2016年9月 No.98
 

科学とアートの融合。
「だいちの星座−いばらきけんぽく座」プロジェクトに塩ビ管がひと役

旧美和小学校で行われた撮像の模様
8月11日午前11時42分、電波をキャッチ。旧美和小学校で行われた撮像の模様
 宇宙から送られてくる電波をキャッチして地上に星座を描く。まさにスペースアートとでも言うべき壮大なプロジェクト「だいちの星座−いばらきけんぽく座」が、いま茨城県で進行中。そして何と、塩ビ管が思わぬ役割を担っていました。

●塩ビ管を利用した電波反射器フレーム

電波反射器   鈴木准教授(左)とJAXAの大木真人研究員
これが電波反射器。塩ビ管と継手で組み立てたフレームに金網を張り、バンドで固定している。折りたたむことも可能。   鈴木准教授(左)とJAXAの大木真人研究員。「このプロジェクトは鈴木先生とJAXAの共同研究であり、共同のアートプロジェクトでもあります。アートと科学が融合して新しい世界を作り上げていくのが、とても面白い」(大木研究員)

 「だいちの星座−いばらきけんぽく座」は、茨城県北地域6市町(日立市、高萩市、北茨城市、常陸太田市、常陸大宮市、大子町)を舞台に繰り広げられる『KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭』(9月17日〜11月20日)の参加プロジェクトの1つ(金沢美術工芸大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同研究)。
 6市町村に設置した電波反射器により、人工衛星「だいち2号」から発信される電波をキャッチし、その反射波を「だいち2号」で撮像(天体観測などで使う言葉)して、6つの星を繋ぐ「いばらきけんぽく座」を完成する、という斬新なメディアアートの試みです。
 反射器は地元の住民が手作りしたもので、フレームに塩ビの水道管(VP16)を使っているのがポイント。製作に参加したあるお父さんは「ワークショップで娘と一緒に作りました。夏休み親子工作教室みたいで、いい思い出になりました」と作業を楽しんだ様子でした。

●塩ビ管の魅力は加工性とリサイクル性

撮像成功!
撮像成功!

 プロジェクトリーダーを務める金沢美術工芸大学の鈴木浩之准教授によれば、「以前は木製の板にアルミ箔を貼り付けた反射器を使っていたが、屋久島で同様のプロジェクトを行った時に風で吹き飛ばされそうになり、塩ビ管のフレームに金網を取り付ける構造に変更することにした。塩ビ管を使ったのは、世界中どこにでもある材料で、軽くて子どもでも簡単に加工できるから。リサイクルできるのも魅力で、どんなにいいプロジェクトでも後でゴミを出すようでは台無しになる。耐久性も高いので、参加した住民の中には、反射器をそのまま猪の防御柵に再利用したいという人もいる」とのこと。
 8月11日に行われた撮像イベントには、世紀の瞬間に参加しようと、6町村の会場に計240人が集合。常陸大宮市の会場(旧美和中学校)では、11時43分過ぎから衛星の通過を告げる電波音が流れ始め、自らも星座の一部になろうとアルミ箔を身につけた参加者は、東の空に向かって一斉に手を振っていました。
 「いばらきけんぽく座」は、今後、画像処理を経て完成し、芸術祭期間中、旧美和中に展示されることになっています。