2003年3月 No.44
 
(株)神戸製鋼所/マイクロ波を利用した塩ビの脱塩素技術

廃プラ中の塩ビだけを選択的に加熱処理。リサイクルコストの大幅削減に期待

 

 (株)神戸製鋼所(本社=東京都品川区)では現在、廃プラスチック中の塩ビにマイクロ波を照射して脱塩素を行う新技術の研究に取り組んでいます。廃プラリサイクルの大幅コストダウンも期待される技術開発の最新情報。

 

●マイクロ波を吸収しやすい塩ビの特性

 
 神戸製鋼所の脱塩素技術は、ポリエチレンやポリプロピレンなど他の汎用樹脂に比べて、マイクロ波を吸収しやすく発熱量が大きいという塩ビの特性を利用したもの。
 この技術を用いれば、様々な樹脂が混ざり合った廃プラスチックであっても、塩ビだけを選択的に加熱、脱塩素できるため、廃プラスチック全体を加熱する従来の方法と比べて脱塩素処理コストの大幅低減が可能となります。
 まだ実用化の段階には至っていないものの、昨年、(社)プラスチック処理促進協会の一部補助を受けて行われた小型装置による基礎試験の結果からは、硬質、軟質いずれの塩ビからも高い塩素除去率が得られることが確認されており、基礎的な技術は既に確立済み。
 同社環境技術研究室の中尾昇氏が、その詳細を報告した理化学研究所主催のシンポジウム「有機塩素化合物分解のサイエンスとテクノロジー」(平成13年12月)でも、廃プラスチックのフィードストック・リサイクル(高炉原料やコークス炉原料、油化原料など)を効率的に進める新しい脱塩素処理法として参加者の注目を集めました。
 

●短時間で100%近い塩素除去率

 
 昨年の基礎試験では、塩ビ管・継手、電線被覆材、軟質レザーをそれぞれペレット化した3つのサンプル(PVC1〜3)のほか、形状による影響を調べるため塩ビシート、フィルムについても処理を行っています。試験条件は処理量100グラム(但しフィルムは50グラム)で、マイクロ波の出力は0.6〜1.2kW、処理時間は2分〜20分。
 図1は、3種類の塩ビペレットを1.2kWのマイクロ波出力で10分処理した場合の塩素除去率を示したグラフで、いずれの試料でも有機塩素の除去率は85%〜98%という高い数値になっています(PVC2、3の除去率が高いのは、軟質塩ビに含まれる添加剤のマイクロ波吸収効率が塩ビよりもさらに高く、発熱し易いため)。
 また、PVC1を10分処理してマイクロ波出力とトータル塩素除去率の関係を調べた試験(図2)では、マイクロ波出力が高いほど塩ビの発熱量が大きく除去率も高くなることが確認されました。
 このほか、一般廃棄物を模した混合廃プラ(PPペレットと塩ビペレット20%)の試験でも良好な結果が得られていますが(出力1.2kW、照射時間20分で塩素除去率80%以上)、神戸製鋼所では、今後の研究課題を「工業規模へのスケールアップ」「脱塩素性能の向上と最適化条件の検討」「排ガス処理技術の確立(塩化水素リサイクル法の検討)」の3点に絞り、引き続き実用化へ向けた開発を進めていく計画です。なお、この研究は現在、文部科学省産官学連携イノベーション創出事業の一環となっています。