2002年9月 No.42
 
建設混合廃棄物リサイクルの近未来

  リサイクル率94%達成へ―
   『リサイクル・ピア整備構想』がめざす循環型社会

 

 (株)タケエイ 取締役社長室長 堤 恵美子

●建設廃棄物との幸運な出会い

 
 私が建設廃棄物の仕事に関わってから今年でちょうどまる10年になります。実は、私はそれまで正規の仕事に就いたことがありませんでした。それがあるきっかけから職業を持って生きていこうと決心したわけですが、当時は高齢化問題と環境問題の二つが社会のキーワードといった感じで、私もそのどちらかの仕事をやってみたいと思っていろいろ探していたところに、就職情報誌で「環境関連企業」のタケエイが社員募集しているのを見つけたのです。
 タケエイが建設廃棄物の処理業者だということだけ理解し、実際にはそれがどのような職業なのかは入社するまで分かりませんでした。とにかく環境の仕事であれば、きっと私のライフワークになるだろうと予感して飛び込んだのですが、入社した時の上司が大成建設を定年退職した廃棄物問題のスペシャリストで、この方から「廃棄物の世界は混沌としていてこれからの分野。せっかくこの世界に入ったのだからしっかり勉強しなさい」といろいろ叩き込まれたことが、とても役に立ったと思います。それから後は、ごみは深くて、広くて、身近で、ただただ面白いと思って、今日までやってきました。
 この仕事に携わるようになって考えたことは、環境というものは一主婦や一家庭の単位ではいくら努力しても大きく変えることはできないけれど、企業や社会にはその力があるということです。そういう意味で廃棄物処理業は、担うべき課題の多い、やり甲斐のある仕事だと思います。処理業者側だけの努力では解決できない問題が山のようにあって、まさに“戦車に竹槍”のようなものですけれど、この仕事との出会いは私にとってはとてもラッキーなことだったと感謝しています。
 

●東京都「スーパーエコタウン事業」に参画

 
 現在、タケエイとして最も力を注いでいることの一つは、東京都の「スーパーエコタウン事業」への取り組みです。この事業は、国の都市再生プロジェクトの一環として東京都が国庫補助を受けて取り組むもので、「廃棄物問題の解決と環境産業の立地を促進し、循環型社会への変革を推進すること」を目的としています。
 具体的には、東京臨海部の都有地(中央防波堤内側埋立地および大田区城南島)に、(1)ガス化溶融等の発電施設、(2)建設廃棄物リサイクル施設、(3)その他のリサイクル施設、などの廃棄物処理・リサイクル施設を2003年から2005年にかけて順次整備、運営していく計画となっており、4月にその事業主体となる民間事業者の公募が行われました。6月7日の締め切り時点で19件の応募があったと聞いています。
 当社でも、大手建設会社や他の産廃処理業者など計7社で提案グループを結成して、『リサイクル・ピア整備構想』と名づけたプランを提案する形で公募に参加しましたが、お蔭様で7月に行われた選考の結果、「建設廃棄物のリサイクル施設」事業主体として選定を受けることができました。
 『リサイクル・ピア整備構想』の主な目標は、建設混合廃棄物(注)の最終処分(埋め立て)とリサイクルの比率を逆転させることにあります。現在全国平均で9%に過ぎない建設混合廃棄物のリサイクル率を、解体、回収、再資源化、市場開発など様々な社会的システムと技術の総合化により94%にまで高めると同時に、最終処分の割合を6%に低減するというのが最終目標で、この構想自体はずいぶん前から私の頭の中にあったものですが、都に提出した書類は皆で徹夜を重ねて1ヶ月ほどかけて一気にまとめ上げました。
 「リサイクル・ピア」という名前は、「見えてくる」とか「仲間たち」といった意味を併せ持つPeerという単語とリサイクルを組み合わせた言葉です。動脈産業と比較して、インプット・アウトプットが見えない、分らないと言われる産業廃棄物処理業のイメージを払拭するには、事業全体が透明に見えてくること、そしてリサイクルは多くのネットワーク「仲間たち」によって創られることから、これこそ我々建設廃棄物を扱っている者のいちばんのメッセージであり、また願いであるという思いを込めて命名しました。
 

●『構想』の実現に夢中の日々

 
 とにかく、いまの私はこの『リサイクル・ピア整備構想』の実現に無我夢中です。なぜなら、建設混合廃棄物は、少量、多品種の複雑な組成の分選別や、異なる素材の複合製品の分離・分解という処理の一段階で突き当たる困難さにおいて、象徴的な存在であるということを痛感するからです。
 これらの困難を克服できず、産業廃棄物の再資源化率が最下位で、さらに不法投棄や不適正処理の温床になっている建設混合廃棄物ですから、「これを真剣に見直し、高い品質を伴ったリサイクル率を示すことができたら、きっと他の分野、例えば粗大ごみの再資源化など循環型社会の環を組み立てる上で重要な一つの側面の鍵を解くことにつながってくる」という確信に近い思いがあるからです。
 タケエイでは、これまでも建設混合廃棄物の再資源化に積極的に取り組んできました。現状では、コンクリート砕石や木くずのチップ化などを含めてリサイクル率42%と、混合廃棄物としては割合いいほうかもしれませんけれど、一方では埋め立て処分(38%)、単純焼却(20%)などを合わせると、まだ6割近くがワンウェイの処理となっています。
 こうした現状を、単純焼却しているものは発電に利用してサーマルリカバリーを35%に高める、あるいは、埋め立て処分してきた砂利やダストなどは洗浄したり、パウダー化したりして改良砂あるいは製鉄副資材としてリサイクルする、といった新しい発想と技術によって逆転することが、我々の構想の核心です。
 スーパーエコタウン事業では、城南島とトンネルで繋がっている中央防波堤の敷地に東京電力のグループがサーマルリカバリーの施設(流動床式ガス化溶融炉)を建設することになっており、この施設がリサイクル・ピアのリサイクル率達成にかなり寄与してくれるのではないかとも期待しています。
 

●先進的モデル事例として全国に発信

 
 事業主体に選ばれはしたものの、目標を達成できるかどうかは、これからが正念場です。都の計画では、「事業主体に決定した事業者は、都有地(約10ヘクタール)を購入して、自らの責任で施設の整備・運営を行う」となっていますので、投資額も相当大きなものになることを覚悟しなければなりませんし、20年以上の継続事業として成立することが選定の要件になっていますから、採算性も重要なポイントです。なお、「建設廃棄物リサイクル施設」としては、タケエイのほかに二つのグループが選定されていますので、高いレベルの建設循環を目指す者同士で強い連携を取りながら先進的な静脈産業の拠点を造っていきたいと思います。
 そしてこの拠点で、飛躍的に高いリサイクル率を実現し、「東京都という、もはや安易な埋め立てが許されない都市にあっても、必死にやればこういうことができる」という先進的なモデル事例として全国に発信することで、燃やしたり埋め立てたりというワンウェイの処理法が長い間続き、リサイクルの手法もよく分かっていなかったこの業界に、その手法を広く公開して役立てていけたら、本当にうれしいと思います。
 また、構想の中には、新しい技術や新しい概念をいくつも盛り込んでいます。例えば、これまでの建設混合廃棄物処理は、まずダンプが荷を下ろし、それを人が取り囲んで粗選別をするという光景が通常ですが、非常に重労働の上に、人間・重機・車両が混然となっていますので危険が伴う労働環境です。これに対して、我々の計画では、車から直接展開フィーダーに荷降ろしするところから、人ではなく機械が選別を開始します。展開フィーダーでは、映像データを中央監視室に送ってそのまま組成分析記録ができる技術の導入を試みているほか、機械選別では、アメリカで見つけた特殊なロールスクリーン方式による分別精度の高い技術を導入しています。
 先ほど、リサイクル・ピアには「見えてくる」という理念を込めて命名したと申し上げましたが、もう一つの理念として、「循環の環をつなぐ上で、動脈産業が持っている品質基準の考え方、機械と人間の関係のあり方など様々な良いものを共通のものにして、3K、4Kと言われる静脈産業の中に根付かせたい」ということがありました。初期段階からの機械選別という今回の技術開発は、その理念の実現に道を開くものです。この技術により「手選別に勝る選別はない」という先入観が変わるかもしれません。
 

●「5R」による循環型社会形成の推進役

 
 先ほども申し上げましたが、当社では既に長い間建設廃棄物のリサイクルに取り組んできました。10年前に私が入社した時にも、既に建設廃棄物の環境問題をかなり強く意識していて、新しい施設を作るにも、「リサイクルのための手選別をメインにして焼却施設は作らない」「燃やす前に分ける」といった理想を一生懸命追求していました。
 実際には理想と現実の違いも大きくて苦しい時期もあったのですが、社長の三本(三本守社長=全国産業廃棄物連合会理事および同建設廃棄物部会長)も当時の私の上司も、とにかくそういう方向で進むのだという強い意志で会社を引っ張っていました。自分の会社を褒めるのもどうかと思いますが、廃棄物処理業者の中では環境を意識した志の高い会社だと思いますし、私が入社を決心したのもそういう会社の姿勢に共感できたからです。
 また、三本は昨年の春まで関東建設廃棄物協同組合の理事長を11年にわたって務め上げ、この間、建設廃棄物の組成分析調査を3年に1回実施したり、行政担当者を招いて研修会などを開いたりして、業界全体の環境意識を高めるという点でもかなり貢献できたと思います。
 今年のお正月には、「うちの会社は3Rソリューション事業の資源製造会社になるんだ」と宣言して、新たな経営理念((1)資源循環型社会への貢献をめざす、(2)経営体質強化に向けた株式上場、(3)廃棄物処理業から3Rソリューション事業への業態転換、(4)協業化〈ネットワーク作り〉による事業拡大)を社員に示しましたが、最近は3Rどころか、サーマルリカバリーとリターンアースを加えた「5Rによる循環型社会形成の推進役を果たす」と意気込んでいます。
 「環境対応」は最早、タケエイの事業の最大のメイン・ストリームです。城南島のスーパーエコタウンが建設廃棄物リサイクルの拠点となって、塩ビ業界も含め皆で同じ土俵の上でリサイクルに取り組めるようになれば、どんなに素晴らしいことでしょう。
 
(注) 建設混合廃棄物の定義
建設廃棄物の1区分。建設廃棄物は主に「アスファルト」「コンクリート」「木材」「汚泥」「混合廃棄物」「その他」などに分けられるが、建設混合廃棄物には、塩ビ建材(床材、壁紙、電線被覆など)や石膏ボードなどの製品が含まれる。

■プロフィール 恵美子(つつみ えみこ)
昭和20年東京都生まれ。実践女子学園高校卒。産業廃棄物中間処理施設技術管理者。平成4年(株)タケエイ(本社=東京都江戸川区西葛西)入社。安全環境部、社長室参与、営業部長などを経て平成13年取締役、同14年取締役社長室長に就任。RDF/Mフォーラム幹事、同建設廃棄物研究委員会副委員長、循環社会推進国民会議幹事などの要職を兼務しつつ、建設廃棄物のスペシャリストとして最前線で活躍。東京都の「スーパーエコタウン事業」に選定された『リサイクル・ピア整備構想』では、構想立案の中心的役割を担う。