2017年7月 No.101
 

レインコートを塩ビでアップデイト。
上田学園コレクション2017

 ステージ上に居並ぶのは、ソフト塩ビをふんだんにあしらった新感覚レインコートの数々。1月21日、大阪市のグランフロント大阪で開催された「第138回 上田学園コレクション2017」でのひとコマです。特集・塩ビとデザインの最後は、塩ビとファッション&若者の関わりに注目。時代のアパレル業界を担う若者たちに、ファッション素材としての塩ビはどんなインスピレーションを与えたのか?

●<UPDATE−ファッションは更新する−>をテーマに

屋先生   林先生<
屋先生   林先生

 塩ビのレインコートは、上田安子服飾専門学校(大阪市北区)のファッションクリエイター学科&ファッションクリエイター夜間学科の学生たちの手によるもの。同校は、学校法人上田学園が運営するファッションクリエイターの養成校で、1941年の開校以来、ファッション、アパレルの世界に多くの人材を送り出してきました。企業との連携にも熱心で、関西の塩ビ製品の加工に携わる若手経営者グループ・PVCnext(三原健一郎代表)とは、2012年以降、様々なコラボレーションに取り組んでおり、今回の「上田学園コレクション2017」でも、グループの会員会社が塩ビシートの提供や図柄の印刷などで協力を行っています。
 塩ビのレインコートの製作は、「コレクション2017」のメインテーマ「UPDATE−ファッションは更新する−」に沿って学生に与えられた課題。まさしく常識をアップデイトする試みに挑戦した学生からは「塩ビはアップデイトにふさわしい素材」「塩ビと格闘して楽しかった」といった感想が聞かれましたが(次頁)、長年PVCとのコラボを担当してきた屋但先生(産学官連携推進室次長)は「PVCの印刷性や加工性、多彩な表現力などを確認できたことで、学生のデザインの幅がさらに広がるのではないかと思う」と高評価。また、学生の指導に当たったファッションクリエイター学科の林和子先生は「全部が想像以上。もっと可愛いレインコートがあったらいいなと思って今回の課題を選んだが、私が指導しようと思っていた方向とはまた違う、より幅広い作品が揃った」と今回の成果を総括しています。

●塩ビとファッションの可能性

三原社長
三原社長

 一方、PVCnextにとっても刺激や発見があった様子で、関係者からは「最初はどんなものができるのか想像も付かなかった。実際にファッションショーを見て、塩ビでここまで作り込めるのかとほんとに驚いた」(PVC nextの黒木義明氏。クロキINC代表)、「塩ビとファッションという、一見馴染まないような組み合わせから今回ような成果が生まれたことは、塩ビの将来に可能性を感じさせる」(印刷を担当した三泉工業(株)の三原健一郎社長)といった声が聞かれました。


透明感、光、カラフル。塩ビの面白さを生かしてアップデイト(制作者のコメント)

上田 花菜 さん(ファッションクリエイター学科トップクリエイターコース1年)

 

上田 花菜
 透明な塩ビに、白のポリウレタンを組み合わせた上田さんの作品は、軽やかな雨音が聞こえるようなデザイン。
 「塩ビは透ける素材なので、下のポリウレタンのプリントと、上の塩ビのプリントを上手く合わせれば面白いんじゃないかなと思ってデザインしました。塩ビのプリントは、私が選んだ図柄をPVCnextの方に印刷していただいたもの。ポリウレタンのほうは、パソコンの変換をイメージして「私の布団が吹き飛ばされた」という言葉を、シルクスクリーンで自分で印刷しました。
 苦労したのは、縫製が難しいこと。ミシンでは縫えないので、カシメで鋲止めしたのですが、量が多くて大変でした。胸のポケットはミシン縫いで、ボタンで取り外しできるようになっています。製作を終えて、これまでにないレインコートにアップデイトできたと感じています。形も皆と違う面白い作品になりました。塩ビはアップデイトにふさわしい素材ですね。これからもいろいろな素材を使って、革新的で面白いものに挑戦したいきたいと思います」

         

松本 好代 さん(ファッションクリエイター学科夜間コース3年)

 

松本 好代
 松本さんの作品は、黒いトリコットのサルエルパンツに、レインボーカラーの塩ビが印象的なデザイン。
 「雨の日に音楽フェスに行くスタイル。雨で遊ぶイメージです。メンズなのでベースカラーは黒にしましたが、上の塩ビには、音楽からの連想で、イコライザーの波形をイメージした図柄を、染料を使って自分でプリントしました。
 塩ビは透明性と同時に光を取り込んで美しくなる。その輝きを表現したくて多面体の塩ビのキューブを繋いでマフラー風にしてみました。塩ビを使ったのは初めてですが、作っているうちにイメージやアイデアが湧いてきて、思っていたのとちょっと違うシルエットになりました。塩ビはアイデアをくれる素材だと感じます。ただ、服に仕立てるのはとても難しくて、どうしても工作しているように感じてしまって、悩みました。服って何だろう、なんて考えてしまったり。そういう意味では、デザイナーにとって塩ビは格闘する素材ですが、その格闘が楽しかった。あと、もっと薄くて軽いシートがあったらいいなと思います」

他にもこんな作品が。右端は、兵庫県多可町の播州織とのコラボで、朝日放送賞を受賞した作品(製作はファッションクリエイターアドバンス学科アドバンスコース1年の小野千穂さん。塩ビシートはPVCnextの提供)。