2023年12月 No.120 

特集 身近で活躍する塩ビ② レポート1

食品保存から最先端技術の開発まで
幅広く活躍するリケンテクノス㈱の塩ビ製ラップ

 飲食店やスーパーなど、色々な場面で使われているラップ製品も塩ビでできています。特に、食品用塩ビラップは、TV放送(テレビ朝日、「家事ヤロウ!」)でも、ホームセンター(CAINZ)の「超便利グッズ」第3位として紹介されました。密着性と強度、手頃な価格が注目されている非常に身近な塩ビ製品です。今回は、リケンテクノス㈱ 営業本部 食品包材ビジネスユニット ビジネスユニットマネージャー 兼 営業支援グループ グループリーダー 関根幸博氏にお話を伺い、家庭用・業務用ラップ製品の違いをもとに、ラップ製造における技術やノウハウについて説明いただきました。

リケンテクノス㈱

 1951年に設立、コンパウンドやフィルムで培った技術をもとに、1966年には日本初の塩ビ製の食品包装用ラップを開発した。スーパーマーケットなどで青果・惣菜・肉魚などの食品パックに使用される塩ビ製業務用ラップは、発売後から長年愛されている製品。食品包装の分野では、他にもポリ袋やアルミホイル・クッキングシートなど、日常生活を支える製品を提供している。コンパウンド・フィルム分野での強みを発揮し、自動車、建築、医療、情報機器、電線、生活資材などの幅広い分野の製品を手掛けている。

透明度と伸びやすさ・切りやすさが高評価の塩ビ製ラップ

 ラップの素材には、塩ビ以外にもポリ塩化ビニリデンやポリオレフィンなどが使われています。塩ビ製ラップの国内流通の割合は、家庭用6〜8%、営業用(飲食店などで使用)90%、業務用(スーパーなど食品加工で使用)70%。リケンテクノス㈱は、日本国内の業務用塩ビラップ市場で国内シェア40%以上を占めています。
 塩ビ製ラップは、家庭用、営業用、業務用といった異なる用途に合わせて、製品設計され、機能を調整しています。例えば、業務用ラップでは、他の使用場面と比べても特に水に濡れた際の密閉力を維持できたり、食品を美味しそうに見せるために高い透明度と光沢を実現しています。
 また、リケンテクノス㈱の塩ビ製ラップは、特に透明度に優れていることから、業務用市場で高い信頼を得ています。
 「塩ビ製ラップは、ポリ塩化ビニリデンなどの他素材製のラップに比べて、透明性が高く、光沢や自己密着性、伸びも良いのが特長です。さらに、適度な柔らかさは、刃での切断に向いていること(カット性)、巻き出しやすいことから、機械による自動パッケージングにも適しています。機械との適合性も重要なため、伸びや切断の容易さなども調節して製造されています」(関根氏)

写真:食品包装用 小巻ラップ
食品包装用 小巻ラップ

素材の知見と製膜技術が融合した、高品質な塩ビ製ラップの製造現場

 国内での塩ビ製ラップの製造には、押出成形の中でもTダイキャスト法とインフレーション法という2つの方法が主に使用されています。これらの成形方法によってラップの性質に違いが生まれます。
 Tダイキャスト法とインフレーション法では、縦方向・横方向の伸ばし方に違いがあり、出来上がった製品の風合い(硬さ)が異なります。メーカーでは、ラップの縦横の強度バランスを調整して用途に合わせて最適化しています。
 また、塩ビ製ラップの製造においては、樹脂に機能を付加するための添加剤の配合技術が不可欠です。配合処方を調整することで、ラップの性能や機能を効果的にコントロールしています。
 「ラップは食品に関わる製品なので、製造工程はラップ専用ラインとし、安全な原材料を採用しています。一例として、柔らかさを持たせるための可塑剤(柔軟剤)は、工業用の可塑剤は使用せず、食品衛生法に適合し、国のポジティブリストに登録された可塑剤を使用しています。材料の配合比率に加えて、製造においても、ライン速度、張力のかけ方、温度条件などを適切に調整することで、高度な薄膜化を可能にしています。それにより、伸びや切りやすさ、自己密着性、光沢などの機能性に優れた高品質で、人体にも安心・安全な製品を提供しています」(関根氏)
 なお、環境への配慮という観点では、塩ビ製ラップはポリエチレン製のものに比べて、製造過程全体を通じた二酸化炭素の排出量が少ないため、環境負荷の小さい素材でもあります。現状では、使用後のラップフィルムはほとんどがリサイクルされておらず、廃棄物として処分されていますが、製造過程で発生する端材は工場内で再利用され、材料の無駄を最小限に抑えて製造されています。

図:業務用の食品包装ラップ
業務用の食品包装ラップ。機械にセットして自動パッケージできる。

社会課題の解決に貢献するフィルム製造技術

 近未来的で高度な素材の応用においても、リケンテクノス㈱の技術は重要な役割を果たしています。
 2022年12月には、東京大学との共同研究により、グラフェンなどの極めて薄いシート状物質(0.3ナノメートル程度)の加工方法を開発。グラフェンは、次世代の超高速電子デバイスや高感度センサーなどの分野での活用のために研究開発が行われている最新の素材です。極めて小さく薄いために、持ち上げて移動させるなどの加工はこれまで難航していました。
 そのような中、大学研究室にて「リケンラップ」を用いるとグラフェン片の加工が成功しやすくなることが発見され、リケンテクノス㈱の技術を用いて、グラフェン片を取り扱うのに最適な塩ビ製フィルムを開発し、課題解決に大きく貢献しました。
 リケンテクノス㈱は、今後も独自の配合技術と製造ノウハウを活用して、より使いやすく高品質なラップ製品を開発することを目指しながら、新たな領域での展開を目指していきます。

図:本社ロビーには多彩な製品の実用例が展示されている
本社ロビーには多彩な製品の実用例が展示されている

 「これまで当社のラップ製品は、消費者に近いところで多く利用されてきましたが、将来的には市場全体の課題にソリューションを提供したいと考えています。
 具体的には、作物の収穫から搬送、市場への供給などのサプライチェーンでは、ラップ製品を使用して衛生的に鮮度を保つことでフードロスを削減。搬送中に菌を寄せつけないようにするなど、長時間の食品の保護に耐えうる製品の開発を進めたいと考えています。共同研究などの様々な取り組みを活かし、環境への配慮と技術の進歩を組み合わせて、社会課題の解決を目指していきます」(関根氏)

図:お話しいただいた関根氏
お話しいただいた関根氏