2020年9月 No.110 

インフォメーション 1

国産初の高意匠単層ビニル床シート『ヒトエ』

独自性に富んだ機能とデザイン

写真:ヒトエ グランザ
ヒトエ グランザ
写真:ヒトエ ファイン
ヒトエ ファイン

 東リ㈱(兵庫県伊丹市)が、2018年夏に発売した単層ビニル床シート「ヒトエ」が好調です。耐摩耗性、メンテナンス性に優れ、抗菌性能も付与するなど、インテリアの東リが技術の粋を尽くした日本初の本格的単層ビニル床シート。その誕生から現在までを取材しました。(取材はコロナ禍の影響で書面による質疑応答形式で行われました。記事の作成に際し、同社から寄せられた回答を一部編集しています)

「Made in Japan品質」を世界に

─「ヒトエ」を開発した背景と目的をお聞かせください。
 「ヒトエ」は「単層ビニル床シート(以下 単層シート)」と呼ばれる、床材の表面から裏面まで全層にわたり模様が持続する単層構造であることが特徴の塩化ビニル製の床材です。単層シートは海外の医療、教育施設や車両(電車)など耐久性が求められる施設を中心に多くの需要があります。一方、国内市場では医療施設など一部の施設において一定の需要があったものの、国産品が存在せず、輸入品に依存している状況にありました。このような背景の下、弊社は海外市場への展開と、国内市場に対する単層シートの安定供給(品質・納期)を目的に国産初の単層シートの開発に着手しました。
 国内市場では単層シートは主流でなかったこともあり、当初は必要性を疑問視する声もありました。しかし、『国内・海外市場へのMade in Japan品質の提供』という固い意志の下、2017年に開発プロジェクトが発⾜。一丸となってこの難題に取組んだ結果、海外製品とは一線を画す、独自性に富んだ国産初の単層シートの開発に至りました。

「国産」ゆえの苦労。試作回数は数え切れず

─開発で最も苦労したのはどんな点ですか。
 開発時の山場は2つありました。一つ目の山場はスタートアップの時期です。先述した通り、国産としては存在しない製品であったため、『どうやって作るの?』から『どんな製造設備が必要なの?』へと繋がる期間はまさに手探りの状態で、開発者にとっては苦難の日々が続きました。
 二つ目の山場はデザインの作りこみの時期です。開発関係者の納得のいくまでとことん色柄の作りこみを行いました。完成するまでに費やした試作回数は数百回にのぼり、指示を出すデザイン担当とそれに応える開発担当双方が心身ともに疲労のピークを迎えたのはこの時期でした。

写真:「ヒトエ」4つの特長
写真:「ヒトエ」4つの特長
「ヒトエ」4つの特長。シートの継ぎ目を目立たせない独自のジョイントシールド工法にも対応。

選び抜かれたデザイン。コンセプトは「材質感」と「深み」

─「ヒトエ」の特長と、その中で最も工夫した点を教えてください。
 「ヒトエ」は「ヒトエ グランザ」(17色)と「ヒトエ ファイン」(16色)の計2柄33アイテムの定番品と、100⾊を超える「ヒトエファイン」の特注品で構成されています。デザインを決定する際に「東リだからこそ表現できる新たな色柄表現」を目標に選定を行いました。双方の柄に共通している点は、「材質感」と「深み」をコンセプトにしているところです。特に深みの表現に関しては様々な工夫がなされています。「ヒトエ グランザ」は透明PVCチップ、「ヒトエ ファイン」は極小サイズのPVCチップを用いることで、異なる深みを表現しており、新規性に富んだ色柄表現を持つ単層シートに仕上がりました。
 機能面においては、優れた耐久性とワックスメンテナンスが不要な『ノーワックス仕様』が特長です。このユニークな特長は、製品における塩ビ樹脂の比率を極限にまで高めた「樹脂リッチ構造」を採用する等の工夫により実現することができました。

写真:ヒトエ グランザ
「ヒトエ グランザ」は、鉱石の持つ豊かな表情と繊細なコントラストが特徴(ストーングレー)
写真:ヒトエ ファイン
無地柄の「ヒトエ ファイン」は、砂のような細やかな表情と深みのある色が特徴(バーントアンバー)

─製品名の由来は?
 「ヒトエ」は漢字では『単』と書きます。単という漢字は『そのものだけであること、均一であること』という意味を持ちます。国産であることを伝え、かつ、海外でも通用する製品名として最適であるとの判断からのこの製品名が採用されました。「グランザ(Granza)」と「ファイン(Fine)」の柄名は、各柄を象徴する単語や造語を採用しています。グランザは、Grand(壮大)、Z(究極)、A(快適)を組み合わせた造語。ファインは、世界でも類を見ないFine(微細)な柄の特徴から命名しました。

空間に新たな価値を提供したい

─市場の反響はいかがですか。
 国内市場においては発売早々から注目を集め、お陰様で上々の滑り出しとなっています。採用は当初想定していた、海外製の単層シートを採用されていたお客様だけではなく、単層シートをあまり使用してこなかったお客様にまで広がっています。特にファイン柄の深みのある無地調の柄は、意匠を重視するお客様を中心に高い評価を受けており、2019年にはグッドデザイン賞を受賞することができました。海外市場については、浸透するまでは今しばらく時間が必要ですが、既に採用の決まった物件も複数あり、今後の飛躍が期待されます。

─今後の展望、展開戦略は?
 弊社の強みである開発・製造部門、そしてデザイン部門の連動性を最大限に高め、独自性を更に追求して行きたいと考えています。一言で床材と言っても、使われる国や施設により機能、デザインに対する要望は異なります。従来の床材では対応出来なかったお客様の多種多様な要望に対し、単層シートの特長を活かした製品を開発・提案することで、空間に新たな価値を提供することが出来ればと考えています。