1993年9月 No.6
 
 

 塩ビパイプ再利用事業の現状
   浦和市・大水産業(株)の取り組みから

    前号からスタートした新シリーズ「リサイクルの現場から」。第2回は塩ビパイプのリサイクルを取り上げました。軽量で耐久性に優れるという特性から、鉛管や鉄管に代わる建設資材として生活の中にしっかりと定着した塩ビパイプ。そのリサイクルの現状と課題を、代表的企業である埼玉県浦和市の大水産業株式会社(佐藤一郎社長)の取り組みの中からレポートします。  

パイプのリサイクル一筋に20年、改めて注目集める社会的役割

  塩ビパイプの年間生産量は約50万トン。その殆どは上下水道や農業灌水用のパイプ、電線管などとして地下に埋設され、文字どおり“縁の下の力持ち”として現代社会の基盤を支えています。塩ビパイプは、一般の消費材と違って短期間で大量に廃棄されるということはありません。それでも一般家屋やビル、各種施設の建替えなどによって年間1万トン以上は廃棄処分されるのではないかと見られています。今回ご紹介する大水産業は、そうした塩ビパイプの廃材を再加工してリサイクルする仕事に20年近くも携わってきた業界のパイオニアですが、ここにきて、資源の有効利用とごみ問題解消の観点から、その事業の重要性、社会的役割に改めて関係者の目が向けられています。

 

■ オイルショック後の資源問題・環境問題に対応して事業をスタート

  大水産業が設立されたのは昭和50年1月のこと(設立時の社名は昭和興産株式会社)。ちょうど第1次オイルショック(昭和48年)の後で、石油資源の大切さが盛んに叫ばれる一方、経済成長に伴う環境破壊が大きな社会問題となった時代でした。「そんな情勢の中で、限りある石油資源を何とか有効に利用することはできないものかと考えたことが事業につながった。当時はまだリサイクルなどという言葉もなく、一種のすきま産業のように見られていたが、私には、この仕事はいずれ社会から必要とされる時代が来るという確かな予感があった」と、佐藤社長は事業に踏み切った動機を説明しています。

■ 一家総動員の経営で“新しい道”を開拓

 
  当初は、塩ビ加工の大手メーカータキロン株式会社との協力で塩ビペレットの製造からスタートした事業も、茨城県八郷町の第2工場建設など施設の整備が進む中で、次第に原料の集荷〜粉砕〜成型までの一貫生産体制が完成されていきました。やがて農業用のタイスイライト管、排水用のタイスイVU管など自社ブランドの開発にも成功、販路も関東地区から東北・北海道、甲信越へと広がり、大水産業のリサイクル事業はようやく軌道に乗り始めます。しかし、新しい道を切り開くことは決して容易なことではなかったようです。「妻が経理を一から勉強して会社を支えてくれたし、後には嫁に行った娘も手伝いに駆り出された」と、まさに一家総動員の経営体制が続く中、一方では、採算が取れずに廃業に追い込まれた同業者も多かったといいます。「慣れない仕事で妻や社員には本当に苦労をかけた。お陰で今では社長の私より妻のほうが皆から信用されているくらい」という苦笑まじりの回想の中に、パイオニアとしての佐藤社長の苦労が偲ばれるようです。

   

■ 再生パイプが生まれるまで -2つの工場軸に徹底した省力化で対応

 
  大水産業で作られる再生塩ビパイプは、バージン樹脂を全く用いない、廃材のみを原料とした100%リサイクル製品で、その製造は浦和市と八郷町の2つの工場を軸に進められています。再生までの工程を簡単に説明すると、まず原料となる塩ビパイプの廃材は主に関東地区の専業業者から集められ、一旦集荷場に保管された後、塩ビ以外のプラスチックや金属等の異物、汚れなどを除去して粗粉砕〜中粉砕にかけられます(ここまでが浦和工場)。こうして8o程度までに粉砕された原料は、次ぎに八郷町の工場に搬送され、微粉砕→ミキシング(補助材料の混合)→造粒(ペレット化)→成型という工程を経て、再生パイプに生まれ変わるという仕組みです。これら一連の作業は徹底した省力化、自動化が図られており、ミキシング工程と品質管理のみ熟練工の経験に頼っているとのことでした。

 

■ 官需参入の切り札、<PVC100%リサイクルスーパーVU管>の誕生

 
  さて、「いずれは社会に役立つ仕事という予感はあったが、今日のようにリサイクルが地球規模のテーマになるとは思わなかった」と佐藤社長も驚くほど、時代は資源の再利用へ向けて大きな転換を遂げました。リサイクルに対する社会の理解も向上しましたが、そんな中で、いま佐藤社長を悩ませている大きな問題が出てきています。「景気の後退でパイプの需要が落ち、原料や製品の在庫が滞っている。これに集荷場の借地料の高騰なども影響して相当に厳しい状態が続いている」というのです。
  こうした窮状の打開策として、大水産業では昨年以降、再生パイプの官需促進に取り組んできました。公共の分野に用いられるパイプは慣例としてJIS規格の製品に限られており、JIS規格を持たない再生パイプは民需のルートでしか使用されてきませんでした。「我々としてはJISに準ずる何らかの品質規格を通産省にお願いしているが、実現までにはまだかなりの時間がかかる」(同社長)。
 そこで考えられたのが、JIS規格に劣らない品質の向上を実現して官需に取り上げてもらおうという方策で、大水産業がこのほど開発に成功した<PVC100%リサイクルスーパーVU管>は、こうした官需への参入という再生パイプ業界の悲願を達成する上で文字どおり“切り札”となる新製品と言えます。
  「このネーミングはリサイクル製品であることを積極的に打ち出す発想でつけたもの。<PVC100%リサイクルスーパーVU管>は1年間の研究と試行錯誤の結果誕生した新製品であり、(財)高分子素材センターによる物性テストでもJIS規格を十分にクリアーできることが証明された」と佐藤社長は胸を張ります。実際、関係者の間からは「廃材だけでこれだけの製品が作られるとは驚くべきこと」と高い評価が寄せられており、この秋以降、大水産業では<スーパーVU管>を全面に押し出しながら、下水道に接続する宅地内の排水管など官需の分野での使用促進を実現するため積極的な運動を展開していく計画です。
  「我々はバージンパイプのメーカーと競合するつもりはない。両者の住み分けは十分可能であり、両者が協調連携することで初めて社会への貢献が果たせるはずだ。とにかく、資源のリサイクルが真に地球的課題ならば、行政が率先して再生パイプに道を開いてほしい」(同社長)という訴えは、すべてのリサイクル事業を推進する上で重要な問題を投げ掛けていると言えるのかもしれません。