2003年3月 No.44
 

 塩ビ建材のフィードストックリサイクルへ、進む官民協力

  都営団地解体廃材のガス化溶融で、東京都と塩ビ工業・環境協会(VEC)・
  住友金属工業(株)が共同実験

   塩ビ工業・環境協会(VEC)と住友金属工業(株)は、東京都と共同で、使用済み塩ビ建材のフィードストックリサイクルに関する実証実験に取り組んでいます。都住宅局が葛飾区の新宿(にいじゅく)六丁目団地で実施している都営住宅リサイクルモデルプロジェクトの解体工事から発生した塩ビ建材を、住友金属のガス化溶融実験プラント(茨城県波崎町)を用いて化学原料などに再利用するのが実験の狙い。先ごろまとめられた最終報告では、技術的に問題なく塩ビ建材をガス化できることが確認されており、官民一体の協力作業は、塩ビ建材の100%リサイクルに向け順調な進展を見せています。  

建て替え時期を迎える都営住宅

 現在東京都が管理している都営住宅の数はおよそ264,000戸(平成12年3月末現在)。このうち、約4割をしめる昭和40年代建設の住宅が今後順次建て替え・リフォーム時期を迎えることなどから、大量の建設廃材の発生が見込まれています。
 こうした状況を受けて東京都は、平成13年度に「都営住宅等ストック総合活用計画」を策定、昨年から新宿六丁目団地の解体工事において住宅リサイクルの推進と建設廃棄物の減量に向けたモデルプロジェクトを実施しており、平成14年度末には、このプロジェクトの結果を踏まえて、品目別の最適な分別解体と回収・リサイクル方法などをまとめた『リサイクルマニュアル』を策定する計画となっています。
 都では、平成15年度以降に発注する都営住宅の解体工事にこのマニュアルを適用するほか、民間のアパート・マンション等の建て替えにも活用してもらい、建設廃材のリサイクルを加速させたい考えで、現時点では建設リサイクル法が適用されていない塩ビ建材についても、100%リサイクルの実現を可能にする有効なリサイクル技術とシステムの確立が緊急の課題となっています。

フィードストックリサイクルにかかる期待

 一方、塩ビ業界にとっても塩ビ建材のリサイクルは最重要テーマのひとつ。塩ビ建材のうち、塩ビ管・継手については塩化ビニル管・継手協会を中心に全国規模でリサイクルシステムの整備が進められ、約50%が再生塩ビ管の原料としてリサイクルされていますが、マテリアルリサイクルが難しい汚れのひどいものや管・継手以外の塩ビ建材(床材、壁紙、電線被覆材など)については、 フィードストックリサイクル(使用済みのプラスチックを化学的に分解し化学原料として再使用する方法。ケミカルリサイクルとも呼ばれる)の可能性に期待がかけられています。
 このためVECでは、フィードストックリサイクルの試みのひとつとして平成13年度から、塩ビ建材をはじめとする高濃度塩ビ廃棄物の処理を目的とした技術開発に住友金属と共に取り組んできており、現在も、その実用レベルの開発に向けて作業が続けられています(本誌No.41/平成14年6月号参照)。
 東京都とVEC、住友金属による今回の共同実験は、塩ビ建材リサイクルに向けた3者の取り組みの方向が合致する ことから実現したもので、VECからの申し出により東京都から提供された塩ビ建材をガス化溶融して、塩酸の再生原料などに利用するリサイクル技術の可能性を実証することが基本的な目的となっています。
 

 

高濃度塩ビ廃棄物のガス化技術は確立

 ガス化溶融システムとは、廃棄物を1,200℃以上の高温で熱分解(ガス化)、溶融して、生成ガスを熱エネルギーとして再利用したり、焼却残渣(スラグ)の発生を大幅に低減したりする次世代型ごみ処理技術のひとつで、住友金属のシステムは、生成ガスを高効率発電に利用できるほか、ガスの成分を調整して化学合成原料としてリサイクルできるのが大きな特徴。
 塩ビ建材など高濃度塩ビ廃棄物を対象とした前述のVECとの共同研究では、すでに「生成ガスは高効率発電や化学原料への再利用可能な品質であること」「回収塩素も塩酸として再利用できること」「ガス中のダイオキシンも無害化できること」などが確認されており、基礎的な技術が確立した段階となっています。

 

塩ビ建材も問題なくガス化可能

 東京都との共同実験は、新宿六丁目団地5棟117戸の解体工事で発生した塩ビ管・継手等2.3トンのうち、マテリアルリサイクルに向けられた1.7トンを除く600?をサンプルに用いて行われました。
 収集された具体的な研究データをもとに詳細な分析を行った結果、塩ビ管などを部分酸化した場合の生成ガス化の特性、操業の安定性、ダイオキシン類やスラグなどの無害化性能などについて問題がなかったことが判明しており、先ごろその最終報告がまとめられています。
 研究成果については、可能な範囲において関係主体間で共有することになっていますが、実際の建築廃材を使った処理データが明らかになったことにより、塩ビ建材のフィードストックリサイクルへ向けた官民双方の動きが大きく進展するものと期待されます。

 

■塩ビ建材100%リサイクルの重要な受け皿

東京都住宅局地域住宅部技術開発課長  平川 公三郎氏(談)

 東京都が都営新宿六丁目団地で行っている都営住宅リサイクルプロジェクトは、今後の住宅建設リサイクルのあり方、さらには住宅分野全般における本格的なリサイクルに向けて検討を行うものです。この中で、塩ビ建材についてもリサイクルシステム構築に向けた検討を進めており、塩ビ管・継手などについては発生量全体の約70〜80%をマテリアルリサイクルしていますが、汚れのひどい塩ビ管・継手や、管・継手以外の塩ビ類については、現在のところマテリアルリサイクルが困難な状況にあり、100%リサイクルを達成する上では、フィードストックリサイクル(ガス化溶融)が重要な受け皿となります。
 塩ビのフィードストックリサイクルについては、塩ビ工業・環境協会と住友金属によるこれまでの研究によって既に技術的には確立されていますが、事業化のためには更に具体的な実証研究データの収集が必要となっています。我々としても、マテリアルリサイクルが難しい塩ビのリサイクル率を上げたいということで、都営新宿六丁目団地から発生した実際の使用済み塩ビ建材を用いて両者で実証実験を行うことになりました。
 都では、今年度中に発注する北区の桐ケ丘アパートの解体も含めて、来年度以降の住宅解体工事においては基本的に分別解体を実施する方針です。このため、今回の実験結果は、モデルプロジェクトを踏まえた『住宅建設リサイクルマニュアル』にも反映した上で、これらの解体で生じる使用済み塩ビ建材のリサイクルにもその成果を大いに活用していきたいと考えています。
 リサイクルの優先順位から言えば、コストの安いマテリアルリサイクルが原則であることに変わりはないが、マテリアルリサイクルだけでは塩ビのリサイクルに限界があることは冒頭申し上げたとおりです。100%のリサイクルを実現するためには塩ビ工業・環境協会と住友金属の協力に期待するところは大きいし、我々としては今後もリサイクルに役立つ新たな技術開発には積極的に関わっていきたいと考えています。