1997年12月 No.23
 
 

 高崎市・ラジエ工業(株)のPTPリサイクル事業
   医薬品包装材の塩ビリサイクルに取り組んで20年、困難を克服して着実な活動

 

    塩ビのリサイクルは様々な分野で進められていますが、案外知られていないところでも地道な活動が続けられています。今回は、全国でも珍しいラジエ工業株式会社(富田恵一郎社長、高崎市大八木町168、電話0273−61−6101)のPTPリサイクル事業を取材しました。  

製薬会社の工場廃材をリサイクル

  PTPとはPress-Through-Packの略称で、一般にはカプセル剤や錠剤などの包装材としておなじみの製品です。PTPは真空成型したプラスチック・シートの裏にアルミのフィルムを貼り合わせて作られますが、防湿効果が高く、コンパクトに包装できるなど利点が多いことから、薬剤包装の最先端技術として今では生活の中にもすっかり定着しています。
  このPTPに使用されるプラスチックとして最も一般的なのが塩ビで、最近では、一部他の樹脂を使った製品も開発されているものの、加工性の良さと価格の安さなどから、その9割近くは塩ビ製となっています。
  今回ご紹介するラジエ工業は、医薬品の包装工程で出るPTPの打ち抜き屑や、包装機械の馴らし運転時に使われるPTPの廃棄物などを集めて塩ビのリサイクルを行なっている会社で、既に20年近くにわたってその取り組みが続けられています。

 

■ 2年の検討期間を経て事業に着手

  ラジエ工業が群馬県知事の再生利用産業廃棄物処理指定(第1号)を受けてPTPのリサイクル事業に着手したのは昭和53年のこと。当時は古紙や金属のリサイクルに比べて、産廃系塩ビの再生原料化はまだそれほど一般的とはいえない時代でした。
  ラジエ工業はもともと滅菌のための放射線照射(Radiation)や火薬工業製品の製造などを主業務とする会社で、特に放射線照射事業の分野では国内トップ、世界でも有数の実績を誇ります(ちなみに、同社の社名もこの放射線照射事業に由来するもの)。
  そんな会社が全く分野の異なる塩ビのリサイクルに手を染めた理由について、同社の佐藤利男取締役技術部長は、「当時ラジエ工業では群馬経済連の農業用ビニル・リサイクル事業に協力して、再生ペレットを買い取り販売していたが、昭和51年頃、実験器具の滅菌技術について共同研究を行っていたあるPTPの塩ビ原反メーカーがこの点に目をつけ、『製薬会社がPTP屑の処理に困っているので、何かいい方法を考えてもらえないか』と相談を持ちかけてきたのが直接のきっかけになった」と説明しています。
  塩ビの再生ペレットを販売していたとはいえ、当時のラジエ工業には塩ビ再生の技術的な知識は全くありませんでした。しかし、2年間の検討の結果、(1)原料のPTP屑はPTPの塩ビ原反メーカーの仲介で全国の製薬会社から集めてもらえること、(2)技術面では化学コンサルタントに研究を依頼した塩ビとアルミの撹拌・分離技術(後述)が実用化できること、(3)塩ビの再生ペレットの販路(床材メーカー)を利用できることで、「原料の定量確保」「リーズナブルな価格を実現できる処理技術の確立」「市場と顧客の確保」というリサイクルの3条件が何とか満たされるとの見通しを得て、ラジエ工業のPTPリサイクル事業はようやくスタートを切ることとなりました。

■ 高速ミキサーで塩ビとアルミを分離

 
  現在、ラジエ工業にPTP屑の処理を委託している製薬メーカーは全国で35社を数えます。スタート当初の処理量は1カ月20トン程度でしたが、現在では1日約7時間運転で月40トンに達しており、ラジエ工業だけで全国から出るPTP屑のほぼ6割強を処理している勘定です。残りのほとんどは埋め立てか焼却処分に回されていると考えられるため、今のところ日本でPTPリサイクルに取り組んでいるのは実質的にはラジエ工業1社だけということになります。
  処理工程は図に示したとおりですが、この中で特に注目していただきたいのが高速ミキサーを用いた撹拌・分離技術。これは高速ミキサーに入ったPTP屑を、撹拌によって生じる熱と120℃程度の加温によって塩ビとアルミに分離する技術で、「高コストになる化学的な薬品処理ではなく、物理的な撹拌・分離技術を取り入れたことが成功のカギになったと思う」と、佐藤部長は言います。
  また、この撹拌・分離工程でアルミは2ミリ程度に微粉化された後、網目6ミリの篩(ふるい)にかけられて塩ビと分別されますが、「これも難しい技術のひとつ」で、その分別精度は99.9%に達します。
  一方、塩ビは4ミリ角に微粉砕された後、最終的には軟質化されてグラッシュ状で床材メーカー出荷されます。以前はアルミ屑も再利用業者に販売していましたが、最近ではアルミのバージン価格が下がっていることもあって、やむを得ず産廃処分しているとのことです。
  なお、炭酸カルシウムを添加するのは、PTPに使われている接着剤によって塩ビとアルミの再付着が起こることを防止すると同時に、塩ビへの着色を防ぐためです。

   

■ リサイクル時代到来で高まる評価

 
  ラジエ工業の経営全体に占めるPTPリサイクル事業の比重は、売上の2〜3%と決して大きなものではありません。スタート当初は別として、採算の取れない期間も長く続いたようで、特に塩ビのバージン価格が下がり、一方で製造コストが上がってアルミも売れなくなってからは、処理量の増加でスケールメリットが出ても、毎年赤字の連続だったといいます。
  このため、同社ではそれまで無償で行なってきた再生処理の有料化を製薬メーカーに打診、製薬メーカーからも「もっと続けてほしい」という協力的な姿勢が示されたため、平成5年に県の指定を中間処理業に切り替えて、処理費を取ることができるようになりました。
  「お陰で現状では赤字にはなっていない。床材メーカーも塩ビの再生ペレット以来長い付き合いがあるため価格の相談にも好意的に応じてくれるし、塩ビの原反メーカーも製薬メーカーにこちらの要望を仲介してくれたりと協力的で、集荷や販売のための営業費が殆どかからないことが、20年間なんとか事業を続けてこられた要因だと思う。売上的には今でも事業全体のプラスになっているとは断言できないが、再生品は品質の良さで歓迎されているし、リサイクル時代に入って事業に対する周囲の評価も高まっているので、赤字にならない限りはこの事業を続けていきたい」(佐藤部長)。
  ラジエ工業が20年間でリサイクルしたP.T.P.の量は10万立米、約1万トンに達します。こうした地道な塩ビのリサイクル事業にも、もっと社会の関心が向けられて良さそうです。