1993年12月 No.7
 
 

 オーネット株式会社のユニークな取り組みに見る
 『医療廃棄物処理の現状』

   今回の「リサイクルの現場から」は、これまでとはちょっと視点を変えて医療廃棄物処理の現状に焦点を当ててみました。輸血用バッグなど医療資材としても重要な役割を果たす塩ビ。それらプラスチック類のゴミを含め医療廃棄物は今どのように処理され、また、どんな問題を抱えているのか。都内初の民間医療廃棄物処理施設「アースセンター」を軸にユニークな事業を展開するオーネット株式会社の取り組みをレポートします。  

環境事業の拠点「アースセンター」、廃棄物問題克服へ行動の第一歩

 オーネット株式会社(本社=東京都中央区新川、平山信隆社長)の設立は昭和42年。当初は工事現場の残土輸送など都市土木を主業務としていましたが、その後、各種の埋め立て工事やウォーターフロント開発などに携わる中で、同社の業務は環境保全というテーマに大きく傾斜していくことになります。「特に東京都の中央防波堤埋め立てに参加して、急増する紙ゴミや医療廃棄物の処理の必要性を痛感したことが環境思考を高める契機になった」と平山社長は言います。
  一方、この間に行政面でも大きな転機が訪れていました。平成2年における廃棄物処理法改正とそのガイドラインの策定により、感染性や毒性、爆発性のある廃棄物が特別産業管理廃棄物に指定され、医療廃棄物にも厳しい排出者責任が課せられるようになったことです。こうして平成4年8月、リサイクル(再生)・リユース(再利用)・リデュース(減量化)の「3R」を企業理念に、医療廃棄物の焼却処理を中心とする環境事業の拠点として、オーネットアースセンターの操業が開始されました。平山社長の言うとおり、「環境問題を論じる時は過ぎた。
 すでに行動の時」が到来したのです。

 

■ 街に溶け込む都市型焼却施設、無公害プラントで地域への対応も万全

  一見すると普通のオフィスビルと見まがうような瀟洒な近代建築。オーネットアースセンター(江戸川区中葛西)を実際に目にする時、たいていの人は、街の眺めの中に自然に溶け込んでいるその佇まいに意外な印象を受けるに違いありません。すぐ横手には高層マンションとその中で暮らす人々の生活 −。実はこうした風景の中にこそ、アースセンターの持つユニークな特性が示されていると言えます。それは、同センターが都市から排出される廃棄物を都市の中にあって処理する「都市型の施設」だということです。
  「街中で、感染性のある医療廃棄物を1000℃もの高温で焼却処理するには地域の人々の理解と安心を得ることが必須の条件。建物のデザインを工夫したのもそのためだが、最大のポイントは、焼却による有害物質の排出を完全にシャットアウトする最新のハイテクプラントを導入したこと」と苦心のほどを語るのは同センターの横山邦彦所長。後に触れるとおり、センターには地域との融和を深めるための様々な配慮・工夫が随所に施されていますが、都市部での操業を可能としている最大の要因は、何といってもオーネットの理念に基づいて設計開発された高性能の小型焼却プラントに負うところ大と言わなければなりません。
  「特別産業管理廃棄物の処理業者は都内に約120社あるが、収集から焼却まで無公害設備を完備して一貫した事業を行っているのはアースセンターだけ」と横山所長が胸を張るとおり、ここでは電気集塵やアルカリ洗浄によって排ガスをクリーニングする一方、使用後の洗浄液は下水に流さず、プラント内で処理するようクローズド化しています。こうして「煙りも臭いも一切排出せず、大気へ放出されるのは無害なクリーンガスのみ」という徹底した無公害焼却を実現しているのです。
  医療廃棄物については感染性などの問題から容器を開封できないので、廃棄物の中のプラスチック類の構成を知ることはできませんが、プラスチック類を含む廃棄物を全く安全に処理している点で、アースセンターの焼却プラントは民間の施設としては有数のモデルケースと言えるでしょう。作業面でも安全性と自動化が図られており、技術的には「排ガスのアルカリ洗浄により生成する中和塩が廃棄物として排出されるが、これを工業原料塩などに有効利用する」ことだけが課題となっているようです。「有効利用が図られれば、処理施設の無公害性を更に向上させることができるので、関係業界の知恵を貸してほしい」というのがアースセンターの考えです。

■ 立ちはだかるコスト問題、適正処理確保へ実態見直しが急務

 
  さて、万全の態勢の下に発進したオーネットの医療廃棄物処理事業ですが、1年余を経過した今、その行く手にはコスト問題という大きな壁が立ちはだかってきました。再び横山所長の説明。「医療用廃棄物を適正に処理するためには大きなコストがかかるが、病院の中にはこのことに理解が不十分なところも多い。また、請負時には適正な処理をするとはとても考えられないような低価格での激しい受注競争になっているのが実態であり、このことが適正処理をする業者の経営を困難にしている」。こうしたコストの問題、あるいは仕組みの問題を解決するには、「病院などの関係者はもちろん、厚生、自治体などの行政関係者、マスコミの皆さんに廃棄物処理の実態を見直していただき、適正処理が確保されるようにすることが何よりの急務になっている」と横山所長は訴えます。

   

■ 数々の地域融和策、住民への環境思想普及活動も重要な取り組み

 
  前に述べたように、都市の中での廃棄物処理を可能にするため、アースセンターでは多様な地域との融和策を実施しています。工場の操業を午前8時から夕方5時までに限定しているのもそのひとつ。また、地球環境ライブラリーや熱帯植物温室の開設、地球環境教室やリサイクルバザーの開催などを通じて、住民に対するリサイクル思想の普及に取り組んでいる点にも、社会性重視というアースセンターの基本姿勢を見ることができます。遠隔地への不法投棄など産業廃棄物の安易な処理体制がしばしば問題となる中、様々な困難を抱えながらも敢えて都市の中に基盤を置こうとするオーネットの医療廃棄物処理事業。私たち塩ビ業界関係者も、しばらくはその行方に最大限の関心を払っていきたいと思います。