文化

 
 こうして登場した「風呂で読む文庫100選」シリーズ。11月現在で『坊っちゃん』『人間失格』『ガリバー旅行記』といった内外の名作、傑作30点が刊行されていますが、一冊735円(税込み)という価格に加えて、モノクロームのシンプルな表紙デザインも評判を読んで売行きは順調。現在はネット販売(http://www.f2000.co.jp)を中心に大手書店・丸善の丸の内本店でも店頭販売を行っていますが、「注文メールがあいついでうれしい悲鳴を上げている」とか。
 「軌道には乗ってきたが、まだ100%ではない。今度シートの厚さを0.15mmにして軽量化を図った。これで一冊300g程度の重さになり、より手軽に読めるようになった」
 同社では今後も、「風呂で読む漫画100選」、「風呂で読む時代小説100選」などのほか、聖書を文庫化して海外展開も計画中で、既に韓国、アメリカのほか英、仏などヨーロッパ5カ国で特許取得済み。奥付けの頁には、「不要になった時、送り返して下されば安全に処理します」との表示もあって、まさしく至れり尽くせりの塩ビ文庫。お風呂で読めるというだけでなく、塩ビを利用した新しい活字文化として出版業界に旋風を起こすか。