2026年07月 No.127 

インフォメーション 3

塩ビとファッションが交差する場所。
「第157回プレタポルテ展」開催

 近年、ポリ塩化ビニル(PVC)はハイファッションの世界でも注目される素材になりつつあります。海外の著名ブランドがコレクションで取り上げるなど、その透明感や光沢感がファッション素材として高く評価されているのです。
 大阪・梅田に拠点を置く上田安子服飾専門学校の「プレタポルテ展」も、早くからファッションにPVCを取り入れてきた場の一つ。今年も学生たちがPVCを使ったオリジナルブランド『EDEN 01』を立ち上げ、9体の衣装を作り上げました。今回は産学官連携推進室 副室長の濵屋但先生と、制作に臨んだ学生たちにお話を伺いました。

写真:第157回プレタポルテ展

学校法人上田学園 上田安子服飾専門学校

 大阪市北区に位置する、日本有数の服飾専門学校。1941年の開校以来、独自のカリキュラム、優れた講師陣、充実した設備でファッション業界のトップで活躍するプロを育成している。企業と連携したカリキュラムなどを通じて、高度な職業教育も実践。創設者の上田安子氏がクリスチャン・ディオール氏から受け継いだ感性や技術を継承しながら、次世代のファッション界の担い手を育成している。

写真:担任の江田先生(左)、学生の皆さま(中央)、濵屋先生(右)
担任の江田先生(左)、学生の皆さま(中央)、濵屋先生(右)

2011年から続く産学連携。多彩なコラボのあゆみ

 上田学園は、業界との連携教育に力を入れてきた学校です。スポーツブランドとのユニフォームデザイン、大阪府警との自転車用ヘルメットカバーの開発、2025年の大阪・関西万博ではパナソニックと連携しパビリオン「ノモの国」のファサード素材を使ったバッグやウェディングドレスを制作するなど、その規模も幅も年々広がっています。「産学連携プロジェクトを通じて、製作現場の様子を学び、自分のデザインイメージを表現するために必要なものを身につける機会になっています」と濵屋先生は産学連携の意義を語ります。
 中でもPVC関連の産学連携は2011年より継続しており、様々な企業・団体とコラボしながらドレス・レインウェア・チャックノート・自転車用サドルカバー・ビーチサンダルなど多彩なアイテムを手がけてきました。森川ゴム工業所とのレインブーツコラボレーションは7〜8年にわたって継続。透明な塩ビのブーツの内側に、学生がデザインしたカットソー素材をインジェクション成形で一体化させるこの取り組みは、毎年全く異なるデザインで進化し続けています。こうした経験は卒業後にも生きており、上田学園でPVCコラボを経験した卒業生が就職先でPVCの特性を活かした改善提案をするなど、学生時代の学びが仕事に結びついた事例も生まれています。
 こうした長年の歩みと経験が結実する舞台として毎年大きな注目を集めるのが、上田学園の「プレタポルテ展」での学生ブランドの発表です。今年の第157回プレタポルテ展は6月12日・13日、グランフロント大阪北館1階にて開催。衣装の展示とファッションショーが行われ、学生たちがPVC素材を使って制作したオリジナルブランドを発表しました。

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ビニールハウスから生まれたブランド「EDEN 01」

 今回取材したのは、ファッションクリエイター学科オートクチュールコース3年生の学生たちが立ち上げたオリジナルブランド「EDEN 01」です。クラス内のプレゼンから選考を経て選ばれた9つの衣装がランウェイに上がりました。
 ブランドコンセプトは「透明な膜の中に存在する、儚く、静かな楽園」です。PVCを外側から身を守る「保護膜」と捉え、その内側に繊細な美しさを閉じ込めるというテーマだそう。発案した水谷花音さんは農業高校出身。ビニールハウスが日常にある環境で育ったことから、PVCが花や野菜を雨風から守る様子を身近に見てきました。そんな実体験から着想したブランドコンセプトでした。制作された衣装には、PVCの中に、色とりどりの花があしらわれています。「透明なポケットの中にお花を入れることで、小さな楽園が生まれたら。花っていずれ枯れてしまうものだと思うんですけど、透明な膜の中に一瞬の美しさを閉じ込めたかった」と水谷さんは話します。

写真:ビニールハウスから生まれたブランド「EDEN 01」

一発勝負の縫製――素材との格闘と発見

 明確なコンセプトが定まっても、実際の制作は試行錯誤の連続で、簡単なものではなかったといいます。最も苦労したのは、一度縫うと針穴が残り、縫い直しができないという点です。布なら縫い間違えてもほどいてやり直せますが、PVCは針を通した跡が消えません。「ミシン跡が残りやすく、修正ができないため、事前に縫う順番やパーツ構成を細かく調整して制作を進めました」と水谷さんはその工夫を話しました。
 一方で、PVCならではの発見もありました。布では丸みを帯びた形をキープするために芯材を入れる必要がありますが、PVCは素材自体にハリがあるため、それなしでも形が保てます。その特性を活かして、美しい曲線を作った衣装もありました。
 また「PVC同士はくっつく性質があるため、カーブ同士でもまち針を使わずに縫い進められて大変助かりました」「引っ張ると伸びるので、指で押して形を整えながら制作を進めました」と語った学生も。布にはない素材の特性が、思わぬ形で制作を助けてくれることもありました。完成後は、「見たことのない透明なバルーンジャケットが完成して、嬉しかった」「PVCの使い道が私の中でとても広がった」「塩ビシートの広がりがとてもかわいく、想像以上の仕上がりになった」といった喜びや達成感が伺える声が多く聞かれました。

写真:ブランドを発案した水谷さんと、制作した衣装
ブランドを発案した水谷さんと、制作した衣装

9つの衣装に込められたデザインと工夫

 9体それぞれのデザインも個性豊かです。
 ブランドの発案者・水谷さんはバルーンスカートを制作。PVCのハリ感を活かした丸みのあるシルエットで「包み込まれるような安心感と柔らかい空間」を表現しました。素材自体が持つ立体感と、光を通した時の美しさに、完成に近づくにつれ「PVC素材ならではの表現力」を感じたといいます。
 コルセット部分にレースを組み合わせ、土台が透けて見えるデザインに仕上げた学生は、制作前にホームセンターでPVC素材のテーブルクロスを購入。家族から「これが服になるのか」と言われたその素材が、完成するにつれ「可愛い」という評価に変わっていったといいます。身近な素材が持つギャップが新鮮な驚きをもたらした、象徴的なエピソードです。
 他にも、ランドガールをモチーフにしたトレンチコート・ワーク風のデザイン、布と一緒にPVCを縫い込んでビスチェに仕上げた作品、反射をアクセントとして効かせたシンプルながら印象的な一着、薄くやわらかいPVCを布感覚で扱ったパンツスタイルなど、趣向を凝らした作品たちが生まれました。
 「PVCで服を作るというのはあまりない経験だったと思うのですが、学生の思い切った感覚でうまくデザインされています」と濵屋先生は語ります。

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ショーを終えて。学生の世界を広げる経験

 大盛況のうちに幕を閉じたショーについて濵屋先生は「軟質塩ビを使い、各自の世界観で捉えた『楽園』をテーマに、PVCならではの特徴を活かしてロマンティックなファッションスタイルを表現してくれました。作品の展示やファッションショーでの発表を通して、PVCの魅力がたくさん詰まったデザインを提案できたのではないかと思います」と振り返ります。また、学生たちはコラボレーションを通してPVCが環境問題の観点からも優れたエコ素材であることを学びました。「ファッションの世界でもSDGsを考えることが必須になってきています。在学中にSDGsについて学ぶことで、卒業後の仕事にも必ず生きてきます」とし、「今回の経験から得たものを生かし更なる飛躍につなげて欲しいと思います」と濵屋先生は期待を込めて語りました。

若い感性が、素材に新たな命を吹き込む

 初めて向き合うPVCという素材は、学生たちに苦労をもたらしながらも、布にはない発見と表現の可能性を開いてくれました。若い感性がPVCに新たな命を吹き込み、PVCもまた、ファッションという新たな舞台で可能性を広げていく――上田学園のプレタポルテ展は今年も、その豊かな循環を示しました。

取材協力:オートクチュールコース3年
柴田菜悠さん/鶴田結希奈さん/富田眞由美さん/尚山夢乃さん/野口歩華さん/藤原志帆さん/水谷花音さん/村田心愛さん/吉川紗希穂さん