2016年9月 No.98
 

特集/塩ビと持続可能性

持続可能な社会の一翼を担う塩ビ製品。資源の有効利用へ、新たな挑戦も

Olympic Stadium, 2012 London Olympics.
Image © Olympic Delivery Authority   Basket Ball Arena, 2012 London Olympics. 
Image © Olympic Delivery Authority
Olympic Stadium, 2012 London Olympics.
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  Basket Ball Arena, 2012 London Olympics.
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2012年のロンドン大会で採用された塩ビの膜材(左の写真)と床材

 世界のアスリートが熱い闘いを繰り広げたリオデジャネイロ・オリンピックも幕を閉じて、舞台はいよいよ2020年の東京大会へ。主要なテーマとして「持続可能性」が掲げられる東京2020大会では、各種施設の建材や備品等にも高い環境性能が求められます。そこで今回は、塩ビと持続可能性をテーマに、特集を組んでみました。

●ロンドン大会の流れを受けて

 世界最大のスポーツイベントであるオリンピック・パラリンピック競技大会。その開催はスポーツの分野だけでなく、自然環境や街づくり、さらには教育、文化、経済など幅広い分野に影響を及ぼします。特に近年の大会では、環境問題に対する地球的な関心の高まりを受けて「持続可能性」が主要な大会テーマに掲げられるようになっており、中でも2012年のロンドン大会は、持続可能性の確保を目指して運営された「史上最も環境に優しい大会」と高く評価されました。
 こうした流れを受けて開かれる2020年の東京大会でも、当然、持続可能性はメインテーマのひとつ。大会の準備・運営を担う公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)は現在、大会運営の拠り所となる「持続可能性に配慮した運営計画」づくりに取り組むとともに、持続可能性を十分に考慮した物品・サービスの調達を行うための「持続可能性に配慮した調達コード」の策定も進めるなど、サステナブルな大会の実現へ向け作業を加速させています。

●リユース、リサイクル進む塩ビ製品

■ロンドン大会で活躍した塩ビ製品。使用後は再利用のケースも

「チャンピオンの廊下」
塩ビ床材を再利用した
「チャンピオンの廊下」

 環境配慮や持続可能性を主要な理念に掲げた2012年ロンドン・オリンピックでは、リユース、リサイクルが可能な塩ビ製品が様々な場面で大活躍。
 塩ビ製のシート、床材、ケーブル、パイプなどをはじめ、デザイン性豊かな塩ビターポリンも、メインスタジアムの屋根や各種競技場の壁面、仮設テントなどに大量に利用されました。また、これらの製品の一部は、大会終了後、積極的にリユース、リサイクルされており、例えばバスケット競技場で使われた床材はロンドン市内の小学校の廊下(写真)に再利用されています。

 塩ビ製品は、ロンドン大会でも大量に使用され、閉会後にはリサイクル、リユースの事例も報告されています(右の記事)。
 さらに、日本国内だけで見ても、塩ビ管、床材、壁紙などの分野で、業界主導または市場ベースでリサイクルの取り組みが進められており、中でも、全国的なリサイクル・ネットワーク(現在の処理拠点84カ所)が完成している塩ビ管については、既に18年以上にもわたって「パイプからパイプへ」のマテリアルリサイクルが行われています。
 このように、塩ビ製品は、東京2020大会のテーマである「持続可能性」の一翼を十分に担い得る資材といえますが、ここにまたひとつ、塩ビ製のテントシートについてリサイクルとリユースを強化する新たな動きが出てきています。

●テントシートのリサイクルへ、世界初の試み

イベントテント
イベントテント

 もともとテントは、レンタルという形で再使用されることの多い製品ですが、使用済み品については殆どが産廃として処理されてきました。こうした無駄を無くし、資源の有効利用を促進していこうというのが、テントメーカーの全国組織・日本テントシート工業組合連合会(東京都千代田区神田)が取り組むリサイクル・システムの構築です。
 「テントシートは、ポリエステル繊維に塩ビをコーティングした複合材なのでリサイクルが難しい。我々の取り組みは、塩ビ壁紙などの複合材用に開発された叩解分離技術(高速回転する金属の刃で廃棄物を叩き、素材別に分離する技術)を応用して塩ビと繊維を分離し、それぞれをマテリアルリサイクルするもので、文字どおり世界初の試みとなる。今年中にシステムを完成させ、来年度から正式に稼動させる予定だ」(泉貞夫理事長)。

■日本テントシート工業組合連合会

泉理事長
泉理事長

 日本帆布製品工業組合連合会として昭和54年設立(平成6年に現名称に変更)。全国35都道府県に単位組合があり、日除け・オーニングテント、デザインテント、膜構造体などのメーカー940社が所属する。
 環境問題への対応、社会貢献などを目的に、業界の育成、組合員のスキルアップなどに取り組んでいる。

●リユース推進には関係者の連携が不可欠

 一方、同会ではリユースに関しても対応を強化していく計画ですが、東京2020大会を見据えた場合、効果的なリユースの推進には「解決しなければならない課題がある」と泉理事長は指摘します。
 「リユースを進めるには、使い終わったテントをどこにリユースするのか、何のイベントに使うのか、といったリユース計画を国や組織委員会、関係者みんなで話し合うことが不可欠で、ロンドン大会でも最初から解体後のリユース計画を作って取り組んだと聞いている。我々が望むのは、東京2020大会でも、計画作りの最初の段階から我々を議論に参加させてほしいということ。解体しやすい設計をどうするかといった問題も専門家でなければわからないことが多いが、こうした点も含めて、業界として具体策を積極的に提案していきたい」
 同会の環境事業は必ずしも東京大会に備えて始まったものではありません。リサイクル・システムの開発も開催決定前の2014年からスタートしていますが、泉理事長は「循環型社会への貢献は当会の基本方針。東京2020大会は積極的にテントを提案していく絶好の機会だ」と意欲を見せています。

テントシートのリサイクル・システム
テントシートのリサイクル・システム