2001年6月 No.37
 
 

 ウスイ金属(株)の電線リサイクル事業
   塩ビ被覆材の50%をリサイクル。銅線回収のコスト圧縮にも貢献

 

    長い歴史を持ちながら、意外に注目されることの少ない電線のリサイクル事業。今回は消費科学連合会の伊藤康江副会長にもご足労願い、電線リサイクルの大手、ウスイ金属株式会社(本社=東京都墨田区)の成田事業所(千葉県香取郡山田町桐谷768/TEL.0478―78―3912)を訪ね、塩ビ被覆材を中心としたリサイクルの現状を取材しました。  

 

■ 電線リサイクル一筋に80年

 

  絶縁性や耐久性に優れる塩ビ被覆材は、昭和20年代半ばに日本に登場してから急速に普及しました。現在、被覆材全体(塩ビのほかにポリエチレンや架橋ポリエチレン、合成ゴムなど)に占める塩ビの割合は約6割に達しており、塩ビなしでは現代の電化生活は成り立ちません。
 一方、塩ビ被覆材はリサイクルの面でも他の素材を大きく引き離しており、現在では、1年間に発生する全国の使用済み塩ビ被覆材12万トンのうち、約4割(4万トン程度)が、後に述べるようにさまざまな形で再利用されています。
 今回訪れたウスイ金属は、大正14年の創業以来一貫して、電線の中から銅線などの有価金属を回収して再利用する業務に携わってきた会社ですが、塩ビ被覆材のリサイクルについても既に20年以上にわたって独自の取り組みを進めてきました。
 「昔は電線を野焼きして中の銅線だけを回収することが多かったが、公害問題として規制が進むと同時に、焼却によって肝心の銅線自体の品質が低下することも問題になってきた。一方、被覆材の埋立コストもばかにならない。そうした事情から、機械的に銅線を取り出し被覆材もリサイクルするシステムの開発が進んだ。当社では、昭和53年に月量2,000トン規模の市川事業所開設と同時に、一貫システムを導入。昭和63年には成田事業所も開設し、平成5年の大型粉砕設備稼働を機に被覆材のリサイクルが大きく前進することになった」(ウスイ金属・蒲田哲也専務の話)。

 

■ 月600トンの塩ビを再生

 
  成田事業所では、現在月量1,000トンと400トンの2ラインが稼働していますが、同事業所の花房武所長によれば、「処理量の現状は約1,000トン。うち被覆材が約500トンで、塩ビは約8割(400トン)を占めるが、リサイクルしているのは平均200トン程度」とのことで、汚れや劣化がはげしくリサイクルに適さないものは埋め立てに回されます。
 市川事業所でも塩ビのリサイクル状況はほぼ同様で、その量は1カ月当たり約400トン。全体としてリサイクル率50%という実績は全国の平均を大きく上回る数字です。
 ここでウスイ金属の電線リサイクル工程を簡単に説明します。
 同社が扱う使用済み電線の種類は、電力や鉄道の送電用、通信用電線、あるいは電線メーカーの工場内で発生する不良品、建設廃棄物や電気工事現場からの廃棄物などが中心ですが、リサイクルの方法は、ケーブル線のように径が太くて被覆を剥離解体しやすい種類と、径が細くて簡単に剥離解体しにくい種類とで内容が異なります。
 径の太い電線の場合は、一定の長さに切断した後、被覆材を剥離して銅線を回収する方法で、比較的手間が少なく、銅線は電線メーカーに、塩ビ被覆材も皮状の形のまま梱包されてリサイクル業者に売却され、多くは再び電線に利用されます。

■ リサイクルを支える特殊技術

 
  一方、剥離解体しにくい径の細い電線の場合は、ナゲット(粉砕)処理と呼ばれる方法が取られます。まず電線を切断、粉砕した後、比重選別により銅線と被覆材を分離しますが、比重選別は粉砕した電線を細かい網目のネット上で振動と風力を利用して分離する特殊な方法で、100%近い精度で銅線と樹脂を分離することができます。
 被覆材についてはさらに、比重差を利用して塩ビとポリエチレンを湿式選別します。これは、1本の電線に塩ビとポリエチレンの両方が使われる場合が多いためで(電線の被覆部分は一般的にシース《sheath》と呼ばれる外皮と絶縁体の2層構造となっており、それぞれの用途に応じて塩ビとポリエチレンが使用される)、湿式選別により比重の重い塩ビだけを簡単に回収することができます。
 ナゲット処理の場合、銅線は粒状のナゲットまたはナゲットを固形化したブリケットの形で電線メーカーに売却されるほか、塩ビの粉砕品は前記の業者とは異なる専門のリサイクル業者の手によって再生ペレットに加工されたり、床材などの再生加工品の原料として利用されます。

   

■塩ビはリサイクルしやすい素材

 
  ウスイ金属では、初めの頃は径の太い電線被覆だけをリサイクルしていましたが、成田事業所の開設と大型粉砕機の導入以降、リサイクル率は順調に上がってきているといいます。
 「被覆材のリサイクルに取り組んで、経営的には確実にプラスになっている。千葉県内でも埋立費用は年々上がっており土地の余裕も少ないので、リサイクルの必要性はさらに大きい。銅線は100%リサイクル可能だが、被覆材の中では、他のプラスチックに比べて歴史が長く収集システムが確立していること、また再生技術や用途開発が進んでいるため塩ビが最もリサイクルしやすい。ポリエチレンも一部はリサイクルされているが、塩ビのようにはうまくいかず、他の素材も含めて大半が埋め立てられているのが実状だ」と、蒲田専務は塩ビのリサイクル性を評価しています。
 塩ビは架橋ポリエチレンなどとは異なり、再生ペレットをそのまま加工でき、再生品の用途も確立されているため、リサイクルしやすい素材と言えます。

 

【伊藤副会長の感想】

リサイクルを知るには、何より現場を見ることが大切だ。今回、はじめて電線のリサイクル現場を見せてもらったが、銅線と被覆材のそれぞれを徹底してリサイクルしている取り組みに感心した。
リサイクルが社会的な課題として騒がれるずっと以前から、そうした努力が続けられてきたということは驚くべきことだ。新しい知識を得ることは楽しいことで、改めて現場の大切さを実感した。
被覆材の場合は用途や使い勝手によっていろいろな素材が使われているようだが、分別のしやすさという点では、もう少し素材を整理することも将来的には考えられていいと思う。
静脈産業が立派に経営的に成り立つことが何よりも重要だと感じた。