2002年12月 No.43
 

 プラスチックフィードストックリサイクル
  の国際シンポジウム開催(ベルギー)

      塩ビのガス化技術など多彩な事例報告で29カ国150名の研究者が活発な討論

 去る9月8日〜12日の5日間、ベルギーの北海に面した風光明媚な保養地オーステンドでプラスチックフィードストックリサイクルの国際シンポジウムが開催されました。ベルギーULB(ブリュッセル自由大学)のビュケンス教授らが中心に企画したもので、奥脇昭嗣(東北大)、阪田祐作(岡山大)両教授らによって開催された第1回シンポジウム(1999年、仙台市)に続き、今回が2回目。会議では塩ビのガス化技術など各国における多彩な研究開発の事例が報告され、世界29ヵ国から参集した学界、産業界の研究者およそ150名が、連日活発な討論を交わしました。

 

● 汎用性の高いフィードストックリサイクル

 プラスチックのリサイクルには大別して、マテリアルリサイクル、フィードストックリサイクル、それに熱回収の3種類の方法があります。
 マテリアルリサイクルとは、使用済みのプラスチックを単一種のプラスチックに分別し、再びプラスチック素材として再使用する方法。フィードストックリサイクルとは、使用済みのプラスチックを化学的あるいは熱的に分解し、有益な化学原料として再使用する方法で、化学的処理をすることからケミカルリサイクルともいいます。
 マテリアルリサイクルは最も好ましいリサイクル方法と言われますが、前提条件として、使用済みプラスチックの純度が高いこと、汚れが少ないこと、劣化が少ないこと、さらに再使用製品の用途が安定していることなどが求められるため、リサイクルを推進する上で制約が多いという欠点があります。
 これに対して、そうした制約をあまり受けないフィードストックリサイクルは、プラスチックのリサイクルを推進する上でより汎用性のある方法です。日本でも塩ビ工業・環境協会(VEC)と関連企業との連携により、塩ビのフィードストックリサイクルの技術開発が積極的に進められています。


 

●  塩ビの事例報告

 今回のシンポジウムでは、口頭発表とポスター発表を合わせて全体で84件、うち塩ビ関係は13件の事例報告がありました。内容は、ガス化、油化、高炉還元剤化、モノマー化など多岐にわたり、VECも「塩ビ業界のリサイクルへの取り組み」というテーマで、高炉還元剤へのリサイクル、塩素の塩ビモノマーへのリサイクルおよびガス化技術の開発状況について発表を行なっています。
 事例報告の中から、ヨーロッパで開発が進む塩ビリサイクル技術の概要を以下にご紹介します。

【スラグバスによるガス化】フランスのタボ(Tavaux)にECVM(欧州塩ビ協会)が中心になって、100kg/hrのパイロットプラントを2001年に建設しました。プロセスは、塩ビ廃棄物を溶融スラグバス内(1,400〜1,600℃)でガス化し、HCl、CO、H
2を得る、というもの。2002年末に検討を終了する予定とのことです。
【ロータリーキルン法】ドイツのシュコパウ(Schkopau)にあるDOW/BSLが、同コンビナート内で発生する塩素系廃棄物の処理を目的として1999年に建設したプラント。プロセスは、塩素系廃棄物を950℃のロータリーキルンで1次処理し、次いで1,100℃の炉で処理をする、というものです。能力は45,000t/yで、その内15,000t/yを塩ビ製品に充てることができるとのことです。塩化水素回収工程は20%塩酸として55,000t/yの能力があり、回収した塩化水素は、電解工程に戻すことと塩ビモノマー製造工程に戻すことが考えられています。
【加水分解と熱分解の組み合わせ】デンマークの企業が開発中のプロセス。第1段で、250℃の苛性ソーダと塩ビ廃製品をスラリー状で反応させ脱塩素します(この部分については有休設備として50,000t/y規模の設備がある)。第2段で、得られた炭化水素を600℃で熱分解し、炭化水素部分と無機質部分を分離します。得られたNaClは再利用し、炭化水素はガス化して利用、無機質も有効利用する計画。2002年中に今後の取り進めの結論を出す予定とのことです。
【熱分解と金属抽出の組み合わせ】デンマークの電線会社NKTの関連会社Watecが開発したプロセスです。約300℃、数気圧の熱分解反応器で塩ビ廃製品と炭酸カルシウムを反応させ、炭化水素残渣、CaCl2、金属塩化物、オイルおよびガスを回収します。固体相である炭化水素と塩化カルシウムと金属塩化物は、PHを調整した多段抽出装置でそれぞれの単体に分離し、有効利用します。Watecでは既に800t/yのパイロットプラントを用いて種々の塩ビ製品のテストを終了しており、現在、15,000t/y規模のプラントを建設するパートナーを募集中です。

《参考資料》
R.Buehl, Development in PVC Recycling, Prodeeings of 2nd ISFR,Sept.9-11(2002) Ostend , Belgium.
http://www.vinyl2010.org/Progress-Report-2002/Projects/7C-Stigsnaes-project.htm

 

●シンポジウムに参加して(奥脇昭嗣教授)

 基礎から実用段階まで、世界におけるプラスチックのフィードストックリサイクル技術の現状が紹介された。焦点の一つはPVCのリサイクル技術で、欧州のECVM及びわが国のVECから関連技術が発表された。それぞれ実用化の水準に達しており、ECVMのBuehl氏は講演で、経済性を確保するために必要なGate Fee(処理費)も示された。このような事情はわが国でも同様であろう。その点容器包装リサイクルによってRecycling feeが得られる一般廃棄物から分別された含塩素プラスチックについて、高炉原料化、コークス炉原料化、ガス化などの事業化がわが国で進んでいる状況は多くの参加者の注目を集めた。産業廃棄物のPVC材料は国内でも技術・システムを含めたマテリアルリサイクルの努力が続けられているが、溶媒を利用するそれらのリサイクル技術(※)は、パイロット規模の設備を見たこともあって興味深かった。

※PVCニュースNo.37(2001年6月号:海外事例紹介)およびNo.41(2002年9月号:インフォメーション)記事参照