2023年3月 No.118 

リサイクルの現場から

松田産業と大同樹脂が技術提携し、
PTPシートのマテリアルリサイクルを開始

 PTPシートのリサイクルプラントが2023年4月から、岐阜県にある松田産業株式会社の関第二工場で稼働予定です。PTPシートをアルミと樹脂に分離する高い技術を活用し、これまで困難だと言われていたPTPシートのリサイクル事業が始動します。
 本事業で提携して技術開発・マテリアルリサイクルを推進している松田産業株式会社 環境ソリューション事業部 ソリューション営業部 営業課 課長 鯨井徹氏と同課 大根田剛基氏、村山達哉氏、そして大同樹脂株式会社 監査役 内田政和氏にお話を伺いました。

写真:イメージ
お話いただいた村山氏、内田氏、鯨井氏、大根田氏

高度な分離技術と不要物処理の知見が組み合わさり、PTPシートのマテリアルリサイクルスキームを実現

―松田産業さんはどのような会社でしょうか?
 鯨井:産業廃棄物の収集運搬・無害化及び資源リサイクルを行う環境事業、貴金属をリサイクルして有効活用する貴金属事業、食資源を無駄なく安定的に供給する食品事業を柱に展開しています。
 事業の根底にある企業理念は「限りある地球資源を有効活用し、業を通じて社会に貢献する」。創業から約90年に渡り、捨てられているものを資源として捉え、活用するソリューションを提案してきました。

―大同樹脂さんと松田産業さんが技術提携した経緯を教えてください。
 大根田:医薬品の製造工程においてPTPシートが大量に発生・廃棄されており、製薬メーカーへのソリューション提案として、リサイクル方法を確立する必要性を感じていました。
 そして2022年にはプラスチック資源循環促進法が施行。プラスチック製品の使用抑制に留まらず、製品設計、回収・リサイクルの推進についても指針が示され、資源として「プラスチックのあり方」が問われる様になりました。このような社会的な気運の後押しもあり、本格的にPTPシートのマテリアルリサイクルに取り組むことにしました。
 村山:イメージが具体化したのはPVC news(No.85/2013年6月)での大同樹脂さんのインタビュー記事を見て、PTPシートのリサイクル技術についてご相談してからになります。大同樹脂さんが元々保有していたPTPに特化した高度な分離技術と、当社が事業として展開する廃棄物の収集運搬・処分事業、そして貴金属リサイクル事業で取り扱って来た多種多様な「プラスチック/金属複合材」へのノウハウ、双方の知見を融合させることを目的に今回の技術提携が実現しました。

PTPシート由来の再生原料、受け入れ先を確保した理想的なスキーム

―リサイクル技術はどのように開発されたのでしょうか。
 内田:大同樹脂はもともと自動車部品の工程内リサイクルが主力事業です。
 販路開拓を模索していたところ、安定的にリサイクル原料が確保できるPTPシートに着目。2008年頃から技術開発に取り組んで来ました。
 PTPシートのリサイクルには、加熱した際の素材の状態変化を利用しています。加熱した際にアルミは収縮硬化する一方、塩ビは膨張軟化する現象を応用し、アルミと塩ビを剥離しています。
 村山:分離後の塩ビは再生材の原料として利用。一方アルミは二次合金メーカー向けの原料となる予定です。両素材共に国内資源として再利用可能な形で分離可能という点で、非常に理想的なスキームを構築できたと自負しています。
 鯨井:一般的にリサイクル事業は、最終的に得られた再生材の用途がなければ事業は継続出来ません。本事業は、再生原料の受け入れ先をあらかじめ確保しており、回収から再利用までのスキームを確立している事も強みになっています。

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回収されたPTPシートは樹脂とアルミに分離されてリサイクル

リサイクル用途拡大に向けて、さらなる技術開発を

―今後どのような展開を構想していますか?
 村山:2つの方向があると思います。1つは「一度市中に出回ったPTPの回収・リサイクル方法の構築」、もう1つは「新たな用途の開発」です。どちらも多くの製薬メーカーから強いご要望を頂きますが、特に市中品の回収については企業間の連携だけでは難しい部分もありますので、業界団体や各行政のご協力のもと、効率的な回収スキームの構築が必要だと感じています。
 また継続的に服薬が必要な患者さんのために、通院時にPTPシートを持ち込んでもらうことで服用量の確認や効果を検証したり、お医者さんとのコミュニケーションを増やしたりといったメリットにも繋がるのではないかとご相談を受けたこともありました。直接的ではないものの、患者さんの治療への支援という点では新たな価値だと感じております。
 内田:技術面では、回収量の拡大に対応できるよう、多拠点でリサイクルできる仕組みを確立していきたいですね。
 そして回収量が増えれば、色々なメーカーの異なる配合の樹脂が集まることが予想されます。まずはアルミと樹脂の分離精度を高めていくこと。そして樹脂のなかでも塩ビとそれ以外の樹脂を分別する技術開発を行っていきます。
 鯨井:PTPシート由来の再生塩ビは、添加剤が少なく純粋原料に近いので、主原料としても使用可能です。現在、PTPシートから取り出された塩ビは、主にフロア材の母材に利用する予定ですが、純度の高い再生材であるという特性を活かしつつ、製薬業界に貢献できる様な新たな用途も検討していきたいですね。

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PTPシート由来の再生塩ビ使用のフロア材