2000年12月 No.35
 

 いかにして持続可能な社会を実現するか

 東大生産技術研究所・山本良一教授が「持続可能な社会」実現への道筋と具体策を明示

  

    当協議会主催の講演会が9月8日、東京都千代田区の電機工業会館JEMAホールで開催され、東京大学生産技術研究所の山本良一教授が「いかにして持続可能な社会を実現するか」をテーマに講演を行いました。  

危機克服へ、エコデザインの重要性

  今回の山本教授のお話は、科学技術や消費経済の暴走、人口の大爆発といった地球規模の危機的状況を「いかに乗り越え、持続可能な社会を実現していくか」について、内外の動きを検証しながら、その具体的方法論を明らかにしたもの。
 冒頭、様々な研究データに基づいて食糧不足や水資源、森林資源の枯渇などの実態を解説した山本教授は、「ブリティッシュコロンビア大学の都市工学グループが提唱したエコロジカル・フットプリント(経済の環境面積要求量。産業経済活動が生態系に支えられていることを面積で表す考え方)の手法によれば、世界52カ国のエコロジカル・フットプリントの合計は全地球の生産可能な陸地水域総面積の1.33倍。すなわち持続可能な水準を既に33%もオーバーしており、我々は絶体絶命のところに来ている」と述べて、大量生産、大量消費、大量廃棄からの転換へ向け、予防原則に基づく抜本的かつ徹底的な対策が求められていることを強調。
 さらに、持続可能な社会に至る道筋について、ドイツで提唱されているファクター4(2050年までに先進国は1人当たりの年間資源消費量を4分の1に下げ、製品の資源生産性、環境効率を4倍に高める)、ファクター10(年間資源消費量を10分の1に下げ、資源生産性を10倍にする)などの考え方を説明した後、その具体的な方法としてエコデザインの問題に話を進め、「これでしか将来の社会は設計できない」と、その重要性を強く訴えました。

 

エコデザイン推進の切り札「グリーン購入法」

  エコデザインとは、「製品の長寿命化、再使用、修理、再製造、リサイクルによりライフサイクル全体において資源生産性、環境効率を向上させ、エネルギーの投入量や廃棄物などの排出量、さらには循環量までも減少させること」を最終目的としています。
 また、製品をサービスで置き換えること、すなわち、耐久財の販売を賃貸やリースのような「財の利用権の販売」に置き換えるほか、輸送機関や公園、図書館、福祉施設などの公共財を手厚く整備して私的な所有物をなるべく少なくすることもエコデザインの大切な要素です(表1)。
 エコデザインには4段階の発展のシナリオが考えられていますが(表2)、山本教授によれば「現在、日本の企業の実力は殆どがステップ1(製品の環境品質の改良)かステップ2(製品再設計)、つまり循環型社会の技術の段階」で、これを持続可能社会の技術であるステップ3(機能革新)、ステップ4(システム革新)に転換することが「21世紀の課題」となっています。
 この問題について教授は、「日本でも循環経済ということが言われるようになったが、これはあくまで過渡的な経済に過ぎない。我々が最終的に実現すべきことは、投入量、排出量、循環量すべての減少であり、そのためには製品の性能を上げながら環境負荷を下げるという研究開発をしなければならない。エコデザインに無関心な企業は最早生き残れないと考えたほうがよい」と断言する一方、ステップ4へのシナリオを実現するには、「市場経済の原理に基づき環境先進企業を市場メカニズムで支援することが不可欠」として、来年4月に施行されるグリーン購入法による公共調達の拡大が「その切り札になる」と指摘しました。

 

 

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グリーンでなければ工業製品と呼べない

  公共調達については、山本教授が委員長を務める「特定調達品目検討委員会」が政府に設置されており、9月7日にはその第1回目の会合が開かれ、今後4カ月の間に調達品目のリストが作成されることになっています。
 委員会の作業の状況について教授は、「全知全能を挙げてあらゆる品目を特定調達品目の中に入れなければならない。現在候補に上がっている品目だけでは不十分で、役務、サービスも入れるという基本方針で作業を進めている」と述べるとともに、品目決定の基準については、「最初の基準は緩くてもいいから、ちょっとでも緑であれば全部グリーン調達の対象にすることが重要だ。塩ビの再生品も大いに結構だ。基準の見直し作業はその後にゆっくりやればいい」との考えを示しました。
 また教授は、「来年から国会、裁判所、省庁、特殊法人、独立行政法人はすべてグリーン調達の義務を課せられ、その結果を年度末に報告しなければならない。一方、3,300の自治体も努力義務を課せられているので実質的には国と同様の調達を行うことになる。大企業でISO14001を取得している会社も、大手家電、コンピュータ、自動車、建設ゼネコン業界などを中心にグリーン調達に動いている。そうなると来年からは日本中がグリーン調達一色になり、大津波が日本の産業経済界を襲うことになる。この大津波によって一気呵成に意識変革を実現したい」と、強力なリーダーシップを発揮してグリーン調達を成功に導く決意を表明。
 最後に、「グリーンであることを製品性能のひとつと考えてはならない。グリーンであることが商品のおまけのように誤解している会社もあるが、これは工業製品であるための大前提であり、今やグリーンでなければ工業製品とは呼べない時代だ。グリーンでないものは知的玩具に過ぎず、そういう製品を社会的に普及させるわけにはいかない」と訴えて、講演を締めくくりました。

 

[プロフィール]山本 良一 (やまもと りょういち)

 昭和21年水戸市生まれ。東京大学工学部冶金学科卒。同工学系研究科大学院博士課程修了。工学博士。ドイツのマックス・プランク金属研究所客員研究員などを経て、平成4年から東京大学生産技術研究所教授。中国の北京大学、蘭州大学、南京大学、科学技術大学等の名誉・客員教授を兼務するほか、グリーン購入ネットワーク代表幹事、ISO/TC207/SC3(環境ラベル)国内委員長、LCA日本フォーラム委員長、科学技術庁エコマテリアルプロジェクト研究推進委員長、グリーン購入法の特定調達品目検討委員会委員長など役職多数。エコデザインの世界的リーダーの1人。