1993年6月 No.5
 
 

 JA群馬経済連の農ビリサイクル事業
   県内排出量の65%を再生処理

    前号で農業用塩ビフィルム(農ビ)の40%がリサイクルされていることをお伝えしたように、塩ビのリサイクル事業は既に様々な分野で実際の効果を上げはじめています。今回からスタートする<リサイクルの現場から>はそうした個々の取り組みに光をあて、その現状をご紹介していこうという頁です。第1弾となる今回は、先進的な取り組みを進めるJA群馬経済連(群馬県前橋市)の農ビリサイクルの模様を取り上げてみました。  

「農家登録制度」の導入で計画回収システムを確立

  JA群馬経済連(以下、群馬県経済連)によってリサイクルされる廃農ビの量は、平成4年現在で年間約2600トン、県内の全排出量(推定で約4000トン)のおよそ65%にまで達しています。また、残りの1400トンについても、約1000トン程度が焼却処理されるほかは、稲わらのシートや畦シート、畜舎の保温など様々な形で再利用が進められおり、こうした農家自身の工夫も含めて、その取り組みには各県から高い評価が寄せられています。
  群馬県経済連の農ビリサイクル事業の大きな特徴は、平成元年度から導入された県独自の登録制度により計画回収システムが完全に機能しているという点にあります。この制度は、再生処理を依頼する農家が、それぞれの年間排出量などを農協を通じてあらかじめ経済連のコンピュータに登録しておくことで、月ごとの回収量を一定に調整しようというもので、登録証の交付を受けた農家は、経済連が立てた回収計画に従って、再生処理を行う樹脂加工センターに直接、廃農ビを持ち込むというのが原則的なシステムになっています(遠距離の農家に限ってその地区の農協が一括して搬入)。
  群馬県経済連園芸資材課の佐鳥啓二郎考査役(樹脂加工センター場長兼務)の説明によれば、「これまで農家の搬入は農ビ張り替え時期である秋に集中する傾向があり、敷地(2826u)の狭いセンターでは一時に対応することができませんでした。そこで、各戸の年間排出量を把握することにより効率的な回収を図る目的で登録制度を導入したわけです。既に県内の施設園芸農家約8000戸のうち5400戸が登録を済ませており、現在は月ごとの収荷量を150〜300トンで一定するよう調整しています」とのことですが、登録制度の採用は回収システムの構築がリサイクルを進める上でいかに重要なカギであるかを端的に物語る事例と言えるでしょう。

 

■ 自動化された再生処理ライン、技術的問題をほぼクリア

  一方、再生処理を行う樹脂加工センターは経済連から車でおよそ10分、佐波郡玉村町の一画ににあり、場内には再生処理工場とコンパウンド製造工場、そして集荷場(ストックヤード)などを備えています。 農家により搬入された廃農ビはまず集荷場に集められ、前処理(仕分け、泥落とし、異物チェックなど)の後、切断→破砕→洗浄2次破砕→2次洗浄(超音波洗浄)→分離槽(誤って混入した農ポリ<農業用ポリエチレンフィルム>等の除去)→脱水・乾燥→粉砕という工程を経て、加熱・減容化された状態か直径3〜6ミリの粒状のコンパウンドに加工されて県外の塩ビ加工メーカー数社に出荷されます。これら一連の処理は完全に自動化された流れ作業の中で進められており、前処理工程を除けば作業員(通常9人程度)の手を借りなければならない場面はごくわずかな部分に限られています。この点でも群馬県経済連の取り組みは非常に進んだ事例と言えるようです。再生処理における技術的な問題は「泥の着いた農ビを処理するため、裁断工程などで機械の摩耗が大きいことぐらい」(佐鳥考査役)とのことでした。

■ 平成5年度からは処理手数料を徴収、農家の協力促す

 
 回収品に付着した泥(平均で重量の30%程度)を、3回におよぶ洗浄の徹底で完全に洗い落とし、再生原料の品質を確保しているのが大きな特徴。再生原料は粉砕したままのフラフ状またはペレット状に固形化され、現在は大半が床材の原料としてメーカーに販売されているほか、一部は農業の散水用ホースなどにも再利用されています。
 日の丸合成樹脂工業では原料販売以外の用途開発にも極めて意欲的で、農ポリについては既に再生肥料袋や再生マルチなどに商品化されています。農ビの場合は「高品質なので原料のまま取引したい」というユーザーの要望が強いこともあって、まだ具体的な開発は進んでいませんが、将来は「地域で利用できる生産資材、農業資材」の開発に取り組みたい考えで、「地域の資源を地域に還元できるよう一日も早く提案したい」と同社の佐藤宮津夫循環型社会推進事業部長は話しています(別掲記事)。
 また、今後のリサイクルを進める上では処理コストに対する農家の理解も大きなポイントになります。現在、同社が設定している処理費は工場持ち込みでキロ30円。地域によって行政やJAの補助などがあるものの、コストの安さから埋め立て処分に出す農家もまだ少なくありません。
 日の丸合成樹脂工業の新たな挑戦は、これから大きな山場を迎えようとしています。

   

■ 塩ビメーカーは積極的に再生品のPRを、用途開発にも期待

 
  最後に、塩ビメーカーへの要望、そしてこれから取り組みを始めようとする県へのアドバイスなどについて、佐鳥考査役のお話を伺ってみました。
  「塩ビメーカーには、再生品を積極的に消費者にPRして欲しいと思います。また、当センターから出荷された再生農ビは床材、土木シートなどに利用されていますが、これ以外の用途についても積極的に開発を進めて欲しい。用途に限りがあるなら、製品の耐久性を高める技術開発に取り組むべきだと思います。農ビの耐用年数は0.1ミリのフィルムでほぼ1〜2年ですが、4〜5年まで使えるような素材が開発されれば、高齢化で張り替え作業が大きな負担になっている農家にとって大きな救いになるはずです。これから取り組みを始める県にアドバイスできることは、回収のための農家啓蒙は農協・経済連の責任でということ。とにかく楽な道ではないことを覚悟して欲しい」とのことでした。