2015年3月 No.92
 

危機を好機に。
(株)中部日本プラスチックの43年

リサイクルを軸にグローバルな活動を続ける「プラスチックの専門商社」

 様々なプラスチックの回収・再資源化、再生原料の販売、リサイクル推進のためのコンサルティングなど、「メーカー機能を持つプラスチックの専門商社」として多彩な事業を展開する(株)中部日本プラスチック(雪下真希子社長/静岡県浜松市東区大瀬町1844番地)。危機に直面するたび、業態転換を重ねることで成長し続けてきた同社の、半世紀近い軌跡をたどります。

●円高による経営危機を克服

 リサイクル事業の将来性に着目した大石保幸氏(現会長、雪下社長の実父)が中部日本プラスチックを創業したのは1971年(1975年法人化)。以後43年に及ぶ事業活動の中で、同社はどのような変遷を経て、地域のリサイクル業者から、国内外に広範なネットワークを有するプラスチックの専門商社へと変貌していったのか。雪下社長に話を聞きました。
 「浜松は昔から自動車産業とその関連資材の製造業が盛んな地域です。弊社もしばらくの間、そうした工場から出る樹脂シートの端材などを引き取り、破砕・ペレット加工して再びその工場に戻す、という仕事を続けていたのですが、20年ほど前、円高により安価なバージン材が増えたことなどが影響して深刻な経営に陥ったのを機に、工場から工場へというビジネスモデルを転換。販売網を全国に広げると同時に、リサイクル原料も各地の工場から仕入れるようになりました」

●カスタムメイドのプラスチック原料

事業の説明をする雪下社長

 美術家を目指して留学中だった雪下氏が、急遽呼び戻されて経営に参加したのもこの頃のこと。
 「小さい時から父のそばでリサイクルの仕事を見ていたので違和感はありませんでした。とにかく今の危機を乗り越えようと思って全国を歩き回る毎日でしたが、現地でお客様の話を聞いてみると、『こんな材料はないか』『こういう配合の原料ならほしい』といった声がとても多い。つまり、リサイクルがダメになったわけではなく、お客様の要望をきちんと汲み取ることができれば潜在的な需要は決して衰えていないということが分かってきたのです。お客様のニーズに合わせてコンパウンドをブレンドし直し、カスタムメイドのプラスチック原料として販売する事業に着手したのは、こうした事情に対応した結果です。同時に、工場ロス品を引き取って必要とする他の工場へ斡旋したり、リサイクル技術について相談に乗ったりといったコンサルティングも手掛けるようになりました。うちに技術がない場合は技術を持つ会社を紹介します。そういう意味では一種の情報サービス業とも言えます」

●リーマン・ショックが第2の転機に

 一方、その頃から日本の高品質なリサイクル原料を求める海外の企業が増え始めたことを受けて、同社も本格的に中国、台湾などへの輸出を開始。2001年に雪下氏が2代目社長に就任した後、2003年にはCHUBU HONG KONG(香港支社)を開設して輸出業務を積極化させますが、その5年後に発生したリーマン・ショックで再び転機が訪れます。
 以下は、大石丈治専務の説明。「世界的な不景気と円高に対応するため、輸出に頼ってきた海外展開を見直しました。中国、マレーシアなどからリサイクル原料、さらにはバージン原料も輸入して、配合を調整してから日本で販売するという事業を強化し、2008年には関東の拠点として栃木県栃木市に関東支店を開設。この2月には関西の拠点として岡山に西日本支店を立ち上げることも決まっています」

地域密着のエコロジー活動も

「アートゴミ袋」
Designed by 100% ORANGE
 地域と密着したエコ活動も同社の特徴のひとつ。特に、雪下社長の提案で発足した、人と地域と地球をつなげる「エコネットプロジェクト」では、その一環として「エコ育」と名付けた取り組みを進めており、「子どもたちにモノを大切にする心を育ててほしい」(大石専務)という目的から、ゴミの分別が楽しくなる「アートゴミ袋」や、リサイクルの大切さを楽しく学べる「エコ育 絵本」を製作して、地元のNPOに寄付したり、イベントで配布したりといった活動を展開しています。

●広がる海外のネットワーク

 度重なる経営危機を切り抜けた結果、同社の業績はここ数年で急拡大。2014年度の実績は年商74億円に達します。国内外でのリサイクル・ネットワークの整備も着実に進み、特に海外の取引相手は中国、台湾、タイ、シンガポール、インド、ベトナム、マレーシア等のアジア諸国から、アメリカ、ドイツ、イタリア等まで広がっており(計11カ国)、最近は地中海のマルタ共和国からもリサイクル原料の輸入が進んでいるとのこと。2013年には香港に続くアジアの拠点としてシンガポールオフィスも設立しています。
 なお、同社が取り扱うプラスチックの種類はPE、PS、PPなどの汎用樹脂から合成ゴムまで多岐にわたり、塩ビについても少量ながら台湾への輸出などを行っているとのことです。
 同社では、今後も海外展開を経営の主軸としていく方針で、雪下社長は新たな市場開拓にも意欲を見せています。「中国は依然大きな市場ですが、今後を考えると未開拓の地域に力を入れたい。特に自動車産業の活発なインドは関連資材の需要も大きく、これからの市場として魅力があります。ベトナムも興味深い市場ですが、海外で仕事をする上で大切なのは、うちの事業が現地の雇用、技術向上にも役立つこと。そのために弊社では、現地の会社に対する技術指導にも力を入れています」

  大石専務(左の写真)は雪下社長の実弟、写真下はリサイクル原料のペレット。

●誠実に、嘘を吐かず

 「結局当社の仕事の基本は、リサイクル材にいかに付加価値をつけて売るかということなのです。そのために、まずお客様の要望をきっちり聞く。リサイクルしてほしいのか、リサイクル材がほしいのか、原料を売ってほしいのか、原料だとしたらコンパウンドの配合なのか、そのニーズを知ることが第一です。その上で、どんなに難しい注文でもトライして、お客様が望まれるスペックの再生原料を作り上げて提供する。それは国内でも海外でも変わりません」
 誠実に嘘を吐かず、素直に顧客の要望に答え続けることで「お客様と一緒に繁栄してきた」と、雪下社長は強調しています。