2000年12月 No.35
 

 化学工業におけるファクター10の具体化に向けて

  塩ビは資源生産性の高い魅力的素材。「持続可能な社会」の実現に重要な役割

  

    11月2日、東京・千代田区のお茶の水スクエアにてフランスのファクター10研究所長フリードリッヒ・シュミット−ブレーク博士による「化学工業におけるファクター10の具体化に向けて」と題する講演会が開催されました。その内容を当協議会宛に寄稿を受けたのでここに掲載します。講演では「持続可能な社会」の実現をめざす「ファクター10」理論を詳しく解説した上で、「寿命が長く環境負荷も小さい塩ビは、資源を効率的に活用する上で重要な役割を持つ素材のひとつ」と訴えた博士に、会場から盛んな拍手がおくられました。  

 

「ファクター10」理論に世界が注目

  F・シュミット−ブレーク博士は、「持続可能な経済社会を実現するには天然資源の利用効率を10倍に高めることが必要」とする「ファクター10」理論の確立と、その実践のための尺度「MIPS(Material Input Per unit Service)」(サービス単位当たりの物質投入量。経済のエコロジー評価を行うための指標となる)の開発により、いま世界で最も注目される環境学者の1人です。
 博士は、OECDの科学局長やドイツ連邦環境保護省(EPA)の特別顧問などを経た後、現在は仏ファクター10研究所の所長として「ファクター10」の概念の普及と実践に向け精力的な活動を展開しています。今回の講演会もその普及活動の一環として行われたものです。
 講演の中で博士は、無駄遣いによる天然資源の危機的状況から脱却するには、「天然資源のフローを現在の10分の1に減らすこと、言い換えれば、資源の活用効率を現在の10倍に引き上げることが不可欠だ」と述べた上で、ドイツ国内でアルミに代わって急成長する塩ビ窓枠などを例に、「MIPS因子の低い塩ビは、その長い寿命と便利な製品という長所を活かすことにより、資源生産性の高い製品を作り出すことを可能にする魅力的な素材のひとつだ」と、強い調子で訴えました。

シュミット−ブレーク博士の
講演要旨

高い資源生産性で急成長する塩ビ窓枠

  • 現在は天然資源の多くが浪費されており、車1台つくるのに車体1トン当たり30トンもの再生不能な天然資源が使われている。この資源浪費型の経済の仕組みを改めることなく、中国やインドなどすべての発展途上国が経済水準をOECD諸国並みのところまで引き上げようとすれば、さらに地球2つ分の資源が必要になる。
  • こうした深刻な資源不足から脱却するには、先進国の天然資源のフローを現在の10分の1に減らすこと、言い換えれば、天然資源の活用効率を10倍にすることが必要であり、それにはMIPS因子の低い物質を使ってサービスを提供することを考えなければならない。プラスチックは、鉄や紙に比べてMIPS因子が非常に低い。塩ビもそうした重要な役割を持つ素材のひとつだ。
  • ドイツの塩ビの生産高および市場動向を見ると、継続的なプラス成長が読み取れる。生産高の成長率が9%だった塩ビは、その他すべてのプラスチックの伸び率を抜いた。窓枠を例に取ると、現在塩ビとアルミの窓枠が競合してはいるが、MIPSの考えに基づけば資源生産性の高い塩ビの窓枠を使うべきだということが分かる。塩ビの窓枠は98年には52%のシェアを占め、ドイツの窓枠市場の半分以上に達している。東西ヨーロッパでの継続的な成長により、塩ビの窓枠は輸出ヒット商品となった。

 

 

 

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リサイクル技術の開発も進む

  • 塩ビの製造と加工の分野では、年間総売上高は200億ドイツマルク(約1兆円)であり、ドイツにおいて15万人の雇用がある。その中には、窓枠施工業者だけでも1万社以上、さらに床材や屋根材、あるいは電線やパイプに従事する者が含まれている。塩ビはドイツの製造業界でナンバーワンを誇る成長分野であり、現在のプラスチック産業の4分の1を代表するに至っている。
  • 政治家も資源生産性について話をするが、法的に制度化されているわけではない。政府や政治家はもっと資源生産性に注目して法制化する必要がある。エコロジカルな観点から見た素材の特性を計算し、数字化して公開すること。それを消費者が見ることによって、塩ビはアルミに比べてエコ効率が非常によいものだということを理解できる。また、そういう素材の重要性を政府や産業界の意志決定に携わる人々に説得することが重要だ。
  • 塩ビの窓枠、屋根材、床材やパイプ製品分野において現在進められているリサイクルに加え、他の製品に関してもリサイクルできる可能性がある。塩ビは寿命が長い製品であり、とても低いMIPS因子に加えて耐久性があり、高い資源生産性をもつ製品を生み出している。
  • しかしながら、ドイツでは毎年70万トンの使用済み塩ビが出ている。その内、20万トンが素材回収され、16万トンがエネルギー転換されている。現時点でフィードストックリサイクルの様々な方式が試験されている。その中には、例えば、塩素を含む残渣とともにロータリーキルンで熱分解する方法も含まれる。溶融炉方式のパイロットプラントも建設されている。日本でのフィードストックリサイクルも注目すべき成果が上がっていると思う。

環境面から塩ビが優れているポイント

  • ダイオキシン排出に関しては、塩ビの関与は低い。98年にはドイツのEPAも、塩ビが存在する火事において発生するダイオキシンより、その時発生する多環芳香族炭化水素の方がより問題であることを明らかにしている。火災時におけるダイオキシンの問題にばかり焦点が集まって、より危険な多環芳香族炭化水素に目が向いていないのは正しいこととは言えない。
  • 可塑剤に関して欧州委員会は、人体ヘの移行上限規制値さえ守っていれば、健康上問題はないという研究報告を発表した。現時点でヨーロッパには可塑剤移行に関して二つの認証された測定方法がある。アメリカでは、元FDA局長(Dr.C.E.Koop)に率いられた専門家グループが、「消費者は塩ビの玩具および衣料製品を安心して使用できる」と結論づけている。
  • EUの政治において、塩ビの生産、使用、そして廃棄に関して、より厳しい規制が課せられるという傾向は見られない。最近、ドイツでも公共の建物内における塩ビの使用に関する規制が緩められた。99年には、ドイツ連邦最大の州であり、人口1,700万人のNorth Rhine Westfaliaにおいて、環境上健全な建築物を目指す法令が出されたが、この中に塩ビに対する規制はない。
  • ドイツでは現在広範囲にわたる新制度への改革が行われている。例えば、エタンがフィードストックとして適切かどうかがWilhelmshavenのパイロットプラントで調査されている。さらに非金属の新しい安定剤、およびさらなる新しいリサイクリングについても探求されている。
  • 全体的に言えることは、塩ビは、エコロジーの観点から、MIPS因子が比較的大きいアルミなどの素材に取って代わる魅力的な素材である。さらに塩ビは、その長い寿命と利便性という長所を活かすことにより、資源生産性の高い製品を作り出すことを可能にするものである。


※ファクター10研究所のホームページ
http://www.factor10-institute.org
 も併せてご参照ください。