1997年3月 No.20
 

 日本ビニル工業会PVC環境問題視察団報告から

      情報活動やリサイクルシステムづくりに業界が団結、塩ビの将来にも強い自信

  日本ビニル工業会・一般フィルム部会の欧州視察団が、昨年10月18日〜27日までの10日間、ドイツ、スイス、ベルギー、フランスの欧州4カ国を訪れ、塩ビのリサイクル動向などを調査してきました。このほどまとめられた報告書から、欧州における塩ビ環境問題の最新動向をご紹介します。

  視察団のメンバーは三菱化学MKV(株)産業資材事業部の永井一史氏を団長とする一行8名。主な訪問先は1.ドイツの廃棄物回収・分別業者フィッシャーリサイクリング社、2.包装廃棄物リサイクル専門会社DSD社、3.塩ビ床材のリサイクル共同体AGPRと塩ビ屋根材のリサイクル共同体AFDR、4.塩ビと環境問題の研究会AGPU、欧州最大の塩ビ原料・加工メーカーEVC社、ECVM(欧州塩ビ協会)などで、その合間にはドイツのフライブルグ市森林局との懇談、プラスチック製品や環境・安全技術の国際見本市見学なども日程に加えられました。

 

●  経営危機を脱出したDSD社

  DSD社とフィッシャーリサイクリング社は、包装廃棄物の回収・分別システムの実態調査を目的に訪れたもので、DSD社では、契約企業の中にライセンスマーク(緑のマーク)の使用料金を支払わないところが多く一時財政危機が伝えられていたものの、その後、契約内容の改善、メーカーを監査する権限を持つ監査人の設置などによりマークの運用をコントロールできるようになったため、現在は順調に経営を続けている様子を見ることができました。
  現在同社とライセンス契約を結んでいるメーカーは包装材メーカー全体の80%(17000社)で、プラスチック包装材については、回収率が80%、このうち約80%が再利用のために分別されており(包装廃棄物規制令における規定はプラスチックの回収率80%、分別率80%)、分別されたプラスチックの30%がマテリアルリサイクル、残りの70%が油化(7万トン)や高炉の原料(コークスの代替)として再利用されています。
  また、塩ビ包装材は塩ビ使用分野の4〜5%しか含まれていないとのことです。ドイツにおける塩ビの需要は建築・建材の用途が主であり、これらについては後述するAGPRやAFDRのような業界団体、あるいは建設業界がリサイクルシステムをつくって独自に対応を進めています。
  なお、フライブルグ市のフィッシャーリサイクリング社は、DSDとの契約により包装廃棄物の回収・分別を担当する会社で(一部産業系のごみも含む)、今回の訪問では膨大な量のごみを人海戦術で細かく仕分けていく作業が視察団の一行に強い印象を与えたようです。


 

● 冷静な情報提供活動で塩ビ批判に対応

  塩ビ製品のリサイクル共同体であるAGPRとAFDRは、そのリサイクル活動の実態と環境問題への対応を知るために視察先に加えられたもの。いずれの団体も、欧州各地から持ち込まれてくる使用済み製品を粉末化してバージン原料に混ぜるなどしてリサイクルに取り組んでおり、AFDRは4000トン/年、AGPRは5500トン/年の処理能力を持っています。
  興味深いのは、これらのリサイクル活動が「塩ビはリサイクルできない」といった誤った塩ビへの批判に対する技術的な反証として実施されており、ビジネスではなく一種の広報・PR活動と位置づけられていること。視察団のメンバーの1人は「採算を度外視して塩ビがリサイクルできることを訴えている姿勢に生き残りをかけた塩ビメーカーの必死の意気込みが感じられた。関係業界が協力し合い環境問題を広く大きくとらえている点が非常にホジティブだと思う」と印象を語っています。
  上部団体であるAGPUは主に広報・情報提供活動を担当しており、資金を投入してダイレクトメールや制作物を発行し、消費者、研究者、マスコミ、政治家、行政担当者をはじめ加工業者、工業界などに向けたPR活動を展開しています。また、ダイオキシン問題などについても学者や第三者機関をまじえてきちんとデータの分析・収集を行っており、こうした冷静な情報提供活動の結果、「5年前に比べて、感情的な塩ビ批判論にも堂々と反論できるようになったし、ドイツでは塩ビバッシングは沈静化してきている」(AGPU担当者)とのことです。

● 塩ビ市場は安定的に成長

  EVC社とECVMはともにベルギーにあり、今回の訪問では欧州における塩ビの需要動向や塩ビに対する行政対応の実態などを知ることができました。
  EVC社のデータでは、欧州の塩ビ需要は1990年代初頭まで減少傾向にあったものの、93年から増加に転じ、95年にはピーク時(1988年)の90%まで回復しています。欧州における塩ビの用途は60%がパイプなどの耐久材ですが、同社では「窓枠などを中心に今後塩ビは年率1〜2%の伸びで安定的に成長していく」と予想しています。
  一方、ECVMによれば、欧州における塩ビ規制法としては「スイスが飲料水のボトルに使用禁止を定めているだけで、そのほかドイツで公共の補助を受けている建物に塩ビ窓枠を使用規制する条例を出している自治体もあるが、全体の1%にも満たない」とのことです。ECVMの担当者は「日本に入ってくる情報は偏っていのではないか(ケルン市近郊のレバークーゼンで塩ビ使用禁止の条例が制定されたなど)」として、産業界の連携と定期的な情報交換が重要であることを指摘しています。
 
  【永井団長の談話】
  ヨーロッパ、特にドイツでは塩ビ業界が団結して塩ビに関する情報活動やリサイクルシステムを確立し、技術的、学術的なデータを整理することによって塩ビへの批判に冷静に対処しており、塩ビ関係者が塩ビの将来に強い自信を持っていることを強く感じた。
  また、DSD社はシステムの運用で失敗や過ちを犯しながら多くのことを学んできた結果、世界のリーダーシップを果たすようになった。ドイツにおける環境教育の徹底も印象に残った。今回の欧州訪問を通じ、日本における塩ビリサイクルシステムの早期確立の必要性を痛感した。