1992年12月 No.3
 

  

  無公害システム開発の可能性を確認

  塩ビ廃棄物からエネルギー・資源の有効回収実現へ一歩前進

    「PVCニュース」第3号のトップ・ニュースは、『焼却』がテーマです。現在、我が国では廃棄物の7割が焼却によって処理されています。こうした状況の中では、塩ビ製品を焼却する際に排出される有用な資源やエネルギーを回収・再利用することも、製品自体のリサイクルと同様、極めて重要な試みといえます。エネルギー・資源回収ワーキンググループでは、社団法人・化学工学会の協力を得てそうしたシステムづくりの研究を進めていますが、このほどその作業状況の中間報告が出されました。報告はシステムの基本的な部分についての可能性を確認した段階に過ぎませんが、効率的な回収が決して夢ではないことが認められたという点で貴重な一歩といえます。  

 

「無公害焼却モデルプラント」の実現めざしシミュレーションテスト

 約60%が食塩、残りが石油からできている塩ビは、焼却すると塩化水素と熱エネルギーを放出します。これらを回収して発電や蒸気などに利用するシステム(無公害焼却モデルプラント)の基本設計を作ることが資源・エネルギー回収ワーキンググループの研究テーマですが、システムに用いられる個々の技術や焼却条件の違いで、設計の内容は様々に異なってきます(例えば焼却炉の性能や材質、1時間当たりの焼却量の多少、廃棄物中の塩ビや不燃物・可燃物の混入割合、連続運転の場合と断続運転の場合など、全部で128通りのケースを想定)。このため、それらの多様なプログラムの中から最も効率的でコスト的にも実現性のあるシステムを探り出すためのシミュレーションテストが現在進められているわけです。

 

国の環境基準はクリア、コスト面では【ガス化タイプ】の有効性を確認

  今回の中間報告には、とりあえず「焼却量5t/hr、廃棄物の組成は塩ビ30%・ポリエチレン70%(水分5%)で、連続運転を行った場合」という、最も作業しやすい理想的な条件を設定した場合のテスト結果がまとめられています。テストでは、この条件設定に基づいて、
  1.ガス化タイプ →廃棄物の前処理(粉砕、プラスチックの分離等)後、プラスチックを熱分解(350℃で蒸し焼き)して塩化水素を回収および中和(食塩に戻す)した後、焼却して熱エネルギー(電力・蒸気)を回収する方式
  2.燃焼タイプ →前処理後、直接焼却して、熱エネルギー回収と塩化水素の回収・中和を行う方式
 というふた通りの基本システムについて、シミュレーション・プログラムのランニング・テストが行われました(塩化水素の回収を行う場合と、これを省いて中和のみを行う場合など部分的な工程の違いがあるため、代表的なシミュレーションのプロセスとしては計8通りとなった)。
 
  この結果、上記の条件下では、両タイプとも国の定める環境基準を問題なくクリアできることを前提に、1.の【ガス化タイプ】が建設コスト、ランニングコストいずれにおいても、2.の【燃焼タイプ】を下回ることが確認されました。特に、【ガス化タイプ】のプロセスでは建設費が約30億円強(暫定的な試算値)、ランニングコストもトン当たり約3万円と安く、【燃焼タイプ】(建設費はガス化タイプの1.5倍〜2.5)との間に大きな開きが認められました。
 
  工程の複雑な【ガス化タイプ】のほうがコスト面で有利であるという事実は、研究に携わる者にとってもかなり意外な発見でしたが、これは【燃焼タイプ】の場合、塩化水素の回収が最終工程となるため、全工程を通じて耐食・耐熱性素材を使った処理量の大きい機械を使用しなければならないことなどに原因があるものと判断されます。なお、回収された塩化水素や熱エネルギーは、副生製品として売却されれば当然コスト低減の価値を生むものです。

より複雑な条件下で研究を継続、来年3月には最終報告をとりまとめ

 今回のテストはまだ基礎的な段階に過ぎませんが、「塩ビ廃棄物から資源・エネルギーを回収する無公害システムの開発が可能である」という基本的な方向を確認できた点で極めて重要な意味があったといえます。また、いくもつのプロセスの中からより効率的なモデルを発見できたことも、今後の研究を進める上で大きな推進力となることは間違いありません。資源・エネルギー回収ワーキンググループでは今後、先のテスト結果の再検証などを行いながら、廃棄物に土砂等が混入している場合の前処理の方法など、より複雑で多岐にわたる条件設定に基づいた研究を進めていく計画で、来年3月頃にはその最終報告を提出する予定です。