2015年9月 No.94
 

モノづくりにみせられて プラスチック造形作家 当銀美奈子

「作りたい、作りたいと一心に念じると
アドレナリンがたくさん出てくるのかもしれませんね」

 1本のストローが可愛い動物やアニメのキャラクターに−。台湾の吸管工芸を独自にアレンジしたストローアートのオリジネーターとして知られる当銀さん。モノづくりを愛し、プラスチックの正しい理解を広めようと科学教育の分野でも活躍する行動派アーティストのお話は、エネルギッシュで縦横無尽の愉しさ。

●卵パックで作るPETフラワー

『プラスチックの宝物』表紙

PETフラワーやプラスチックのサイエンスクラフトを紹介した特異な手芸書『キッチンから生まれたプラスチックの宝物』(2003年、日本ヴォーグ社刊)。後に大人のアクセサリーPET'alアートとして人気を集める。

 私がプラスチックアートの世界に入ったのは娘の病気がきっかけでした。もともとモノづくりは大好きだったんですけど、闘病中の娘にネットで家庭学習させてやりたいと思って、IT教育に興味を持ったんですね。それが縁で、ボランティアとして科学教育ネットワークのサポートをするようになったのが1997年。最初は子どものための実験教室のお手伝みたいなことをしてたんですけど、やっぱり何かモノを作りたいという気持ちが強くて、科学工作の教材を考えたりしているうちに思いついたのが、卵パックで作るPETフラワーでした。
 これはプラスチックの物性を体験する教材として考案したものですが、翌年(2001年)、科学技術館(千代田区北の丸公園)で開かれた「青少年のための科学の祭典」(日本科学技術振興財団が主催する日本最大の科学イベント)の全国大会に工作ブースを出展したのが、台湾から見に来られていた先生の目に止まりましてね。「ぜひ教えに来てくれ」と熱心にお誘い頂いたので台湾まで講習に行くことになったんですけど、そのとき偶然吸管工芸と出合ったことが、ストローアートの原点になったわけです。

●吸管工芸との出合い

2007年秋、台湾国立科学工芸博物館(高雄市)で開かれた、当銀さんの特別個展「百変塑膠」のパンフレット(部分)。

 最初に行ったのは台湾921大地震(1999年9月21日)の震源地だった集集(南投県集集鎮)という街で、そこの婦人会の方々を慰問するのが目的でした。そのあと2週間掛けて台湾中を回ったんですけど、高雄市の国立科学工藝博物館で講習をした時に旗津夜市を覗いていたら、金魚とかイカとかシャチとかの形をした細工物を、縁日みたいにずらっと並べて売ってるのが目に入ったんです。
 それが吸管(ストロー)工芸でした。ちょっと前から台湾で流行り出したらしくて、作りは素朴なんですけど、みんな1本のストローで出来ているというので興味津々で見ていたら、招いてくださった先生が何個か買ってくださいましてね。それを宿に持って帰って眺めているうちに、どうしても自分でも作ってみたくなって、ひとつ解いて構造を調べてから、手持ちのストローで挑戦してみたんです。そしたらね、2時間ぐらい掛かったと思いますけど、ちゃんとエビの形が出来たんですよ。作りたい、作りたいと一心に念じると、たくさんアドレナリンが出てくるのかもしれませんね。
 ともかく、それから後はもうエビ一筋。1、2年はエビばっかり作ってました。そのうち、いろいろな人からアドバイスを頂くようになって、間違って6本足にしていたのを10本足に直したり、短かったヒゲも本物らしく長く伸ばしたりして、ストローアートの基本形が完成していきました。折り紙で言えば鶴のようなものですね。その後、恐竜とかトンボとか、アイテム数もだんだん増えてきて、台湾や韓国を含めて講習活動が忙しくなる一方、住吉大社のお守り入れ「筒守」の企画製作(2008年)、NHK教育テレビの「プチプチ・アニメ」のキャラクター製作(2009年〜)といった新しい仕事を通じて、多くの人にストローアートに親しんでもらえるようになってきました。

住吉大社のお守り入れ「筒守」

NHK Eテレ「プチプチ・アニメ」のキャラクター・びゅるる

●プラスチックの魅力は「変身の楽しさ」

 

尺取虫

 

マウス

 

カエル

 

ストローの魔女

彩色やパーツ次第で無限に進化するストローアート

 私、もともとは調理師だったんです。親戚にうどん屋があるのでちゃんと資格を取って、一時はアイデア料理づくりに熱中していました。理科の理は料理の理と同じで、理に適っていないとちゃんとしたものはできないし、どっちも、素材の特徴を活かして組み合わせるのが面白いんです。あと、化学の専門家で日曜画家(日本画)の祖父や、茶華道教授の祖母などの影響なのか、絵付けされた器や着物が好きで、和装をアレンジしたファッションショーに関わっていたこともあります。そういう今までの体験が、少しずつ混ざって今の仕事になっている気がします。
 私にとって、素材としてのプラスチックの魅力は変身の楽しさですね。ストローアートの素材になるPPはもちろん、熱を当てるとガラスみたいになるPET、発泡スチロールになるPS、硬くも軟らかくもなる塩ビと、変幻自在ですよね。比重もそれぞれ違うので、それを利用して水中花みたいな美しい作品もできます。この性質の多彩さがプラスチックの面白いところだと思います。
 ですから、プラスチックというと、リサイクルとかエコの視点で取り上げられることが多いのは、ちょっと違うんじゃないかと思うんですね。PETフラワーを作ったときも、元は卵パックだというので、ごみのリサイクルみたいに紹介されることがよくありました。リサイクルや分別が騒がれていた時代だったせいもあるでしょうが、長いスパンで見れば地球上のものは全てリサイクルなのですから、卵パックだからといってそんな見方をされるのは、プラスチックに対する偏見じゃないかと感じたことを覚えています。

●プラレンジャー登場

見事な手捌き。10分ほどで鳥が完成

 実は去年から、プラスチックへの正しい理解を広めるために「プラスチックみらい研究会」(西奈緒美会長。製造、研究、報道など樹脂に関係する人々の交流組織)の特別活動に参加しています。
 そもそもは、コラムを連載していた日本プラスチック工業連盟誌が元で、プラスチックみらい研究会の見学会に参加させて戴いたのがきっかけで、西会長に、「いい樹脂の日」(語呂合わせで11月14日)の活動を一緒にやりませんかと声を掛けて戴いたのが始まりです。私に出来る具体的な取り組みとして、今年は5種類の汎用樹脂を擬人化したプラレンジャーというキャラクターをストローで制作したんですけど、これにはちょっと苦労しました。
 子どもたちが樹脂の特徴や用途を自然に理解できるよう、各キャラクターの性格まで実行委員会で話し合って作り上げたので(上の写真)、デザインが固まるまで1ヶ月ぐらい悩みましたね。お陰様で、中央区主催のエコ祭(5月31日)での初お披露目を皮切りに、様々なイベントを通して、子どもたちばかりじゃなく、大学生などにも喜んでもらっています。

セキユ系カソ星から地球に舞い降りた5人のプラレンジャー

プラレンジャー勢ぞろい。何でもできる優等生のピレン少佐(PP)、姉弟が多くて面倒見のいいリエ姫(PE)、すぐに拗ねて膨れるポリス王子(PS)、華やかで派手なテレフ殿下(PET)、時々オネエのニール嬢(軟質)に変身するニール伯爵(PVC)と、樹脂の特徴に合わせた性格付けが楽しい。

●ウィキハウに英語の記事を執筆中

 プラレンジャーと並んで力を入れているのは、ウィキハウ(ウィキペディアの仲間のハウツー・マニュアルのサイト)に英語の記事を執筆することです。この仕事は、世界の人に日本のプラスチック工業をちゃんと見てもらいたいという思いで2009年に英語の世界に飛び込んで、簡単なストローアートの作り方から始めて、プラスチック素材を中心に、もう70本ぐらい記事を書いています。
 最初のころは、プラスチックは毒だとか、使い捨て文化だとか、欧米の人たちの偏見がすごかったんですが、私の記事が注目されるようになってだいぶ状況が変わってきたようで、最近は新しくサイトに参加してくる人たちも、いろいろプラスチック素材のクラフトの記事を書くようになっています。
 というわけで、私の頭の中はプラスチックとモノづくりのことで一杯、という今日この頃なのです。

【取材日2015.7.10】

略 歴

とうぎん・みなこ

ストローアートのバイブル
(2007年、日本ヴォーグ社)

 1954年大阪市出身。我が子の教育のため、1997年オンライン自然科学教育ネットワークのメンバーとなり、科学教育ボランティアとしてWEBサイトにキッズページ開設。子どものための工作レシピを考える中で、プラスチック・クラフトの創作と講習を始める。
 2001年、台湾で出会った吸管工芸をアレンジして独自のストローアートを完成。以後、国内・台湾・韓国で講演・展示活動を続ける一方、テレビアニメのキャラクター製作など活動の幅を広げる。
 第7回サイエンス展示・実験ショー アイデアコンテスト日本科学未来館館長賞(2003年)、第14回ホビー大賞 文部科学大臣賞(2004年)受賞。