1997年9月 No.22
 
 《NKKの廃プラスチック高炉原料化システム》

 年間3万トンを製鉄原料に利用、将来は塩ビも含め年6万トンの処理構想
 

    高濃度塩ビ廃棄物の高炉利用に関するNKK(日本鋼管株式会社)との共同研究については、本号の<トップ・ニュース>でご紹介したとおりですが、同社の京浜製鉄所(川崎市川崎区南渡田町1−1、TEL.044−322−1654)では、塩ビを除く廃プラスチックについて一足早く高炉利用が進められ、関係者の注目を集めています。今回はその現場を訪ねて、事業の現状と塩ビの高炉利用の可能性について話を聞いてみました。  

  

コークスの還元作用を廃プラで代替

  鉄の製造には鉄鉱石とコークスを必要とします。高炉の上部から鉄鉱石とコークスを入れ、下の羽口と呼ばれる吹き込み口から1000℃以上の熱風を送り込んでコークスをガス化すると、ガスの還元反応により鉄鉱石の酸素を取り除かれて溶けた鉄(溶銑)ができる、というのが製鉄のおおまかな仕組みで、一般的には生産される鉄のおよそ半分の量のコークスが使われます。
  NKKの場合、その鉄鋼生産量は年間約1000万トン強。うち京浜製鉄所だけで360万トンが生産されており、1日当たりでは約5000トンのコークスと1万6000トンの鉄鉱石を原料に1万トンの鉄が作られています。
   廃プラスチックの高炉原料化とは、このコークスの一部を廃プラスチックで代替する技術で、プラスチックのリサイクルや製鉄コストの低減に大きな効果が期待されることから、ドイツを中心に、韓国などでもその取り組みが始まっています(ドイツの状況については6頁<海外事例紹介>参照)。

 

■ 利用効率80%、排ガスの熱利用も

  NHK京浜製鉄所では、現在2基の高炉のうち第1号炉が稼働しており、これに隣接して処理能力年3万トンの廃プラスチック高炉原料化施設が建てられています。
  システムは廃プラスチックの破砕・造粒設備と吹き込み設備、および高炉本体で構成されていますが、このうち破砕・造粒設備は図のように、固形プラスチックの破砕工程(1次・2次破砕および粉砕の3段階)とフィルム製品の溶融・造粒工程から成り、この段階で磁石や風力を利用して非鉄金属等の除去が行われます。
  原料化されたプラスチックは、吹き込みタンクから圧力で羽口に送られますが、鉄鋼メーカーでは以前から合理化策の一環として値段の安い微粉炭を羽口から吹き込んでコークスの代わりに利用する技術が開発されており、この技術が廃プラの高炉利用にも応用されています。羽口は高炉を取り巻くように全部で40本あり、うち4本が廃プラ用、残りの36本が微粉炭用です。
  高炉の内部は2000℃以上の高温で、羽口から吹き込まれたプラスチック粒子は瞬時に完全分解され、主要成分のうち炭素は一酸化炭素ガスに、水素は水素ガスになって鉄鉱石の還元溶解に使われた後、高炉の上から排出されて、燃料として製鉄所および発電プラントで利用されます。
  高炉利用による廃プラスチックのリサイクル率は、還元剤としての利用が60%、熱利用が20%で、全体の80%が有効利用されていることになります。

■ 廃プラ処分間題解消の可能性

 
  高炉利用の長所としては、前述のように廃プラスチックの油化や固形燃料化に比べて利用効率が高いこと、オーストラリア、カナダ、アメリカなどに依存している石炭の輸入を低減でき省資源になることなどが挙げられますが、NKK廃プラスチック高炉原料化チームの家本勅課長は、「LCA的に言えば石炭輸送のためのエネルギー、二酸化炭素を低減できるという効果も大きい。また、プラスチックはコークスと比較して水素分が多いため、二酸化炭素の発生が30%少なくなり地球温暖化の対策になる』ことも指摘しています。
  また、先に述べたとおり原料化施設の処理能力は年間3万トンとなっていますが、高炉本体については60万トンまでは処理できる能力を持っているといいます。
  「コークスには還元剤としての役割以外に、分解ガスを通したり、溶銑が流れ落ちる気孔を作る充填材の役割があり、全く使わないというわけにはいかない。しかし、現在、京浜製鉄所で使われているコークス年間約150万トンの4割までならプラスチックに置き換えることができる。つまり、理論的には京浜製鉄所だけで年間60万トンの廃プラの処理が可能であり、今後システムの拡充や廃プラ収集方法の研究などが必要だが、これが実現できれば20万トンの船3隻分のコークスが不要となり、その分の輸送エネルギーも低減できる」(家本課長)
  日本の鉄鋼生産量は約l億トンで安定的に推移していくと考えられますが、仮に全休のコークス使用量を5000万トンとして、その4割をプラスチックで代替すれば1年間に廃棄される800万トンのプラスチックのうち、埋立、焼却処分される600万トンは全て処理できる勘定となります。計算上の数字とはいえ、高炉利用に秘められた可能性はきわめて大きいと言わねばなりません。

   

■ 「塩ビを含め年6万トン」の将来構想

 
  NKKが原料として受け入れている廃プラスチックはボトル、パイプ、板やカード類などの産業廃棄物ですが、塩ビを含む廃プラ全般の利用や一般都市ごみへの対応も含めて、同社の描く将来構想は非常に意欲的と言えます。
  「容器包装リサイクル法で全てのプラスチックのリサイクルが始まる2000年以降は、−般都市こみの利用も進めていきたいが、−般都市ごみとなると容器包装リサイクル法で高炉利用が認められるかどうかという法的な問題、そして塩ビの処理の問題が出てくる。塩ビは素材として利用性の高い樹脂であり、適正処理の方法を確立して再利用していく社会のシステムを作ることが何より大切なことだが、この問題については、塩化ビニル環境対策協議会、(社)プラスチック処理促進協会と共同で行う高濃度塩ビ廃棄物の高炉利用に関する研究が進んで脱塩化水素技術の実用性が確認されれば、塩ビを高濃度に含む廃プラスチックでも十分処理可能なシステムができると思う。後は再商品化の手段として高炉利用が認められるかどうかという法律の問題が残るだけだ」と、廃プラスチック高炉原原料化チームの根本謙一課長は言います。
  2000年以降は20万トン規模のシステム建設も計画しているとのことですが、それまでは産廃系の廃プラ利用を進めて、共同研究が終了した後は塩ビを含め年間6万トン程度の処理を行いたいというのが当面のNKKの構想のようです。塩ビの高炉利用の研究に大きな期待がかかります。