2023年3月 No.118 

特集 医療福祉と塩ビ レポート1

最高水準の品質で医療分野を支える、
住友ベークライトのPTPシート

 PTPシートは医療の維持・発展を下支えしている大切な包装資材です。日常生活で頻繁に使用されている製品ではありますが、原料に塩ビが使用されていることや、目には見えない様々な優れた機能があることは、あまり知られていません。
 今回は、住友ベークライト株式会社が製造する医薬品用PTPシートの構造や性能について、医薬品包装営業部長 堤直也氏、東日本グループリーダー 中山研次氏にお話を伺いました。

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住友ベークライト株式会社

 プラスチックのパイオニアとして培われた高度な技術力に加え、研究所での最先端分野の開発を行い、プラスチック加工業界を牽引している。現在は、半導体関連材料やバイオ製品、理化学機器、医療機器など広範囲に製品を提供。「プラスチックの可能性を広げ、お客様の価値創造を通じて、『未来に夢を提供する会社』を目指す」というビジョンのもと、サステナブルな社会の実現にも取り組む。

世界トップレベルの機能性を追求したPTPシート

 PTPシートとは、ポケットを成形したプラスチックシートに医薬品などを充填し、アルミ箔で密閉した包装材のこと。指で押して(Press)、アルミを突き破って(Through)、内容物をとりだす包装(Pack)形態からPTPシートと呼ばれています。
 1966年、住友ベークライトではPTP用途の無可塑硬質塩ビシート「スミライトVSS」を販売開始。
 世界に先駆け開発された当シリーズは、現在に至るまで半世紀以上に渡ってPTP包装材料の主流であり続けています。
 「住友ベークライトのPTPシートの強みは、高防湿性、遮光性、開封のしやすさなど、多様な機能を付与した製品ラインナップの豊富さ。プラスチックと包装に関する知識を活かし、PTPの開発のサポートや製品評価をして充填される薬ごとに最適な素材を提案しています」(中山氏)

写真:PTPシート
 

性能と価格のバランスに優れた塩ビが支持を集める

 PTPシートに使用される硬質塩ビシートは、圧延製法という方法で製造されます。主原料の塩ビに、熱安定性を向上させる安定剤や耐衝撃性を高める強化剤などを混合。熱を加えながら溶融混錬した後、圧力をかけて引き伸ばしてシート状に成形。長年のノウハウを活かした高精度な製品を提供し、医薬品業界の高い製品基準に応え続けています。
 硬質塩ビシートは、各製薬会社に納入されたあと、錠剤、カプセルが入るポケット形状に成形し、薬剤を充填。そしてアルミ箔を溶着して密封した後に、分割できるようスリットを入れて、消費者の手元に届く大きさに打ち抜いて完成。
 現在、住友ベークライトで生産しているPTPシートは7割以上が塩ビを使用したもの。PTPシートの需要トレンドとしては、塩ビの割合が回復傾向だそうです。
 「塩ビ樹脂がダイオキシン発生の原因だという風評が見直され(※)、塩ビ系原料のPTPシートの需要は復活しはじめています。塩ビが原料として支持されるのは、PTPシートに必要とされる機能を付与しやすいためです。防湿性などの機能を付与しても成形しやすいという加工性の高さも塩ビの長所ですね。
 また、PPなどの他のプラスチック原料と比べると、低い温度で加工・成形できるので製造コストも抑えることができます」(堤氏)

※ 燃焼時のダイオキシンの発生は、特定の物質の問題ではなく、燃やし方の問題(燃焼状態や排ガス処理の状況など)である(出典:ダイオキシン類対策関係省庁パンフレット(文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、環境省など))

図:PTP用硬質塩ビシートの製造工程
PTP用硬質塩ビシートの製造工程図

業界のパイオニアとして、PTPシートリサイクルの可能性を模索したい

 PTPシートの製造過程で出た端材や細かな傷がある部分は、他の塩ビ製品を製造する現場で再利用するなど、環境保護の観点からも様々な取り組みを実施。
 しかし、一度市場に流通したシートや薬剤が充填されたシートは、回収経路が確立できていないため、多くが廃棄処分されているのが現状だと言います。
 「PTPシート自体は高い安全性が要求されるため、リサイクル原料を使用するのは困難な製品。そのため使用済みPTPシートをいかに別の製品の原料としてマテリアルリサイクルを進めるか、検討する必要があります。
 今後は自社研究所で検証しながら、PTPシートのリサイクル材の採算向上を図り、広く市場に流通させる方法を提案していきたいですね」(堤氏)

写真:お話を伺った中山研次氏、堤直也氏
お話を伺った中山研次氏、堤直也氏