2026年07月 No.127 

トピックス 2

人にも環境にもやさしい産業を営むために。
スムーズな規制対応で業界を支える/日本無機薬品協会

 製造業において無機薬品は、製品の機能や耐久性を決定づける不可欠な素材です。自動車、半導体、インフラ設備などあらゆる用途で使われていますが、BtoBの特性から、その重要性は一般にはあまり知られていません。今回は、日本無機薬品協会 業務部長 辻本浩一氏に、無機薬品の役割や働きからお話を伺いました。直近の環境規制への対応や化学物質の開示義務の拡大など、産業の土台を支える協会の活動と、業界が見据える未来についてご紹介します。

写真:お話しいただいた辻本氏
お話しいただいた辻本氏

日本無機薬品協会

 1948年5月、戦後の再建期に、無機工業・無機薬品工業の健全な発展を図ることを目的として設立。無機薬品の製造・販売に関わる企業57社が参加し、18の専門部会を中心に活動している。主な活動として、生産・消費・原材料に関する統計調査・研究、環境安全への対応、技術委員会による年2回の講演会の企画・開催、水道協会などの関連民間団体への参画などを行っている。

産業を陰で支える無機薬品

 無機薬品とは、炭素骨格を持つ有機化合物に対し、金属元素や各種無機元素からなる化合物の総称です。「酸化亜鉛はタイヤの弾力性や耐久性、耐熱性をあげる加硫促進助剤として、亜酸化銅は船底に塗りフジツボやカキなどの貝や海藻といった海洋生物の付着を防ぐための防汚剤の成分として、それぞれ全く違う用途で使われています」と辻本氏がいうように、無機薬品は、様々な形で製品・産業を支えています。
 なかでもポリ塩化ビニル(PVC)と深く関わるのが「塩ビ安定剤」です。PVCは熱で分解しやすいため、安定剤の添加が不可欠です。安定剤を使用しないと、170℃〜180℃程度で分解してしまうため、加熱しながらの加工が難しくなります。また、紫外線により変色し、もとの性質が保てなくなってしまいます。これらの劣化を抑制するために、塩ビ安定剤が必要なのです。
 「ちょっと入れただけで透明になったり色がついたりする。何を入れているかは各社の秘伝のレシピのようなものです」と辻本氏が語るように、無機薬品の働きによって、素材の性質をコントロールするには、高い技術と積み重ねたノウハウが必要です。

多様な産業をカバーする18の部会

 協会は18の専門部会から成り立っており、酸化亜鉛・硫酸バンド・PAC(ポリ塩化アルミニウム)・活性炭・過酸化水素・バリウム化合物・塩ビ安定剤など、多彩な分野をカバーしています。扱う製品が異なれば関係する法規制も全く違うため、基本的には各部会が主体となって環境・安全対応を進めているといいます。

写真:日本無機薬品協会 70周年記念講演会
日本無機薬品協会 70周年記念講演会

 協会全体の活動として特に重要なのが、年に2回開催される講演会。大学の教授などを招き、業界の最先端技術動向を紹介するイベントです。「研究途中の、今まさに生まれつつある潮流を紹介する講演が多いですね。様々な話を聞くことで研究開発の刺激になっています」と辻本氏。電池や半導体などと無機薬品との接点を探る議論も活発で、無機薬品が最先端の産業を縁の下で支えていることを実感させます。
 また、会員企業からデータを毎月集計する会報は604号を数え、業界全体の生産動態把握にも長年貢献しています。

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生産・消費・原材料に関するデータを集めた会報

環境・安全規制の転換と対応

 活動のなかで大きなウエイトを占めるのが、環境・安全規制への対応です。工場排水については、「教科書通りに排水の処理を行っても、目的の物質を排水から除去できないことがある」という現実的な困難があります。こうした課題に対し、部会ごとに研究を重ね、官庁や研究機関と連携しながら技術改善を地道に積み上げてきました。
 直近では、2024年4月に労働安全衛生法による化学物質規制が大きく転換しました。従来の「具体的な設備導入等を義務づける」手法から、国が定める数値目標のもとで「事業者自らがリスクを評価し、曝露濃度を基準値以下に抑える」という自主管理(自律的管理)へと変わったのです。
 これに伴い、リスクアセスメントの実施が義務づけられる対象物質の数が従来の約700物質から約2,900物質へと順次、大幅に拡大されることになりました。国の検討会では毎回20〜30もの物質の濃度基準値が審議され、段階的にリストが更新されています。辻本氏は「法の制度設計や数値が固まる段階で、協会に関係する品目のデータを精査して業界の実情を意見として届けることも、私たちの重要な仕事です」といい、協会では不正確な情報がないかを常にチェックしています。これらの活動を通して、業界全体の制度対応を足元で支えているのです。

新産業の需要を取り込み、業界をリードする未来

 規制対応に追われながらも、業界の目は未来へと向いています。「無機薬品はプラスチックをはじめ様々な素材に機能を与えることができます。サーキュラーエコノミーが進む中で、そこに役立つ新しい無機薬品がきっとあるはず」と辻本氏。実際、電池や水素エネルギー分野など次世代産業においても無機薬品への期待は高まっており、新たな需要が生まれつつあります。資源を持たない日本だからこそ、汎用品の生産から高付加価値のファイン化へと軸足を移し、技術の力で世界をリードするという方向性に活路を見出しています。
 あらゆる産業の土台となり、確かに社会を支え続ける無機薬品と、それを結ぶ協会の歩みは、これからも続きます。

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