1995年9月 No.14
 
環境問題/これからの消費者運動と企業活動

  
  

 主婦連合会参与 高田 ユリ

●教職から消費者運動へ

 
  私が主婦連に入会したのは昭和25年、会の設立から2年後のことてす。薬学の専門学校を出て教職についた後、消費者運動に転じたわけですが、これは特に積極的な動機があってということではありませんでした。
  新聞記者として消費者運動を取材していた夫が、「これからの消費者は、自ら商品のテストをして、そのデータを基に企業や行政に働きかけていくことが必要になる。主婦連でそういうことのできる人を探しているから、君やってみたらどうか」と言うので、その勧めに従ってみたまでのことで、それまでは主婦連について全然知らなかったのです。
 

●商品テストに没頭

 
  当時の主婦連は実験施設もなく、初めて持ち込まれたマーガリンの水分テストも母校の実験室を使ってやった覚えがあります。それでも、テストの結果ひどい水増しマーガリンのあることが分かり、その問題を社会的に公表し改善を促したことから知らず知らずに商品テストという仕事に興味を持ちはじめました。
  その後は、主婦連にも小さいけれど試験室ができ、私も仕事に没頭するようになりました。現在では、国民生活センターや消費者センターのようなテスト設備を持った行政機関もできました。予算的な制約もあって、主婦連の商品テストの役目はほぼ一段落したというところです。
 

●転換期の消費者運動

 
  さて、今年は戦後50年という節目の年に当たりますが、消費者運動もまた大きな転換期を迎えていると言えます。
  消費者運動は、これまでもその時代時代の性格を反映して変化してきましたが(例えば、経済企画庁は昭和20年代を生活を維持するための運動の時代、30年代を消費者問題発生の時代、40年代を消費者主催の主張の時代と区分しています)、かつての消費者運動と現在の運動を比べてみると、そこにはこれまでにない大きな違いがあります。
  それは、運動のテーマが国際的な広がりを持つようになっているということです。安全性、価格、情報問題など、消費者が国際的な連帯を深めていかなければならない問題が山積しているのに、一方では消費者運動の世界にも南北問題といった連帯を阻む壁が立ち塞がっています。
  そんな状況の中で、これからの私たちの運動はどうあるべきなのか、言わば鋭い刃を突き付けられているのが現在の消費者運動の偽らざる姿だという気がします。
 

●開発と消費は表裏一体

 
  国際的な広がりを持つテーマということを考える時、私たちはその最大の対象としてやはり環境問題に行き着かざるを得ません。
  かつての公害問題は基本的には国内問題でした。私たちは日本の中で企業の姿勢を追及することで問題を解決してきました。
  しかし、現代の環境問題では世界すべての消費者が被害者になり得ると同時に、消費は廃棄を生み出すという点で加害者にもなり得るのです。これまでのように局地的かつ対立的な考え方の中からはこの問題の解決策は生まれません。
  例えば、ブラジルで行われた地球サミットでは「持続可能な開発」ということが言われましたが、国際消費者機構(CI)では「持続可能な消費」ということを謳っています。
  つまり、開発と消費は表裏一体の関係にあるわけで、環境問題は、企業対市民、南北問題といった枠を越えて、世界の消費者が何をなすべきかということを、最も切実に私たちに問いかけているテーマだと言えるでしょう。
 

●ISO14000シリーズの意味

 
  そういう中で、日本では今年、新しくリサイクル新法(容器包装に係る再商品化の促進に関する法律)が制定されました。現時点では費用負担の問題など具体的な政省令が決まっていないのではっきりしたことは言えませんが、私は法律の目的の中に「国民経済の発展」という言葉があることに疑問を感じます。
  むろん、法律がないよりはあったほうがいいでしょうが、そういう経済重視の基本理念の上に作られた法律では、本当に所期の目的達成が可能なのかということを私は危惧するのです。世界の動きは既にその先に進んでいます。
  例えば、現在、国際標準化機構(ISO)で環境管理・監査規格の設定作業が進められていることは皆さんよくご存じだと思います。私も日本側の委員として作業に参加している一人ですが、14000シリーズと呼ばれているこの規格は、1996年に骨格の部分がスタートした後、順次その他の規格も導入される予定になっており、日本の企業も待ったなしの対応を迫られることになります。
 大事なことは、この動きが「消費者は何をなすべきか」という今申し上げた問題とも決して無関係ではないということです。
 

●問われる環境意識の真価

 
  話は違いますが、あることがきっかけで私は今年から早稲田大学の大学院で社会人として「環境問題と法」という課題を勉強しています。思いがけず合格してしまって、今や法律用語の難解さに四苦八苦の毎日です。
  それはともかく、先日、比較環境法の授業の中で受講生一人一人に研究発表の機会が与えられました。私は企業の環境管理・監査の問題について発表したのですが、その中で訴えたことは、この問題が企業ばかりでなく、実は市民の環境認識、その真価をも問うものであるということでした。
  ISOは民間の自主的な取り決めであり、規格への参加は企業の任意にゆだねられています。しかし、日本の企業が対応をおろそかにすれば、今後世界の輸出市場から日本製品が締め出されることにもなりかねません。
  だとすれば、企業はこうした世界の動きに無関心であってはいけないし、企業に対応を誤らせないためには、消費者も無関心であってはならない。企業を責めるだけでなく、市民が主体的にどのような行動を取れるのかを考えなければ企業を動かすことはできないのです。
 

●まずは日常生活の中から

 
  確かに、消費者はごみの後始末といった川下の問題には一生懸命ですが、川上の問題にまで関心を持つ人はそれほど多くはありません。環境に配慮した製品より値段の安い製品のほうがいいと考える人がまだたくさんいることも、残念ながら事実です。
  では、川上に向かって私たちにできることは何なのか。そのことを考えてみる時、私はアメリカの民間調査機関CEPの取り組みが何よりのヒントを与えてくれると思います。
  CEPでは、「よりよい世界のためのお買いもの」という手引書を出版してベストセラーを記録していますが、この本は、人種や男女平等の実践、情報公開の有無、環境対応の実態など11項目のモノサシを基準に138の企業と1300銘柄の商品を分析、評価した結果を紹介したもので、市民一人一人がそれを参考に買い物をすれば、ごく日常的な行動の中で環境問題に貢献できることを考えてくれます。
  国際的な消費者の連帯などというと私たちはつい大げさに身構えてしまいがちですが、実際はこうした身近なことからまず手を着けるべきではないのか、そして、そのことが結局は川上にある企業の環境対応を促すことになるのではないかと私は考えています。
 

●プラスチック業界も環境管理を

 
  それから、企業の環境管理・監査という点では、スウェーデンのボルボ社の対応が注目に値すると思います。
  ボルボ社は「自社製品の環境破壊データを公開する」として、新車の1台1台について公然と環境仕様書を添付しています。確かに、それ自体宣伝材料のひとつなのかもしれませんが、思い切ってあそこまでやるというのは、やはりなかなか素晴らしいことだと思います。
  プラスチック業界の方々も積極的にこうした対応を取り入れるべきです。プラスチックは、軽くて使いやすく、基本的にはとても便利だけれど、廃棄しても分解しないし、何より再利用するという点で大きな問題を抱えています。言わば社会にとって痛しがゆしの製品だと言えます。
  このジレンマを解決するのは非常に難しいでしょうが、少なくとも、今後はプラスチックの使用を総量的に減らさなければならないということだけは確かだと思います。
  現在の用途を見直して、プラスチックでなければダメだという用途以外は整理していくこと。そしてそのためにも、各メーカーが社長を筆頭に社会的責任をきっちりと自覚して環境管理と監査を実施してもらいたいと思います。
 

●最大のカギは環境教育

 
  いろいろ申し上げましたが、長い目で考えると、環境問題を解決するには結局教育こそ最大のカギになるという気がします。
  アメリカでは1960年に国家環境教育法という法律ができていますが、日本では消費者教育の一環として環境教育を取り入れているに過ぎません。やはりきちんとした形で環境教育を位置付ける必要があると思います。
  昭和20年代、私たちはたくあんの着色料オーラミンの使用禁止運動に取り組みましたが、オーラミンはなくなっても人工着色した食品は依然として存在しています。その責任の一端は消費者にもあるわけで、私たちは今こそ自らのライフスタイルをどう変えていったらいいか真剣に考えるべき時にきているのです。
  環境を守るためにはどんな商品を選ぶべきなのか、意思決定と選択の能力を養う必要があるのです。そのためには、結局は急がば回れで、教育による意識の変革こそがすべての前提になるのだと思います。私たちの1日の遅れが後の世代の1年分に当たるということを知らなければなりません。
 
■プロフィール 高田ユリ(たかだ・ゆり)
  1916年、新潟県生まれ。共立女子薬学専門学校(現共立薬科大)卒(衛生分析化学専攻)。1942年、同校助教授。50年主婦連合会に転じ、日用品試験室長を経て、83年副会長、89年会長に就任。95年から現職。この間、中央公害対策審議会委員など多数の役職を歴任。消費者運動に化学分析の手法を導入し商品の安全基準・表示改善に尽力した功績は高く評価される。